夕暮れロマンティカ
「おむかえ、こないねぇ」
砂山を作るのに夢中になっていた僕に、女の子が声をかけてきた。
さっきまで僕一人だった筈なのに、どこから来たんだろ?
女の子とお話したことが無かった僕は、女の子に返す言葉が分からなくて首を振った。
「おむかえ、いないの?」
そうなんだ、お父さんはお仕事で夜までいないから。
僕はそんなことも言えずに首を縦に振るだけだった。
「わたしもなのよ、まっくらになるまでいっしょにあそぼ?」
お家に帰っても真っ暗で寂しい、いつもこの赤い夕焼けが終わらなかったらいいのにって思ってる。
でも暗くなる前に帰らないと、たまに早く帰ってくるお父さんに怒られるんだ。
でも…お誘いを受けたら仕方ないよね、お父さんだって友達とは仲良くしなさいって言ってた。
「う、うん。なにしてあそぶ?」
女の子の顔がぱぁっと明るくなって、僕もちょっとうれしい気持ちになる。
うーんと、うーんと、と考えながらも女の子はにこにこしてる。
「まずはおにごっこ!じかんはいっぱいあるから、つぎはいっしょにかんがえましょう?」
まずは君が鬼、と言って女の子は走り出す。
砂だらけの手をズボンで拭いて、僕も走り出した。
「こっちこっち!おにさんこちら、てのなるほうへ!」
女の子はとっても足が速くて、僕が力いっぱい走っても全然追いつけない。
ちょっとだけずるしちゃおっかな、そう思って僕はわざと転んでみた。
「わ、わ、だいじょーぶ?」
女の子が駆け寄ってきたから僕はすぐに飛び起きて捕まえた。
「えへへ、こんどはきみがおに!」
僕がそう言って駆けだすと、女の子はほっぺたを膨らましてズルいズルいって。
なんだか胸がチクチクして立ち止まってしまった、そしたら今度は女の子が飛びついてきたんだ。
「これでおあいこだよ!」
女の子は笑顔を浮かべていた。
それがとっても素敵だったから僕はもっと見たくなって、今日は別に怒られてもいいやって思った。
だから女の子が帰ってしまうまでずっと、ずっと遊ぶんだ。
1つの影がぱたぱたと揺れる。
ずっとずっと、僕達は遊び続けた。
寂しくないって、とっても凄いことなんだ。
いっぱいあそんでも全然暗くならない、まだまだずっと遊んでいられる。
女の子はずっとあそんでいましょう、ってにっこりほほ笑んだ。