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 部屋に入ってきた男は警戒していたからなのか、既にユキの気配を感じていたのか、すぐにユキに銃口を向けたが、ユキも待ち構えていたため対応は早かった。

 左足で銃を持つ手を蹴り飛ばず。

蹴られた銃は部屋の窓際まで転がっていった。

呆気なく銃を手放してしまった男は、向けられたユキの銃口を見ながら両手を上げる。


 ユキは撃つ気が無いわけではない。下手に撃ち合えば隠れている結花が危ないのだ。

いつでも撃てる状態を維持しながら無線の電源を入れなおす。


「早瀬さん! 誰か! 応答してください!」

言いながら男を正面に、警戒しながら窓際の猟銃まで後ずさるユキ。


 エンジン音はどうやら現在地のビルの前から聞こえるようだ。

無線からは早瀬の声で応答が入る。


「ユキ! 無事か! どこだ!」

「早瀬さん! 今――」

安堵した為か一瞬できてしまった隙を突かれた。

暴徒が奇声を上げながらユキに体当たりを仕掛けてきたのだ。


 ユキの声を聞き、少年だと気づいた男は隙をついて逃げるつもりだったが、背後に迫るエンジン音と無線で連絡を取っていると知り、後が無いと悟って攻勢に転じたのだ。


窓際に叩きつけられたユキは体制を崩すが猟銃を拾おうとした男の腕に発砲。

被弾した肩には小さな穴が開き、血液が止めどなく溢れる。


 危機に瀕して興奮状態の男は噴出する血液をものともせず猟銃を取り戻そうとするが、ユキは先手を打って入り口側にもう一度銃を蹴り飛ばす

叫び声を上げながらユキに飛び掛かる男。

 今度は太腿に発砲するが、構わずに突進してくる。

驚く間もなく体当たりを受け、結花を隠したマットレスのすぐ横に倒れるユキ。

その震動で立て掛けていただけのマットレスが倒れかかるのを見たユキは、男から目を離し、マットレスが倒れないように手で押さえる。


 男は入り口に転げるように走り、猟銃を掴み上げようとするが、ユキが男の足元に発砲する。意図的に外したのではない。体制が崩れていたせいで狙えていないのだ。

 咄嗟に、今こちらに撃たれたら結花まで危ないと察知して反対側に飛び退く。

隙を作ったせいで男は猟銃を掴み上げユキに向かって構える。


 撃ち合いになると思った瞬間、マットレスが男に向かって吹っ飛ぶ。


 気を取られた男に発砲しようとしたが、状況は変わっていた。

男の猟銃は結花の放った矢に射られ床に転がっていたのだ。

結花は山猫のような視線で男を見据え次の矢を番えようとしている。

 男は突然現れた結花に一瞬たじろいだが、背後の階段のからは軍と早瀬と思われる声が聞こえると再び怒号とも悲鳴とも違う奇声を張り上げ、結花に落ちている本を投げつける。

ユキは結花を庇おうと盾になるように移動するが、男はその隙にドアを叩きつけるように閉め、重そうなキャビネットを蹴り倒し瞬く間に入り口にバリケードを築く。


 ユキは理性で避けていた頭を狙い銃口を向ける。


 突如塞がれたドアの向こうで大きな火薬の炸裂音が響き、直後にバリケードごとドアを蹴り破り侵入してきた黒い影。

 男はその黒い影に叫び声と共に殴りかかるが、黒い影は難なくそれをかわし、空振りした腕を右腕で絡めとって床に投げ飛ばす。


 黒い影の正体は黒地に橙色のドライスーツ――早瀬だった。

 早瀬は男に息つく暇も与えず、服の胸ぐらを掴み右腕だけで引きずり壁に叩きつけ、抵抗しようとした男の頭を鷲掴みにして今度は頭を壁に叩きつける。

だらりと腕を下げて尚言葉にならない叫びをあげようとした男の頭を更にもう一度叩きつける。

男は壁から床に崩れ落ち動かなくなった。


 圧倒的だった。

部屋に入ってから僅か数十秒で、銃を使わないどころかほぼ右腕一本だけで男を完全に沈黙させた早瀬に、一緒についてきた軍人二名ですら声も出ない。


 無言で男の猟銃と無線機を掴み軍人に手渡す早瀬。

呆然と見ていただけの軍人は敬礼をし、一人は受け取ったそれらを手に慌てて部屋から出て行った。

もう一人は早瀬が沈黙させた男に息があるのを確認して拘束する。



 早瀬はバイザーを上げユキに声をかける。

「無事だったか。……良かった」

「あ、ありがとうございます」

 早瀬の左腕には見覚えのある重々しい鉄製の手甲のような機材が見える。

壁面破壊用インパクトハンマーだ。


 腕に装着・固定し、火薬で太い鉄杭を最大3本撃ち出し、鉄筋コンクリートの壁を突き崩すための機材だ。

軽々と装備しているが、4㎏以上ある機材だ。そもそも単体で装備したまま持ち歩く機材ではないのだ。

バリケードを容易く破壊したのはこれだろう。


 早瀬は結花を一瞥し無事を確認するとユキに向き直る。

「よく守ったな」

「……いえ」

 早瀬と言葉を交わし、声を出すユキは喉がからからになっているのに気付く。

ユキは正直言って早瀬が怖かった。

 駆けつけてくれたことは嬉しい。あのままではユキが男の頭を撃ち抜くことになっただろう。状況的にやるしかなかったその行為をしなくて済んだことにも感謝している。

そしてこれで無事脱出できることに対しても安堵している。

しかし今の早瀬の戦い方はサーヴェイアどころか、軍人やハンターの常識すらも逸脱しているのはユキにも分かる事だ。


 味方であるはずの早瀬が恐ろしい人間にすら感じ、緊張を解き安心することができなかった。

早瀬はユキの感情を察しているのだろう。

それ以上は何も言わず、結花にも近づこうとしなかった。

結花も同じ感情を持ってしまっているのだろう。ユキの背後に隠れるように移動していた。


 助けに駆けつけてくれた早瀬に対するそんな感情が後ろめたく感じ、何か話さなければと思い、気になっていたことを質問する。


「早瀬さん! 野嶽さんは……野嶽さんは無事なんですよね?」

「ああ。無事だ」


 ユキの突然の勢いに驚いた様子を見せた早瀬だが続けて答える。


「負傷はしているがな。榊で手当ても受けている。心配はいらな――」

屋外から鳴り響いた連続する射撃音に会話が打ち切られる。


 男を拘束していた兵士が弾かれたように部屋から出て行く。

 早瀬はインパクトハンマーの弾倉を開き三発装填の内、先ほど撃ったと思われる一発を排莢し、新たな一発を装填しながら乾いた声で言う。


「お前たちはここに居ろ」


 バイザーを降ろす直前に垣間見た早瀬の瞳にユキは言葉を返せなかった。

部屋を出て行く早瀬の後ろ姿を身動きも取れずに見送るユキ。


(早瀬さん……)


 表情という物を全く感じない顔に暴悪なまでの憎悪を宿す双眸。

結花は何も口にしないが、身を縮めるようにして弓を握る両手に力を込めていた。



今後流血描写もたまには出ますので一応タグを追加しましたが、あまり血なまぐさい話にするつもりはなく、基本的に直接戦闘に役立つような異能や魔法は登場しない話ですので、戦闘と言ってもこんな感じになってます。

地味ですがよろしくお願いします。

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