じゃ
部活終わりの微かな熱気を漂わせ、へとへとになった身体で帰路を辿る。辺りは静寂が続いていて、街灯も少ないせいか心細く感じられる。
ふと隣を見て、私はあからさまに肩を大きく跳ねさせてからその子を見つめる。
白髪で、良く似合うハーフアップで華奢な体型の色が白い女の子、ぱっと見は人形だと勘違いする程だ。彼女は同じ部活仲間で大親友のユヅキ。
部活動の道具やら教科書やらを詰めてるのか、中々に鞄はパンパンだ。
そして極めつけに重ね着しすぎじゃ...?なんて思う程の厚着。
自分とは対照的だ。
それを見てから、私はさっきからほんのり伝ってる額の汗を拭う、目元に近いのがウザったかった。
もう夏頃になるだろうか。
その事実を反芻して口にする。
「あ"っつい〜...春なのにこれってなんなの...?
もはや春夏秋冬じゃなくて夏冬でしょ...」
静寂の中だからか、私の言葉は少し響いていた。
私の言葉に返すようにユヅキは言う。
「そうかな...? まだまだ丁度いい位の温度だと思うけど〜...
ふふっ...、本当に暑がりさんなんだから。」
そう言ってユヅキが微笑んだのを見て、不覚にも頬が熱を少し帯びるのを自覚したが、鼻がツンとした、認める訳には行かなかった。
「...うっさいな...暑いもんは暑いんです〜...!」
少しだけ拗ねたような口調になってるのに気付かずに私は返す。
「はいはい、そうだね〜」
軽くいなされた。その反応を見て改めて、コイツ...と思うが、それ以上に今の雰囲気と心地良さが勝っていた。
結局何も言い返さずにそのまま、とぼとぼと歩く。こんなふうに帰るのもいつぶりだろうか、もうかなり久しいのだろう。
学校でも見かけなくなったし、最後の会話も交わしたのはいつか思い出せない程には疎遠だった。
だからこそ、今の跳ねるような胸の温もりと高鳴り、少しの自嘲が止まらなかった。
他愛もない話をする。楽しい、思わず笑みが零れていく
そうだ、これだった、これが、1番したかったことだ。
最初の心細さなんてもう見る影も無くて、街灯の少なさも静けさも、今は自分だけのスポットライトみたいで心地よかった。
変わらない景色だが、公園を見つける。それがユヅキの家との分かれ目の印だったか、ある程度歩いた所で止まる。
名残惜しくもあるが、ここで別れなければならない。私は、少しだけ勇気を振り絞って言う。
「ねっ...、泊まってかない?今日...」
かなり心臓がバクバクなってる。ユヅキが居るだろう方向を見つめて、ユヅキの反応を伺う。
少しだけ眉をひそめて、困り顔だった。隠しきれない申し訳なさと、それ以上の熱を感じた。
そして、ユヅキは言った。
「ごめんね、ちょっぴり具合が悪いからさ....?
...じゃ!また今度ね!」
そう朗らかに言って、ヒラヒラと手を振って言ってしまった
その言葉を聞いて、私は呟くように言う。いや、漏れ出たの方が正確なのか。
「...相変わらず、釣れないなぁ...ユヅキは...、ははっ...」
私は最後にユヅキをもう一度見てから手を振る、また明日。と。
振り返ることはなく歩く
涙が止まらなかった、拭っても拭っても流れてくる。息も浅くなって、どうしようもない胸の痛さと名残惜しさだけが残る。
馬鹿だな...
そう自分自身に言いつけて乾いた笑い声を上げる。
もう居ないのに
あの子が、私に1番心配をかけたくないから、最後まで隠し通していたのも、彼女が亡くなってから知ったか。
あの厚着からも、鞄の異様な張り具合からも、察することはできたはずだろう。
だから言葉が、あの最後の言葉が忘れられない。「また今度」
嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき...!
また今度泊まるって言ったじゃん...!
やり場のない怒りとそれ以上の辛さを抱えて、帰路を再び辿る。静けさがのしかかる。
先程の幻聴に、独り言を返していたのも分かりきってる。
だけど、それ程までに、ユヅキが大好きだった。
しばらく歩き続けて、公園のベンチに座る。
やや遠くには馴染み深いセメント工場が見える。良くユヅキと、そこを研究室みたいだ。と笑いあったか。
その工場からでる廃棄煙を見て、手を伸ばしていた。直ぐに自覚した、自己嫌悪がじわりと滲んだが。
「いっか...」
そう割り切った。
今はただ
あの不純な煙を最愛のあの子によく似た朧と見なして、この世で一つだけの 夢を見続けていたかった。
数ヶ月経とうとあの子はあの子のままだった、死人なんだし当然か。そう自嘲したが、それだけで、私は酷く満たされていた。
たとえ最愛の人が
幻覚として、幻聴として現れたとしても、それを光に見なすことを、私は辞められなかった。
儚い百合




