黄昏時
とんだ暇つぶしになったものだ
ただ 退屈だった
あの場所に降り立ったのは、暇を持て余した末の気まぐれ
なのに
「この俺が油断した・・・」
ドクドクと足元が未だ渇きをしらない血でぬかるんでいく
回復のため手のひらにうっすらと光を燈し今まで致命傷となってた肉の削げていた腹部にそれを翳した
「・・ッチ!」
忌々しい 思った以上に消耗して回復が追いつかず肉の再生どころか出血しか止まらない
苛立ちを隠さずに暗闇を見上げ舌打ちをする
「・・・十分に時間をかけて楽しむつもりだったのに」
まぁ、いいさと
考えたところで意味もないとばかりに、ため息をつき何もない空間に深く腰を預けた
主以外存在を許さない深淵から闇をくり抜いて作った狭間に彼はいた
「ふっ・・・クックク・・・」
何を思い出したのか先ほどの苛立ちもどこへやら
笑い声には最早苦痛な響きは一切混じっておらず
聞く者がいれば魂まで惑わしかねない低くて甘いゾクゾクするような甘美な響きがあった
やがておもむろに腕を上げ空に円を描く
すると今まで何もなかった闇が歪みそこに映像が浮かび上がる
漏れた光から男の顔が照らされ意志の強そうな瞳が一瞬眩しそうに目を細めた
あらゆる美を掛け合わせて作ったような造形美が闇のなかに浮かび上がる
暗いなかでも輝く瞳は
永遠に輝き続ける黒い金剛石を思わせ
鬱陶しそうにかきあげた長めの髪は
新月の夜湖から生まれたかのような濡れた漆黒色で白い肌をさらに浮き出たせていた
灰地獄を映し出してるそこには数日前までは妖魔の森と化した誰も近づかない森があった
まさかその森に集落があったとは、灰地と化した今では誰も知る由もないだろう
その場一帯を被い隠すように・・・・
その場一帯を守るように・・・
まるで宝物をしまいこんだかのような
何層にも分けて施された防御壁が目眩ましとなって見事に他の者を欺いてそこにあった
「ふっ・・・俺すら気付かなかったとはね」
あの日、
自分の玩具が近づいてなければ今も在り続けただろう
壊してしまった玩具は少し惜しい気がしなくもないが、
お陰で思いがけない楽しみも増えた
『カオラか…』
男は愛しいものを眺めるような眼で、今は何も残っていない灰地をただ見つめていた