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閑話 宴 後篇

ストーリー進行に関係しないお遊びパート後篇です。

よろしければお付き合いください。

 テーブルの上は随分片付いてきた。稲葉の活躍によるところが大きいのは明白だ。

 稲葉はもう酒がまわっているらしくいつにも増して陽気に振舞う。

 そんな稲葉は妙に早瀬に絡むのだが、それに応える早瀬も昼間垣間見たものとは違い、普段よりも砕けた表情を見せる。ユキはそれを見て、稲葉が早瀬の暗部ともいえる側面を知らないとは思えない。そんな相手だからこそぐいぐいと巻き込んでいく稲葉は、やはり魅力のある人物なんだろうと感じる。


 ふいに肩を叩かれ、見れば隣には鐘観がどっかりと座り込む。

 ユキは結花を危険に巻き込んでしまった事を謝らなければと思い、鐘観に慌てて向き直るが、鐘観はユキが何か言う前に頭を深く下げ、礼を述べる。

「ユキよ! 結花を守ってくれて、ありがとうよ!」

 先に言われてしまい恐縮するが、やはり自分の力だけでは生還は難しかったと考えるユキは、礼を言われるばかりでは納得できない。

「違うんです鐘観さん。もっと違うやり方ができていたら、結花を巻き込まずに済んだかもしれません。それに助けられてのは俺の方で――」

「面倒なことはいいんだ! あいつがお前さんのところに行くのは俺が許した。だからそんなことはいい」

 再び頭を下げ、ユキに何も言わせぬ勢いで続ける。

「お前は全力で俺の娘を守ってくれた。結花からも聞いてる。本当にありがとう!」

「そんな。ほ、本当に俺も、結花がいなかったらどうなってたか」

 ユキも鐘観に負けぬ勢いで頭を下げる。


 下げた頭同士の二人にしか聞こえない小声で鐘観が呟く。

「俺は鉄ちゃんと違って放任だ。泣かすようなことにならなければ――」

「ちょっと! 何言い出すんですか!」

 鐘観は少し酔っているようだ。ユキは顔を赤くしてうろたえる。



 稲葉が酔いつぶれるころ、一葉の服を借りた湯上りの結花がニナを伴って戻ってきたが、一葉以外の一同はニナの姿に目を点にして注目する。

 ニナはフードに耳が着いた黒猫の着ぐるみを着ていたのだ。

 気温的に少々暑いと思うのだが、当のニナは気に入ったらしくしっかり着込んでいる。

 それを見た能登は異常にテンションを上げ、写真を撮ろうとしている。

 その勢いに怯えたニナは結花の陰に隠れ、無言で拒否し続ける。

 ニナは結花と一緒にいたいようだが、御神木の影響も考慮し元々西方で受け入れ 予定だった施設で藍沢を待つ予定だったのだが、一鉄の配慮と本人の希望で当面は三咲組で生活する予定になっている。

「うわ~。やっぱりニナ施設にいた方が安全かも」

 結花はあからさまに憂色を浮かべている。

 ニナが三咲組で保護されることになった事を喜んでいた結花だったが、能登の行動に今後の不安を覚える。


 ニナは攻勢に転じ、能登の持つカメラを叩き落とそうと手を出しフンフンと応戦しているが、能登は頬を桜色に染めて嬉しそうな表情を浮かべており、一層不気味だった。

「能登……」

 能登に寛容な早瀬もさすがに引いていた。


 騒がしさに目を覚ました稲葉がニナを見て、目を細めて笑う。

「おお、髪の色のせいか、すごく似合うじゃないか。かわいいな!」

 爽やかに言う稲葉を見てユキは再度稲葉の評価を改める。

(射程距離外の女性には、紳士的でいいお兄さんなんだよな)

「そんなのどこから出したんだよ?」

 田羽多が一葉に聞いたのだが、それに答えたのは一鉄だった。

「うちのかずはのだよ。ニナくらいの時に着せてたんだ。かわいいだろ?」

「あのころはこんなのばっかり着せられた記憶があるよ。ワンピースやらエプロンドレスやら……」

 うんざりした顔で一葉が言うが猛烈な勢いで食いついてくる稲葉。

「お父さん! その時の写真を是非!」

 一鉄の視線にひるむこともなく、稲葉は続ける。

「あ! 何だったら、今の一葉ちゃんが着れるサイズのヤツを俺が買って……!」

 一人あっちの世界で悦に入る稲葉を指さして笑う一葉と、そんな稲葉をゴミを見るような目で見つめる早瀬。

 そしてユキの中でせっかく上がった稲葉の株は再暴落していく。


「ジュリエットがヤキモチ焼くよー、コタローさん」

 結花の言葉にビクッと反応する稲葉。

 動物の意識が流れてくる。という事を信じてもらえる自信が無かったユキと結花は、ニナを見つけた森林地帯深部の事はあまり覚えていないと説明を濁し、ジュリエットの事も言及していなかったのだが、一葉は稲葉の反応を見ただけで乗ってくる。

「お前今日からロミオな」


 盛り上がる一同を尻目に結花がユキの隣に来て、疲れてしまったのか目を閉じて 鷹揚に腰かけている野嶽を小さく指さして囁く。

「似てない?」

 何の事かと思ったが、改めて野嶽を見てピンとくる。

 自然を生き抜き、その強さを何かを守るためにこそ振るう野嶽は、御神木でニナに寄り添った鹿に通ずるものがあると感じるのだ。ニナが最初から警戒を解くのも納得できる。


 一度勢いづいてしまえば楽しい宴会だ。失敗も一葉の心遣いの一つの結果でしかない。

室 内は笑顔と笑い声に溢れ、時間は流れていく。


最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。



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