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(酷なことをさせて、すまないな早瀬)

 投光器とハンドライトであたりを照らしながら歩みを進め、軍に同行させた早瀬を思う一鉄。

一時軍と別れ、一鉄と鐘観は自治隊員2名を伴ってユキと結花が通ったと思われる地下鉄道トンネルを注意深く進んでいた。


「結花―! 聞こえたら返事をしろー!」


 娘を心配し、大声で呼びかける鐘観の喉は酷使され、普段以上に掠れている。


「鐘、気持ちはわかるが居るならライトが見えているはずだ」

「ああ、ああ! わかってるけどよ……!」


 一鉄はそれ以上は何も言わない。同じ娘を持つ者同士、痛いほどにわかっている。

四人はユキと結花の痕跡を見逃さないよう、慎重に奥に向かい進んで行く。






『民間企業からの同行者に協力し、武装集団が跳梁する廃墟区域にて消息不明の民間人2名を捜索せよ』

駐屯軍司令 藤田ふじた 兼重かねしげからの命を受け西方駐屯軍第2班の装甲車は、同行者と共に廃墟地帯西部地下鉄道の停留所跡地を目指す。

装甲車内には運転手と助手を除き三名の兵士と同行者である早瀬が車内の簡易座席に対面して座っている。


(何だってこんな時に廃墟地帯に入り込んでるんだ……)

 兵士の一人は、舞い込んだ厄介事に同行させられる我が身を憂えて、正面に座り、持参した装備を確認している同行者の男をヘルメットのバイザー越しに忌々しげに睨みつけながら考えていた。

兵士は同行者の男、早瀬を知っている。


――3年ほど前まで軍の東方行政区に所属していたが、遠征中に地元が暴徒の集団に襲われ、知らせを聞いたこの早瀬という男は職務を放棄して単独離脱し、事もあろうか軍車両で地元へ戻った。

 そこまでして地元に辿り着いたときには家族は既に犠牲になっていたらしい。家族が犠牲になった事には同情する。しかし俺たちは軍人だ。この男のやった事は軍人としての常識が無い。大体、そんな話は聞いて回ればゴロゴロ転がっている。襲撃されたのはこいつの家だけじゃないんだ。

 聞いた話では能力もあり、当時は班を任され部下を持つ立場だったらしいが、知った事じゃない。

責任感の無いこの男に務まるわけがない。この男は情状酌量を受け軍には残ったが、一兵卒に降格し東方こっちの行政区に転属になった。



早瀬は装備を整えながら無線でユキに応答を呼びかけ続けている。



(うるせぇな 声まで気に入らん)

兵士が早瀬を睨む目は蔑みの色に変わっている。

――そこからは惨めなもんだ。なまじ能力が高い分、目立つもんだから余計に嫌われていた。小隊はもちろん班内でも爪弾き者だったらしい。

 軍人は集団行動ができてこそだ。引き取った指令や上層部は同情していたようだが、悪目立ちするような個人の実力なんて俺たちには必要ない。結局逃げるように除隊した男だ。

 余程哀れに思ったのか、指令の紹介で厚意にしている民間のサーヴェイアになったようだが、こいつにはお似合いだ。実力って言っても何がどの程度なのかよくわからん。現役の俺たちに護衛されなければ非常時に行動できない程度なんだろうさ。

気に入らんが、命令だから仕方ない。せいぜい守ってやるよ。

兵士は面倒なこの任務が早く終わる事を願いながら一度も目を合わせようとしない早瀬を睥睨している。



 早瀬は装備と別に持ち出したハードケースから重苦しい手甲のような物を取り出し、左腕に装備している。

(なんだありゃ? サーヴェイアのやることはよくわからんな)



早瀬を乗せた装甲車は地下鉄道停留所跡地に差し掛かる。


 かつては華やかな彩を湛えていたであろう旧都市部は色あせ荒廃をきわめ、今は文明の亡骸が横たわる廃墟地帯に、無感情と悪感情だけが残ったように焦げ煤けた灰色と黒が一面に広がっていた。


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