表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/105

chapter2.07

(……もう、戻ろう)

 自分よりも優れた人間を素直に讃えることもしようとしない自分、自分が望んでいた境遇に身を置いている誰かを羨むだけで何もしない自分に嫌気が差して、先に街に戻ろうと思った霞夏かなは、いつの間にか打ち付けるハンマーの金属音が既に聞こえなくなっていることに気づく。


(まさか……)

 考えるより早く樹木の影から顔を出し、崖の方を見てみる。


 そこには崖との戦いを終えた一人のサーヴェイアが既にバックパックを降ろし、楽な姿勢で座り込んで登ってきた崖から見える景色を眺めているところだった。

 無事に登り切っている姿に安堵しつつ、今振り返られると見つかるかもしれないとすぐさま頭を引っ込め、ギリギリで自分の視界を確保できる程度だけ頭を出す。

 少し離れたところからだが、まだ乱れた呼吸で上下する身体は大きくはない。しかし背中から肩周りの曲線は力強く、見た目以上に逞しく感じた。

 

(あの装備でここを登れるんだから、相当鍛えてるんだろうな)

 呼吸が整ったのか、サーヴェイアは立ち上がりこちらに向き直ってヘルメットを脱ぐが、視線はこちらに向いていない。見つかったわけではないようだ。

 少し長めの髪は汗で濡れ、まだ幼さも感じる顔にはさすがに疲れが見えた。


(……特に怪我もしてないみたいだ)

 バックパックからタオルと水筒を取り出し、少し濡らしたタオルで顔を拭くと、タオルを首にかけたまま水筒の水を飲み、腕のセンサーを確認している。

 時間や方位の確認だろう。


 

 大きく羽ばたく音と共に霞夏の前方の樹木の枝が一斉に揺れ、茂る豊かな葉が擦れる。

 霞夏の目の前の樹木の枝にはまだ若い鷹が留まり、霞夏を見下ろし伺っている。



 はっと気づき、再びサーヴェイアを樹木の幹からそっと覗き見る霞夏。

 既にタオルと水筒をバックパックに戻し終えたサーヴェイアは羽音と枝の動きに反応し、こちらを見ていた。

 先ほどの疲れの色は隠れ、垣間見えた黒い瞳に幼さはなく、精悍な表情を見せる。


(どうすんの! 出られなくなったじゃない!)

 見つからないようスッと頭を引っ込め、心の中で鷹に抗議してみる。

 

 自分に避難の目を向ける霞夏の心情を知ってか知らずか、目を丸くして木陰に隠れる霞夏の姿を見ている。

 人間8倍の視力を持ち、決して獲物を逃すことのない鋭い眼光は、今は眼下で落ち着きを失い不安そうに見える霞夏を、不思議そうに眺める。

 霞夏の気にかけている方角には、谷を登ってきた別な人間が動き出す気配を見せているのに気づく鷹。

 


 ヘルメットを被り、バックパックを背負い直すサーヴェイア。

 その動きに反応し、音を立てないよう身を潜めたまま立ち上がり、樹木に体を預けて移動のタイミングを計る霞夏。


 サーヴェイアはこちらを見たまま慎重に近づいてくる。

(……さっさと行けばよかった)

 いらぬ緊張と間の抜けた自分に苛立つ霞夏。


 その緊張が伝わったのか、近づくサーヴェイアに対し威嚇を始める鷹。

 黄色に輝く眼球に艶やかな黒の瞳で殺気立つような視線を放ち、獣の牙よりも鋭い嘴と龍魚の鱗の如く美しい翼を開いて見せる。


  霞夏から伺うことはできないが、鷹とサーヴェイアの間には緊張がはしっている。距離は大よそ30m。


(何してんの! やめなさい!)

 樹木の影に隠れたまま、鷹に向かって注意する霞夏。

 声を出すわけにもいかず、ヘルメットの中で口をパクパクさせてみるが、元々攻撃性の高い性質を持つ鷹は、既にこちらを見つめるサーヴェイアに狙いを定めていた。


 サーヴェイアは鷹との距離を詰めないよう、鷹の留まる樹木を中心に回り込むように移動し、徐々に離脱を試みている。


 霞夏の注意を気にしつつも既に臨戦状態の鷹は、留まっていた枝を激しく揺らし一度飛び立ち、サーヴェイアから一番近い位置にある樹木の枝に移り、更に威嚇する。

(あああ、ダメだったら!)


 一気に間合いを詰めてきた鷹に対して、サーヴェイアは刺激しないよう一旦動きを止め、鷹から目を離さないように慎重に後退を始めた。

 いきなり鷹が威嚇してきたのだ、かなり戸惑っていると思うのだが、それでも的確な反応を見せるサーヴェイアに霞夏は感心さえする。


(もう! 向こうの方が空気読んでる!)

 霞夏の苛立ちを感じるのか、細心の注意を払うサーヴェイアに対して甲高い声をあげ、翼をバタつかせる鷹。

 鳥類は鷹が近づいただけで他所へ行ってしまっているので空は静かだが、鷹の威嚇の声に反応して周囲の樹木に潜んでいた栗鼠りすいたち、藪に居たらしき狸まで一斉に逃げていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ