6話・魔法使いとの戦闘
何体もの骸骨が俺を包囲し、握りしめた剣で貫き、切り裂こうとしてくる。
周りを囲まれ、《筋力》の低い俺では強引な突破はできない。
とは言えだ、お世辞にも骸骨たちの動きは機敏とは言えず、攻撃を避け続けることは難しくはない。
「なんで筋肉もないのに骨が動くかね」
「魔法でしょう」
「だったら別に人形でもいいだろうに、そっちの方が多分頑丈だし法や感情にも触れないぞ」
骸骨の群れの先に闇色のロープを纏ったいかにも悪の魔法使いと言わんばかりの男が一人、青白い幽鬼を思わせる光を出しながら呪文を唱えている。
「魔力ってこんな風に見えるんだな」
「《由来把握》を持っていると色でどの種類の魔法か分かるわけね」
青白い光は死霊術だ、デバフに長けているが発動や弾速のスピードが遅いので軽戦士には相性が特に悪いらしい。
魔法使いめがけてナイフを投げる。
カン!
宙を駆けた刃は子どもが後ろに隠れられそうなほどに巨大で禍々しい造形の盾に阻まれた。
大盾を持つのは鎧を纏い、戦槌を携えた巨大な骸骨。2mを超える背丈から生前は見上げるほどの巨漢だったと思わせ、優れた装備から他の骸骨とは一線を画すことが見て取れた。
弱いモンスターの群れで敵を足止めし、強力な魔法を準備。妨害されても直衛に回した強力なモンスターに防がせる。
「勉強になるわね」
魔法使いとの1対1の戦いは、相手が従える多数のモンスターと戦わなければならないわけだ。
逆から言えばそれだけやられても勝算がこちらにあるのだが。
『怨霊たちよ我が敵を屠れ、《スロータ・オブ・ゴースト》!』
遂に完成した魔法から大量の半透明な悪霊たちが放たれ、俺を襲おうと押し寄せてくる。
骸骨たちに足止めされたままでは避けきれないだろう……だから、骸骨たちがいない位置へと移動する。
悪霊の群れを目の前までひきつけ蜘蛛の糸を上に放ち天井に固定し体を引き上げる。
天井へと移動する俺を悪霊が追尾してくるが天井を蹴り跳び回避、宙にいる俺を迎撃しようと魔法使いが呪文を唱える。
肩のスリングの中身を放ち、呪文を妨害しようとするがやはり巨大な骸骨に阻まれる。が……
ぼふ
スリングから放った目つぶし薬の粉薬が広がり盾を掲げた骸骨とその傍にいた魔法使いを包み込む。
魔法使いは驚きのけぞったが呪文は中断せずに続けるのが聞こえた。だがたとえ呪文を完成させたとしても、眼が見えないのでは当てることなどできない。
「魔術師殺しのあだ名は伊達ではないわね」
「しかし、これ防ぎようがあるのか?」
「自分の遠くにいる味方に射線をふさいでもらう以外はないな。しかし、その場合は前衛を突破されて攻撃を受けるリスクが増えることになる。軽戦士から見たら重戦士は倒すことは難しいが、横を抜けていくのは比較的簡単な相手らしいしな」
話をしている間に着地、その瞬間を狙わせるためか巨大な骸骨が戦槌を振り上げて走り寄ってくる。
振り下ろされた戦槌と骸骨の巨体の下をくぐって前に出る。
これで魔法使いと俺を隔てるものは何もなくなった。
「死霊よ我が敵を……」
発動の比較的速い魔法を放ってこようとするが、それでも遅い。
≪脚高蜘蛛≫を発動、10mはあった間合いを0.4秒……一瞬と言っていい時間で0に詰める。
駆け寄りざまにショートスピアを胸へと突き刺すと魔法使いは光の粒になって消えた。後ろを見ると骸骨たちも倒れ伏し、のたうつようにして消えた。
『おめでとうございます、あなたの勝利です。再挑戦しますか』
「しない」
『了解しました、それではこれでチュートリアルを終了します』
軽戦士と比べれば楽だったとは言え、本当に難しいなこのチュートリアル。
「次は苦手な重戦士だな」
「いや、実は重戦士相手が一番簡単なんじゃないかと考えている」
「あら、その心は?」
「俺たちは人間ではない」