chapter2.11
「それにしても、鷹を連れてるサーヴェイアって珍しいですね」
「ああ、そうかもしれないな。まぁ、私は元々はハンターだから」
「なるほど。じゃ、ハンターは辞めたってことですか?」
「いや……この街は小さいから、どちらも人手不足なんだ。両方やっているよ」
「それはすごいですね。大変でしょう?」
「……別にすごくない。大した仕事もないし……」
普段よりも少し、低い声で小さく口にした台詞は尻つぼみに更に小さくなる。
ユキは素直に感心しているのだが、すっかり劣等感を抱いてしまった霞夏はそう言われても嬉しい気持ちにはなれず、むしろ自分が薄っぺらく感じてしまうのだった。
無線で会話をしながら霞夏に伴われ林を抜けると、徐々に傾斜がきつくなる丘を通り、横倒しの丸太を並べて組まれた階段に辿り着く。
簡易的にも見えたが金属製の杭を打ち込んで止められており、かなりしっかりした造りだった。
これも街を良くしようと、住民が力を合わせて完成させたものだろう。
そう考えながら霞夏の後に続くユキの目に、丸太を規則的な幅で地面に打ち込んで作られた境界線が映る。
丸太の階段を上り切り、霞夏に続いて境界線を越える――旅の目的地、西方第三地区の地区内に到着したのだ。
無事、今回の旅の折り返しを迎えることができたユキは、思わずヘルメットの中で安堵の溜息を漏らす。
しかし境界線を越えたとはいえ、目指す南口はまだ数㎞は先である。
境界線の内側はなだらかな丘の斜面が下っており、見通しの良い平地が続き、南口の手前には川が流れているようだった。
「……長旅、ご苦労様。少し休むか? 街まではまだ歩くぞ」
霞夏はそう言ってみるが、自分に対して何だか白々しい気分にもなる。
とはいえ、怪我もなく到着してみせた同業者に敬意を払わないのは、やはり自分が間違っていると感じるのだ。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
答えながら視界の良い周囲を見渡す。
境界線の内側は平坦な地形に木材や石材で人工的に造られた起伏があり、川と思っていたのは視界を横断するように引かれた水路であり、そこには小さいが橋が架かっていた。
ユキの様子に気付いた霞夏は簡単に説明を入れる。
「この街は正面の検問以外から車では入れないんだ」
「……そうみたいですね」
山間部に在り街の外周を森に囲まれたこの街は地形的に険しいが、住民たちはその地形を利用し外部から容易に侵入できないように整備していた。
正門から南口へは地形の起伏と密度の高い樹木で車での迂回は不可能。
そこからつながる南口から境界線までのこの平地を伐採して野生動物の生息域を街から遠ざけ、人工物と水路で街に接近する導線を限定している。
そして境界線の外はユキが登ってきた岩谷と霞夏が利用している迂回ルートの他に街に近づく手立てはない。
自然環境を利用した町の造りに感心するユキ。
「南口に着いたら検問に案内する。本当はすぐ家に連れて行ってやりたいけど……」
「いえ、決まりですからね」
許可無き者が立ち入るだけでも犯罪となる危険地域。
この街に限ったことではないが、危険地帯を通り移動した者が検問で検査を受けるのは当然である。
正面から街に近づいたなら巡回している軍車両か、警戒のため要所に設置されたセンサーや監視する兵士のスコープの何れかには発見されるだろうが、境界線側はどの街も地形的に容易くは侵入できないことから手薄ではある。
しかしそこも素通りできるというわけではなく、自治隊員が見回りのため巡回している。
ごく最近までは境界線警備はあまり頻繁には見回っていなかったのだが、先日起こった第一地区での検問の攻防は各行政区に、より警戒を厳しくさせるには充分すぎる出来事だった。
遠目に伺うことができる南口は、街の南側を囲うように石造りの低めの塀が築かれており、塀の上には金網が設置され閉塞的な雰囲気も見えるが、それらがない第一地区と比較すれば、住民にとって安心ではあるだろう。
ユキはバックパックを軽く背負い直し、僅かに先を歩く霞夏に遅れないよう歩みを進めた。




