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Sweet box

作者: みん
掲載日:2026/02/06



「マジありえんのだけどー!!」

 

 梨々香(りりか)の叫びが、放課後の教室に木霊した。

 読んでいる本から視線を外さずに、(あい)は冷静に返す。


「うるさいわよ、梨々香」


 しかし、梨々香は声を落とす事なく喚き続ける。


「アイツ、二股してやがったの! 即座に振ってやったけどさ! リリ、めーっちゃ頑張ってバレンタインチョコ作ったんに、全部ムダ! 一周回ってウケる!」

「知らないで渡すより良かったじゃない」

「それな! あんなヤツに渡さんで良かったわ! でも折角作ったから萎えぽよなんだが〜」


 ゴミ箱にチョコレートらしきものを突っ込んだ梨々香は、項垂れて、藍の机にべしゃっと顔面から倒れ込む。

 藍の気持ちは、またか。という呆れで包まれている。

 机に突っ伏している金髪のギャルは、確かこれで失恋五回目とか、それくらいだった気がするからだ。


 「今度こそリリの運命見つけた!」とか息巻いていたくせに、一週間で破局である。

 まぁ、来週くらいには新しい運命と出会う筈だから問題無いだろう。


 藍は適当に慰める事にした。

 

「きっと、もっと良い人がいるっていう神様からの啓示よ」

「ケージ? ナニソレ?」

()()()、お告げみたいなものよ」

「リリ、神様に選ばれしモノってコト!?」

「あー……。まぁそんな感じで良いんじゃない?」

「マジか! 女神リリ爆誕!?」


 話が飛びまくってえらい事になっているが、修正するのも面倒くさい。

 藍はもうそういう事にしておこうと思った。


 梨々香の妄想はどんどん膨らみ、何故か自分が女神になって神様と結婚し、世界をウサミルで染めるという所までいっている。


 ウサミルというのは、梨々香が大好きなマスコットキャラクターだ。


「あー、でもさぁ。神様とケッコンしちゃったら藍と遊べないじゃん。やっぱりナシ」

「えぇ?」

「リリ、藍が居ないとムリぽよだもん〜」


 梨々香と藍は高校生になってから出会ったのだが、何故か馬が合い、放課後にダベる仲になっている。

 お互い所属しているグループは違う、不思議な関係だ。


 だから、藍は梨々香の中で自分の存在は、愚痴を聞いてくれる暇人という認識なのだと思っていた。

 どうやらそれだけでは無さそうだ。


「梨々香、友達沢山居るじゃない」

「んー、ダチも大切だけど、藍はトクベツ!」

「特別?」

「うん! リリの話ちゃんと聞いてくれるの、藍しか居ないもん!」

「私、結構適当に返事してるけど……」

「藍はさー、ちゃんとわかんない事教えてくれたり、アドバイスくれたりするじゃん」


 梨々香的には、藍の受け答えは気持ちの良いものらしい。

 ちょっと意外で、藍は梨々香の顔をこの日初めてまじまじと見た。


 相変わらず濃い化粧で、ばざばさのつけまつ毛の中にある瞳は、カラコンで青色に染まっている。

 そういえば、梨々香のすっぴんを見た事がない。


「なーにー、じっと見て! あっ、今日のリリ、ラメ多めなんだけど気付いたとか?」

「いや、梨々香のすっぴん見た事ないなって思ったのよ」

「そっちかい!」


 すると、梨々香は急にもじもじとし出す。

 何事だ。


「化粧はさー、リリ的に武装なワケ! すっぴんってなると裸を見せる気分っていうかぁ……」

「見せろとは言ってないわよ」

「やだ、リリはやとちり!」


 こんな会話ができるようになってきたなら、さっき別れた彼氏のことはもう梨々香の頭から消えているだろう。

 藍はそろそろ帰ろうと思って、本を閉じた。


「えー、藍帰るの?」

「日が暮れたら寒いじゃない、梨々香も帰ろう」

「分かったぁ」


 二人は各々帰り支度をして、校舎から出る。

 まだまだ寒い二月の風が、二人の素足を撫でた。


「うわ、さっむ!! 毎年こんなさむいっけー?」

「これでも今年は温かいらしいわよ」

「ま!? お天気おじさん間違ってない!?」

「残念ながら事実よ」


 並んで歩き出すと、梨々香が藍の手をぎゅっと握ってくる。

 その手は爪が長くて、藍は割れないのだろうかとひやっとする。


「相変わらず長い爪ね」

「だしょー? お手入れ大変なんだよ!」


 ならば何故伸ばすのか?

 藍には理解出来ない。


「バレンタインチョコってさー、好きな人に渡すもんじゃん?」


 梨々香が急にチョコの話をし出す。

 まだ忘れて無かったのか。


「まぁ、日本ではそうね」

「好きな人って、女の子でもいーの?」

「良いんじゃない?」

「ふーん……」


 そこから梨々香の話は飛びに飛び、最寄駅に着く頃には、冷蔵庫だけの冷蔵庫欲しくね? という話になっていた。

 意味が分からない。


「じゃあ、電車乗るからまたね」


 藍と梨々香の乗る電車は反対方向なので、ここでお別れなのだ。


「あっ! ちょっと待ってー!」


 梨々香が慌てながら、カバンから包装された箱を取り出す。

 そして、藍の手にそれを握らせる。

 その顔は、寒さからか赤く染まっていた。


「絶対家帰ってあけてね! バイバイ!」

「梨々香っ……! あぁ、行っちゃった」


 藍は、走って行った梨々香に一応手を振って、電車に乗り込む。

 やけに綺麗なラッピングだ。何が入っているのだろう。


 藍は家に帰り、母に挨拶して自室に上がった。

 そして、気になっていた梨々香から貰った箱のラッピングをほどく。


「ふふっ、何これ」


 中には、歪なハート型の手作りチョコレート。

 そして、メッセージカードに『藍へ、リリのフォーエバーラブ!』と書いてある。


 しっかり藍用を用意してくれていた梨々香がいじらしく感じる。


「ホワイトデーは三倍だっけ?」


 頑張った梨々香に、何をあげようか。

 藍はチョコレートをひと齧りして、その甘さを享受した。



 

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