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――「地下鉄道だって?」

 榊神社の通信室では一葉が一鉄からの連絡を受け思わず大声をあげていた。

 周りに居る者にもわかるよう、内容を復唱しながら報告を受ける一葉。


 武装集団は見つからなかったが、不自然に崩れた建造物を発見し、軍と自治隊の支援を受けて最低限の瓦礫を撤去した一鉄は、崩れた地下階段に何とか入れる隙間を作り、大空洞に到達。

捜索の結果、前世期の地下鉄道停留所跡らしき大空洞に二人は見つからなかったが、埃に残る足跡や交戦の痕跡がない事からここでしばらく身を潜めた後、地下トンネルを使って移動している可能性が高いという内容だった。


 室内にいた一葉、目を覚ました野嶽、野嶽に付き添ってきた畔木と八重樫医師が喜びの声を漏らす。


 野嶽は報告を聞き、一時の安堵を得る。

 連絡がとれない事で安心できなかったが、地下に降りたせいで通信できなかったようだ。

 少なくとも、二人は生存し、武装集団にも発見されていない可能性が高い。


(ユキ、よくやったぞ!)

 鎮静剤のせいでまだ少し朦朧とする頭で野嶽はユキの次の動きを予測する。


 一葉から無線機を受け取り、榊神社の通信室の壁に貼ってある衛星画像を見ながらトンネルの延びる方角を聞く野嶽。


「鉄、二人が無事なら、北東に向かっているはずだ。」

「よし、ならトンネルに戻って後を追うか」

「そうしてくれ。しかし、地上からも追跡した方がいい。あいつは不可能でない限りどこかで地上に出て救助信号を出すはずだ」

「それなら地上は軍に任せよう」と答える一鉄に野嶽は言う。

「地上の方は俺も同行しよう」

「それは許可できないぞ」それを聞いた八重樫医師がたしなめる。

「先生、そんな場合じゃないんだ。俺は行くぞ!」

 譲らない野嶽だが、一鉄からも釘を刺される。

「光よ、廃墟地帯はもう封鎖されてる。武装していようが、奴らが入っては来れない。お前はそこで休むんだ」

「鉄、しかし……」食い下がろうとする野嶽だが、一鉄はすぐに言葉を遮る。

「また藤田に掛け合って待機させてる早瀬を向かわせる。時間的にもその方が早いだろう」


 納得するわけにはいかず黙る野嶽に、言葉を重ねる一鉄。

「俺にお前の気持ちがわかってないと思うか? 今は休め」

 幾度となく修羅場を共にした一鉄から諭すように告げられ、ようやく折れる。

 諦めた野嶽を見て一葉も安心したようだ。

 

 再び無線機を野嶽から受け取り、早瀬に連絡を取るように指示を受けた一葉は通信を終え、受話器を手にして三咲組に電話をかける。


 八重樫は重厚な革製の往診鞄から取り出した注射器を戻しながらホッとしたように言う。


「もう一本行っとこうかと思ったわ」

 八重樫は笑うが、暴れる野嶽を押さえる役の畔木は顔を引きつらせていた。


「先生、全然和みませんよ、それ……」




 

 



 無明の地下トンネルを小さなライトの明かりだけで進んできたユキと結花。


 二人は遂にその進行を止めざるを得なくなった。

トンネルには瓦礫に突き刺さるように埋まった巨大な鉄の塊がある。


「ユキ……これ、列車だよ」

「うん……」


 ユキは息を呑む。

 地下を走る列車。前世紀にはそんなものがあったらしい。

 現在では地上でレールを走る列車しか存在しないが、耳にしたことはあった。

 大きく崩落した天井と、頑丈そうな車体の一部を空き缶のように押し潰す崩れた巨大な柱。



 目の前に残り、惨状をまざまざと晒す大災害の爪痕にそれ以上声の出ない二人。

 ユキは恐る恐る近づき、車体をよじ登り中を覗き込む。


 車中は外から見る以上に酷い在り様だった。

 予想していなかったわけではないが、結花にはとても見せられない。

 結花に向かい首を横に振って見せ、察してもらうユキ。


 改めて周囲を伺う二人。

 地下トンネルはこの先完全に閉ざされていた。。

 瓦礫と車体の間をすり抜け、停留所だったであろう大空洞に出た。


 車体の先のトンネルを見ようとするが、トンネルの天井が完全に崩れ、身長よりもはるかに高く堆積した土砂と瓦礫で塞がれていた。

 車体に侵入して抜ける方法も考えたが、たとえこの瓦礫を抜けられたとしても、このトンネルの先に進めるとはとても思えないし、できれば入りたくもない。


 何とかこの大空洞で地上に出る方法を見つけなければならない。

 用心のため耳を澄ましてみるが、やはり人の気配は無いようだ。


 ユキは結花と手をつなぐために外していた左手のグローブを装着し、今まで歩いてきた溝をよじ登る。

 結花にてを貸して引っ張り上げ、二人で手分けして地上への脱出経路を探すことにした。


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