アメフラシ
初投稿なので、大目に見てやってください。
「…うん、塾今終わった。迎えお願いね。…うん、うん」
僕は、時計を見た。今は夜十一時。
三時間の勉強漬けで随分疲れているが、今日は雨で一人では帰れない。
親が迎えに来るまで二十分。この雨の中、やることはない。テキストを出そうにも、濡れてしまう。できれば今すぐにでも帰って風呂に入って寝たい。受験なんてなくなってしまえばいいのに、といつものことを思う。
雨は寒いし、濡れるし、気持ちもどんよりする。嫌いだった。
「雨は嫌いかい?」
そんな僕の心を見透かしたように、隣にいる男の人が話しかけてきた。
「…嫌いです」
「そっか」
意味のないやりとり。それでも、やることがない僕は嬉しかった。この話がここで終わってしまいそうなので、今度は僕から男の人に話しかけることにした。
「あなたは雨は嫌いなんですか?」
うーん、と男の人は考えたあと、
「俺にとって雨ってのは、嫌いとか好きとかって決めれるものじゃないかな」
まあ、そんな人もいるかなと僕は考えることにした。そうすると男の人から語りだしてくれた。
「俺さ、仕事が雨を降らせることなの」
「は?」
しかしそれは、本当に意味のわからないことだった。雨を降らせる仕事って何だろう。
「俺の職業はアメフラシって言うんだよ」
「虫ですか」
「あははっ、そんな虫もいたっけな」
傘で男の人の顔は見えないが、本当に笑っているらしい。僕は何と話したらいいのかわからなかったから、黙っていたらやっぱり話を続けてくれた。
「一言で言えば、妖怪?かな。俺のいるところには、絶対に雨が降る。あ、雨男とかを強力にしたみたいな感じ」
このアメフラシは、時々笑わせに来るらしい。僕はククッと笑ったあと、少し考えてから言った。
「…じゃあ、晴れている空を見たことがないんですか?」
「あー、ないね」
「晴れに憧れます?」
「一度くらい見たいよね」
この人は、僕とは比べ物にならないくらい雨を経験している。そして、僕とは比べ物にならないくらい晴れを経験していない。僕は空をちょっと見て、それからまた話を続けた。
「あの、雨が嫌いなんて言ってごめんなさい」
アメフラシはフッと笑って、こう言った。
「気にしてないさ。雨も、降りすぎるとみんなの迷惑だし、逆もまた迷惑なんだ。俺は雨の降っていないところに行くようにしてるけどね。確かに、雨は気が滅入るよ」
アメフラシは気が滅入らないんだろうか。
「あ、俺はもう慣れたよ」
アメフラシはそう付け足した。
話が終わったなーと思っていたら、親の車が見えた。
「あの、親来ちゃったんで…」
「うん、楽しかったよ」
「じゃあ、またどこかで」
「俺と会おうとしたら、雨降るよ?」
最後まで、笑わそうとしてたんだな。
「雨、上がらないわね」
「うん、まあいいんじゃない?」
「あら?何か嬉しそう」
「気のせいだよ」
まだ雨は降り続いている。
それは僕を嬉しくさせるものだった。