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一話分丸々間違えて投稿しておりました。通して読んでくださっていた方がいましたら、本当に失礼しました。文章は連載当時のもので、相変わらず地味な内容ですが、ストーリー的には意外と動きがあって大事な部分でした。反省です。
外からは銃撃戦の音が聞こえる。
状況はわからないが、ここが安全とは限らない。
ここに居ろと言われた以上、下手に移動はできないが、体制を整えようとした時、階下では甲高いブレーキ音と轟音が鳴り響いた。
建物が衝撃で揺さぶられる。四方八方から軋む音と崩れた天井が落ちてくる。
無線からは早瀬の怒鳴り声が聞こえる。
「ユキ! ビルから逃げろ! 急げ!」
何が起こっているかわからないがとても応答できる状態ではない。
一度大きな衝撃があった直後、立っている床にかかる重力が窓と反対方向にが変わる。
「崩れる!」
ユキは結花を乱暴に引き寄せ角度がきつくなった床を死にもの狂いで駆け上り、そのまま窓から身を投げる。
雑草の上に背中から落ちるように飛んだのは正解だったが、小柄とはいえ人一人抱えての着地は一瞬ユキの呼吸を止めるほどだった。
直後に雪崩のような震動と轟音。
それに反して冗談のように呆気なく崩れ、見る間に視界からついさっきまで存在したビルが姿を消す。
残るのは悪戯に下から崩した積み木のようなような瓦礫の山と高く立ち上る土埃。
続いて連鎖するように周囲の建築物も軋みを上げる。
崩れはしなかったが、時間の問題かもしれない。
ユキは自分で出しているのが信じられないような呻き声が口から洩れているのを認識しながら結花を抱えたままビルから離れるように転がった。
倒壊したビルの瓦礫から離れたビルの一室に身を潜める早瀬。
早瀬はユキに無線で呼びかけるが応答はない。
ビルの前で待たせた装甲車が機関銃を装備した暴徒に襲撃された。
兵士と早瀬は応戦したが、猛スピードで走ってくる一台の車がそのまま一階の駐 車場を支える鉄筋の柱に車体を突っ込ませた。
耐久年数をとうに過ぎ、柱で支える形のビルを倒壊させるには十分な衝撃だった。
早瀬と兵士の一人は間一髪でビルの倒壊を免れたが、装甲車は倒壊に巻き込まれている。
ユキに連絡が取れない事に焦りながらも早瀬は考える。
(あまりにもおかしい)
この区域には軍は他にもいるはずだ。ただの暴徒にしてはやることが大胆すぎる。
神出鬼没で人数も不明、無線や車を持っているうえ銃器も行き渡っている。
(おまけに迫撃砲とくれば――)
振り返り一緒に逃げてきた兵士の喉元に左腕のインパクトハンマーを押し付ける早瀬。
「お前らが絡んでいるんだな……」
互いに防弾スーツを着装している者同士の戦いは距離が近ければ格闘戦になる場合が多い。既に早瀬は絶対的なアドバンテージを得ている。
何より早瀬の戦いぶりを目の当たりにしている兵士はそれに対して両手を挙げ、抵抗の意思のない事を主張する。
三咲組から同乗してきた兵士の一人だ。機関銃相手に応戦もしていた。
下手をすればビルの倒壊で命を落としていたかもしれない兵士だ。
恐らくこの兵士は無関係であることを察してはいるが、何も知らない訳はないと思う早瀬はプレッシャーを与え続ける。
「落ち着いてくれ……俺は抵抗する気はない」
兵士は早瀬を納得させるのに必至なのだろう。インパクトハンマーを押し付けられたまま逃げようとせずに銃やナイフを自分から離れた場所に投げ捨てる。
「捨てるなら全部捨てろ、予備銃と弾も全部だ。俺は軍の装備を知っている」
「わかってる! 落ち着いてくれ。俺は抵抗する気はない!」
全ての装備を解除した兵士はヘルメットまで脱ぎ捨てる。
「これでどうだ? いつでも殺せるだろ?」開き直ったように両手を開く兵士。
「度胸のある男だな」
ヘルメットを脱いだ男は脂汗を滲ませ、見開かれた目は充血している。
愛想笑いでも浮かべているつもりだろうか、口角は釣り上がり唇は震えている。
「俺はあんたを知ってるんだ。あんたはそんな事しないさ。軍に逆らってまで家族を助けに行くような、そう! あんたは優しい男――」
「余計な口を利くな」強い口調で遮る早瀬。
言いいながらインパクトハンマーを降ろす代わりに銃を構え、男が解除した装備まで移動する。
「聞かせろ。お前は何を知ってる? 軍は暴徒と結託している。そうだな?」
早瀬は完全に抵抗できなくなった兵士に対し、尋問を始める。
兵士の話はこうだった。
東方の刑務所に護送途中の凶悪強盗犯 雨谷が護送中に逃走し、そのまま危険地域の川へ転落した。
捜索した結果死体は発見できなかったがどうやら生き延びて、危険地域を根城にしていた暴徒と共に森林地帯を移動しながら様子を伺い、廃墟地帯を巡回中の軍車両に奇襲をしかけ、事もあろうか仲間に引き入れてしまった。
雨谷はその日のうちに軍車両で偽装し東方の境界線近くの集落を襲い金品と食料を強奪する。その後は廃墟地帯と森林地帯、旧国道を経由して西方に入り、西方の軍の一部に奪った金品を与え更に仲間に取り込んみ、買収された西方の軍人は部下を巻き込み廃棄車両に武器を積んだ状態で廃墟地帯に隠し雨谷に与えた。
力を得て膨れ上がった暴徒の集団はもう手が付けられなかった。
始めは対等の取引をしていたらしいが、既に雨谷の軍門に下った兵士達は手下のようになっており、逆らえない状態らしい。
「上層部は気づいていないのか?」
「今はまだ……しかし銃器を掠め取ったのはやりすぎだ。内部の検査の時にはばれていただろうさ! あいつは頭が悪いのさ」
本人の居ないところでの罵倒に不愉快そうに顔をしかめる早瀬。
「雨谷に買収された西方の兵士の名は?」
「……第三班班長 山口 伊助」
さすがに顔見知りの名を早瀬に言うのは躊躇したようだが、この兵士にしても、本当の事を言っているならもう後戻りはできないだろう。
そして兵士が口にした山口は早瀬も知っている男なのだ。
(無定見の風見鶏とは思っていたが、そこまで腐っていたか)
「今山口はどこにいる?」
「確か、あんたのボスと一緒にいたはずだ。今は森林地帯からこっちに向かって合流予定の班がそうだ」
(まずいな)
「今廃墟地帯に出張っている軍に信用できる味方はいるか?」
「ああ、基本的には山口の班だけだ。金品を受け取って見て見ぬふりした奴は少なくないと思うが……」
「なら信用はできないな。暴徒と変わらん」
兵士は呻き声を漏らす。
(上層部がこの件に気づいていないのはそのせいか)
「お前が受け取ったかどうか聞く気はないが、少なくてもその事実を知っていた。お前はそれでのうのうと軍人やっているわけか」
「俺だけじゃ――」
「お前の仲間も倒壊に巻き込まれた。生きてはいないだろう。自分たちのくだらん私欲のせいだ。これはお前たちが招いた結果だ」
屋外から地面を擦るように近づく数人分の足音が聞こえた。
(どいつもこいつも胸糞悪い!)微かに舌打ちする早瀬。
差し替え投稿文でした。
今更でしたが、読んでくださった方がいましたらありがとうございます。




