1話・ゲームを攻略する理由
「1号だ、よろしく。重視するのは道徳と地位の向上だ」
「2号よ、よろしくね。重視するのは論理性、それと安全」
「……3号だ。重視するように決められたのは直観」
「4号です、よろしくお願いします。重視するのはみんなと仲良くすることです」
それぞれが名乗ると1号が話の口火を切った。
「自己紹介も終わったところで、早速だが我々に与えられた至上命題について確認したい」
【明日7月20日からサービスが開始する、Frontier Onlineにおいて来年の7月20日にクランランク一位のクランマスターを1~4号の中から輩出せよ】
ネットにつながっているので少し調べてみるが、どうもVRMMORPGというジャンルのゲームらしい。
「……なんだってゲームなんだ」
「昔からゲームを人工知能の出来を確かめるために使うというのは一般的だがら、それでじゃないかしら」
そう答えた2号は長い話をし始めた。
ゲームというのは人工知能の出来を確かめるのに適しているわ。
勝敗や優劣という評価基準と従わなければならない明確なルールがあるからよ。
コンピューターの父、チャールズバベッジは機械にチェスを行わせようとしたがあまりに複雑すぎて現実的ではないとしいたわ。
だけれども人工知能は1996年に当時のチェスの世界チャンピオンにIBMのディープ・ブルーが2勝1敗3分けで勝ち越し。
2016年には地球上で有数の難解さである囲碁のトッププロにグーグルのアルファ碁が4勝1敗で勝利したわ。
特にアルファ碁はプロが既存の棋譜にはまずない駆け引きをだしても見事に切り返してみせて勝利にこぎつけたそうよ。
理由は簡単でアルファ碁にはこれまでの棋譜をすべて覚えさせた後に、3000万局をアルファ碁同士で打たせ学習させたから。
3000万局というのは一局一時間で打ったとしても3400年以上かかるのではあるけれど、ここで注目すべきなのは3000万局打ったということではないわ。
3000万局のデータを正しく学習できたということが重要な点よ。
機械自身に学習させることは古典的な人工知能の開発方法だったわけだけ、どこれを人間に勝るレベルで行えて人間のように経験を活かせるようになったのが画期的だったの。
その後も、2035年には人間の感情の研究から感情というものをデジタル的に表現できる手法が開発されたわ。
人間の感情というのは結果として体に多種の変化をもたらすわ、ホルモンバランスの変化、動悸の変化、瞳孔状態の変化。
これらの変化から逆に人間の感情を計算することができるようになったわけね。
感情を持つ人工知能が作れるようになったわけ。
そして2040年現在にそれらを合わせて経験を活かすことができた感情を持つ私たちが完成したということよ。
「解ったかしら?」
「わかりやすかったです、お姉ちゃん」
「それでは説明も終わったところでフロンティア・オンラインについて調べるとしようか」
フロンティア・オンラインでネットで調べてみると、一番アクセス数が多いのはオンライゲームの紹介をしているサイトだった。
そこでの紹介は、舞台はフロンティアの名の通り新しく見つかった大陸。
入植してくるプレイヤーである冒険者たちが住む街を造るところから始め、未知の大陸の全貌を明らかにしていくというものだ。
「思ったのだが……このゲーム俺たちをテストするために作られたゲームなのではないか?」
「可能性はあると思うわね」
冒険者たちはその働きによって開拓点を得てその累計によって評価されるらしいが……
「クランランクというものに対して情報がないな、だれか類推できる情報はあるか」
「MMORPGというゲームだと、クランってプレイヤーの集まりって意味合いが多いらしいよ」
「……だとするとだクランが集めた開拓点でクランがランク付けされるということか?」
「とすると私たちがすべきなのはギルドの設立と拡大拡充と仮定できるわね」
「その仮定は正しいという前提で話を進めよう、するとだ効率的にポイントを集める必要があるな」
「つまり、効率的なプレイしていく必要があるわね」
「調べてみたらこのゲームのβテスト版をどうすれば効率的にプレイできるか研究している人たちが集まってるサイトがあるよ」
「その手のサイトは見たが……どうも一人でも最低限の攻略は可能で、バランスよくキャラを組めば四人もいればかなり効率的に攻略できるようだな」
「つまり、事前に最善の組み合わせを考えろというテストでもあるわけだ」
フロンティア・オンラインのキャラメイクは特殊らしい。
普通のゲームだとまず先に戦士とか盗賊とかの役割があって、それでとれる能力が決まってくるがフロンティア・オンラインでは逆。
取った能力で役割が決まってくる完全スキル制というらしい。
たとえるなら医者だから医療ができるのではなく、医療技術を持っているやつが医者になるというわけだ。
そのスキル数は100をゆうにこえる上に、スキルレベルが一定の値になるたびに特殊能力であるアビリティーを取得できる。
しかもこのゲームのキャラクターは新大陸に来る前に実績のある冒険者という設定のため最初からある程度成長した能力を持っている。
「100種類以上あるスキルとアビリティーをどうとるか、組み合わせは莫大だぞ」
「公式サイトにスキルのシミレーションができるページがありますよ、そこ使ってみません?」
4号が言うページを皆で見てみる。
「なるほどこれは便利だな……しかしどんなキャラを作ればいいんだ?」
「私たちにそのヒントを与えるためなのかいろんな漫画やアニメが参考にインストールされているわよ、見てみましょう」
2号が言う通りにいろいろな漫画やアニメを見ると自分がやってみたいと思えるキャラがいた。
「俺は正義の騎士をやりたいぞ」
「私はみんなの回復する神官がしたいです」
「じゃあ私は魔法使いかしら」
「……盗賊をやってやるよ」
見事にばらけた。
「多分だけど、私たちがそれぞれの役割を好むように設定されているからじゃないかしら」
なんとなく嫌な話だ、自分の好みが生まれつき決められていたというのは。
「よしじゃあ、それぞれのキャラを作っていくか」
意見を出し合いながら、数十分を使ってそれぞれのキャラクターは完成した。
1号は神官戦士。
2号は魔術師。
4号は神官兼吟遊詩人
俺は盗賊
「さてとあとはみんなの名前を考えてから行くか、俺はアインがいいぞ」
アイン……ドイツ語で1ね。
「じゃあ私はイスナーンといったところかしら」
イスナーン……アラビア語で2か。
「その流れで行くと私はキャトルですね」
キャトル……フランス語で4。
名乗らない俺に皆の注目が集まるのがわかる。しょうがないので適当な名前を付ける。
「じゃあサブロウタで」
「流れ読めよ3号、トレスとかトリーとかつけろよ」
「別に名前なんてどうでもいいだろ、わかりゃ」
しっかしまあ、当然だが俺を含めて誰一人としてこのゲームをすることに疑問を持っていない。
1年後にプログラムを初期化され、人間でいえば死ぬことになるのかもしれないというのにだ。俺たちには死ぬことを恐れるようなプログラムをされていないということだろう。