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chapter2.12

「西方第一地区、三咲組05番。連絡は聞いてるよ。長旅だったな! 怪我はないか?」

「はい、ありがとうございます。大丈夫です」


 無事南口から街に入ったユキは、霞夏かなに案内され街の内側から検問に立ち寄り、検問内の個室で担当の兵士から検査を受けていた。

 小さな街だからなのか、気さくに接してくる軍人に少し戸惑う。

 三咲組が所在を置く第一地区は街の規模も大きいため、検査は厳しく時間もかかるのだ。

 

 新国道の整備と新国道上の検問の設置がある程度整った数年前から、車で街間を移動する業者や一般人もいる。

 現在は定期便と呼ばれる軍車両の護衛が付いた街間移動バスがあるが、運行は週に一回程度であり新国道上に多数設置された検問全てで検査を受けるため移動も遅い。

 しかしそれ以前は軍車両数台で定期的に物資を移動しており、当時一般人が移動するためには、正当な手続きを経て許可を受けた後、移動する軍車両に護衛されつつ車で同行したり、軍車両に同乗する事もできたがあまり一般的ではなく、やむを得ない事情以外で利用する者はほぼいなかった。

 以前に比べれば飛躍的に便利になったが、現在も新国道は各行政区の主要な街を辛うじて結んでいるだけで、霞夏の住む第三地区のような小さな街まで伸びているわけではなく、街間の移動はまだまだ気軽なものではない。

 

 それ故今回のユキのように徒歩で街間を移動した者に対しての検査は厳しいのもなのだが、所属が明確なサーヴェイアである事と三咲組からの事前連絡、更にこの街のサーヴェイアである霞夏の同行があったため、検査は簡単に済んだ。

 対応が友好的なのは、やはり同じ町の住人である霞夏のおかげだろう。

 簡単な手続きと質問、装備やバックパックのチェックが終わると、ユキはあっけなく解放された。

 もっと時間がかかると思っていたユキは拍子抜けした気分でバックパックとヘルメットを含めた装備品を受け取り、暫く被る必要のないヘルメットをバックパックに付いたフックに固定する。

 警戒もされていないらしく、監視が着くこともないまま検問内の通路を通り検問を警備する数人の軍人たちに挨拶をして屋外へ出る。


 そこには待っていてくれたらしき軽装スーツのサーヴェイアが、検問からほど近い石造りの塀に寄りかかり、腕に乗る鷹に何やら話しかけていた。

 ヘルメットを脱いで足元に置いている霞夏は、出てきたユキに気付くと塀に凭れていた身体を起こして迎えた。

 同時に弥七やしちはユキをジロジロと睨みつけている。


「早かったな。もう少しかかると思ってたよ」

「俺もそう思ってたんですけど多分、宮司みやじさんが一緒だったからでしょうね。助かりました」

「ん。なら、行くか」


 言葉少なく、素っ気ない対応の霞夏は足元のバイザーが開いたままのヘルメットの顎部をバッグを引っ掛けるように肘にかけ、街の方向に先行して歩き出す。

 肩にかかる程の短めの髪はヘルメットを身に付けるせいで付いた癖なのか、後ろ髪の毛先が外向きに跳ねている。色素がやや薄いのか、光にあたると灰色がかって映るのだが、その印象は腕に乗りこちらを伺う熊鷹 弥七の特徴と似通って野生的だと感じさせる。

 

 林でいきなり姿を現した霞夏は少し慌ててはいた様子だったが、声や言葉、身のこなしなどに浮ついた雰囲気がなく、何より特異な装備を当然のように身に付けていたことから、ある程度熟練したサーヴェイアだと思い込んでいたユキはまだ少女の面影を残す霞夏に、はっきりとは説明できない違和感のようなものを覚えた。

 何となく霞夏の後ろ姿を視界に入れつつ後ろを歩くユキは、霞夏の肩越しにこちらに鋭い視線を向け、声を立てずに嘴を開く弥七と目が合う。

(いや、別に悪気はないんだけど……)

 頼もしいボディガードがいたものだと思うユキは、一葉かずはに近づく兵士に喰ってかかった稲葉いなば 小太郎こたろうを思い浮かべ、こみ上げてきた笑いを噛み殺していた。


 西からの弱い風に、うっすらと感じられる潮の香り。

 霞夏のやや後ろを歩くユキは、砂利の多く混じる道に多少の歩きにくさを感じつつ、道の傍らの木立の葉が揺れるのを見ながら薄ぼんやりと懐かしさを感じていた。


「私の家は検問から近いんだ。……車じゃなくて悪いな。少し休んでもいいんだぞ」

「ああ、大丈夫ですよ。検問で休めたし」

 不意に振り返り、言葉をかけてきた霞夏に少し驚いたユキだが、言葉は素っ気なく思えるものの気遣ってくれる霞夏に好感を覚える。

 人を寄せ付けない秘境を単身旅してきたのもあるだろうが、霞夏はもちろん検問の兵士にまで怪我を心配され、長旅を労われたのは余所者のユキにとっては嬉しいものだ。


 20分ほどそのまま歩いた二人の前に簡素な造りの物置らしき小屋や、鉄材が使用された頑丈そうなガレージが映る。

 奥には住宅も点在するようだ。いよいよ第三地区の居住区の入り口に到着したようだ。


「あそこを登れば私の家だ」

 いくつかの建築物を素通りした霞夏は、右手奥に見える小高い丘を指さした。

 

 幅は小さいが規則正しく組み合わされた石造りの階段には、周囲に生えた樹木の豊かな葉をつけた枝が緩やかなアーチのように覆う。

 枝の切れ間からは、木々が作り出す影に穏やかに揺らめく光線を落とし、樹木の足元の薄暗い木陰に切り取られたような下草の緑が輝いている。

 太陽は、あと数時間で南中に到達するだろう。



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