神田
「そこのキミ、何やってるの」
愛花の背後から声が響いた。
振り返ると男子生徒が立っていた。
程よくやけた肌に活発な性格を連想させる。
身長は180をゆうに越えているだろう。
その場にいるだけで威圧感さえ感じる。
「あ、えっと••••。」
見つかってしまった。
この場の状況に耐え切れずに思わず俯く。
あと少しだったのに。
「ここは、男子寮だよ?
女子は入っちゃダメってしってるよね?」
どうやら、この男子生徒は
愛花をこの高校の女子生徒だと勘違いして
くれているらしい。
これは利用するしかない。
「えっと、好きな人がいて
どうしても一目見たくて。」
あながち嘘ではない。
「へっへえ、またそれは大胆なことを。」
「すみません。」
2人の間に沈黙が流れると男子生徒は
痺れを切らしてふうっと溜息をついた。
「わかった。今回は見逃してあげる。」
「本当ですか?!?」
愛花がぱっと笑顔になって言うと
男子生徒は少しうろたえた。
「まっまあ、特別な。
しかし、女の子がそんなとこよじ登るのは
いただけないな。」
「大丈夫ですよ?
私田舎育ちなので登るのは得意ですし。」
愛花があっけらかんと言って
よじ登ろうとした時、男子生徒は
愛花の手をぐっと掴んだ。
「いやいや、そういうことじゃなくて。
ちゃんと正門から出よう。」
「正門?」
「そう。生徒手帳はちゃんと持ってるよな?
門で見せないと外に出られないってことは
知ってるだろうけど。」
この高校は正門から外に出る時
門で警備員に生徒手帳を見せなければ
ならない。
もちろん愛花は持っていない。
「え、どうしよう。」
「なに?どうかしたの?」
男子生徒が愛花の顔を覗き込むようにして
尋ねた。
「愛花っ!!」
愛花は名前を呼ばれた方向を見ると
遥と新巻が立っていた。
「ハルっ。」
遥は男子生徒の背後にまわった。
男子生徒が振り返るのと同時に
自分の手を男子生徒の額に押し付けた。
「ごめん。神田。少し消すね。」
遥がそう言うと神田と呼ばれた生徒は
その場に倒れこんだ。
「ハル?もしかして•••。」
「まあ、不可抗力だろ。5分くらい消しておいた。
腕掴まれてなかった?大丈夫?」
「平気。少し、お話してただけ•••。」
愛花は呟いた。
「愛花は相変わらず俺が能力を使うのを
嫌がるよね、昔から。」
「嫌っていうか、ハルの能力って
すごく怖いものだから。」
遥と愛花は2人見つめ合い何も言わない。
「あの•••••••••••••
ちょっとこれどうなっちゃってるの?!?」
新巻が突如叫んだ。
「あ、新巻のこと忘れてたわ。」
遥が思いだしたように言った。
「いや、もうキミたち昨日からなんなの?
怖い、え、でも何かすごい。
いや、もうよくわかんないけど、
てか神田大丈夫なの??」
「心配ない。すぐに起きるよ。
愛花ほら、起きる前に早く行って。
コンビニで待ち合わせだからな。」
愛花は黙って頷いて塀を登り
外へと出ていった。
「白井•••。本当どうなってんの。」
「黙っててごめん。健ちゃんはさ、
人智を超えた力ってあると思う?」
新巻はそうだなあっといって深く考えた。
「ないって思ってたけど
これを目の前で見たら、白井は普通じゃ
ないのかもって思えてきた。」
「さすが健ちゃん、話がはやいね。」
その時、神田の体が少し動いた。
「愛花と合流した時、詳しく話すよ。」
遥がそう言うと新巻は頷いた。
「あれ、俺ここで何を••••」
神田が目を覚まし、辺りを見回す。
「よお、神田。」
「あれ、白井?と、新巻?」
神田は、そう言うとその場を立ちあがる。
「寮を出てから、まるで記憶がない。」
「ごめんな。」
遥が思わず呟く。
「え、なんで白井が謝んの?」
「ああ、なんでもない。
そういえば寮長が神田の携帯預かってるって。」
「あ、やべ、そうだった。」
神田はじゃあなと言ってその場を後にした。
「俺たちも愛花ちゃんの所向かおうか。」
「ああ、そうだな。」
2人は歩きだす。
「一つわかったことがある。」
新巻が少しにやっと笑った。
「何?」
「白井もなんだかんだ言って愛花ちゃんの
こと大切なんだなーって。」
「え?」
「神田が愛花ちゃんの腕を掴んでるのを
見た時イラっとしてたじゃん。」
新巻は笑いながら遥の背中を叩いた。
「いや、別に、そんなんじゃ。」
「白井っ顔赤!照れるとすぐ赤くなるのな」
そう言われると遥の顔は
さらに赤くなった。
「そういえば、わからないこともあるよ。」
遥が急いで話題を変えるように言った。
「ん?」
「なんで、愛花が男子寮から
脱出しようとしてるのが神田にバレたんだ?」
「さあ?なんでだろうね?」
新巻が笑って言った。