まあ、とりあえず
「ハル、消すの?私の記憶を。」
愛花がそう言うと遥の手は愛花の額に触れる寸前に
ぴたりと止まった。
2人の間に気まずい沈黙が流れた。
夜の暗さがよりいっそう二人を暗くさせる。
愛花が遥の目をじっと見つめると遥は目を伏せた。
その時電話の着信音が響いた。
「あ、俺の携帯だ・・・。」
遥がそう言い電話にでると
電話の向こうで同部屋の新巻の声が響いた。
「白井?今どこ。もうすぐ寮長が見回りにくる時間だけど。」
「え、やっべ。もうそんな時間?」
腕時計で時間を確認すると思ったよりも時間が過ぎていた。
寮長は怖くて有名。
こんな時間に外に出ていることがばれてしまうと
ただではすまされない。
今すぐにでも帰らないと見回りにくる時間に間に合わないが
こんな時間に愛花を一人置いておくことはできない。
ましてや、よくよく考えると首都圏の電車はまだ走っているが
島行きの船はもう今日は運行していないだろう。
どちらにせよ愛花に今、島に帰ってもらうことは
叶わないのである。
「わかった。今から走って寮に帰るよ。」
「急げよ~コンビニに買いに行かせたのは俺だから
俺まで罰をくらうことになる」
「ああ、わかってるって。じゃあな。」
遥が電話を切ると愛花は不安そうに遥を見つめた。
「愛花。もうおそいし
とりあえず今日は俺と一緒に寮に帰ろう。」
そう聞くと愛花の顔はパッと明るくなり
2回嬉しそうに頷いた。
「時間やばいから、走るぞ。」
遥が走り出すと愛花もつられて走り出した。
二人の影は月に照らされ輝いていた。
遥が後ろを振り返ると愛花と目があった。
愛花がふわりと笑うと遥かの気持ちは安らぐのと同時に
罪悪感に苛まれるのであった。