29話「セリアンとエルゼンベルク侯爵との再会」
部屋には大きな窓が二つあったが、外に大きな木があるせいか、部屋の中は薄暗かった。
外観と同じように寂れた部屋の中央に、真新しい天蓋付きのベッドが配置されている。
カーテンがしまっているので、中の様子はわからない。
殿下は一直線にベッドまで歩き、天蓋付きベッドのカーテンを開けた。
僕は少し離れたところから、中の様子を伺うことにした。
カーテンの向こうに、二つの人影が見えた。
一人はベッドに横になり、もう一人はベッドの横の小さな椅子に腰かけていた。
椅子に座っているのは伯父で、ベッドに横たわっているのは、だいぶやつれているがセリアンだった。
二人とも以前のような覇気がない。
セリアンの髪や肌には艶がなく、目の下には大きなクマができていた。
今のセリアンに、国で一番美しいと言われていた頃の面影はない。
伯父は頬がこけ、皺と白髪が増えたように思えた。
王太子はベッド横に配置された椅子に腰掛け、セリアンの手を握った。
「セリアン、容態はどうだ?」
王太子が穏やかな表情でセリアンを見つめる。
「アルベルト様、お戻りになられたんですね……! 嬉しい……!」
セリアンは腕を立てベッドから身を起こすと、王太子に手を伸ばした。
王太子はセリアンの手を取り、彼の体を支えた。
「セリアン、まだ体調が良くならないのだろう?
無理をするな」
「お気づかいありがとうございます!」
セリアンは瞳に涙を称えている。
王太子は僕には威圧的だ。
だが、セリアンには優しい。
王太子は見栄の為にセリアンを婚約者に据えているのかと思った。
でも、少しは愛情もあるようだ。
「もう心配いらない!
ノエルを連れてきた!
これで万事解決だ!
元の生活に戻れる!
いや、今まで以上の生活を送ることができるぞ!」
僕の名前を聞いた瞬間、セリアンが眉間に皺を寄せ目を見開いた。
「ノエル……!
奴が……ここに……!?」
セリアンが顔をこちらに向けた。
僕と目があった瞬間、セリアンは歯をむき出し、こちらを睨みつけた。
「……ノエル、ノエル、ノエル、ノエル、ノエル、ノエル、ノエル、ノエル…………!!」
セリアンの瞳は憎しみと殺意に満ちていた。
「ノエル、お前ーー!!
さんざん侯爵家で世話になっておきながら、僕から能力を奪ったな!!
この恩知らず!!!!
お前のせいで僕はパーティーで大恥をかいたんだぞ!!」
セリアンは眉を吊り上げ、恐ろしい形相で僕を睨みつけた。
僕に向かって手を伸ばし、セリアンが暴れ出した。
王太子はセリアンを抱きしめ、彼を宥めていた。
「それは違うよ、セリアン。
君が伯父様からどのような説明を受けたかは知らない」
僕はセリアンの目を見て、ゆっくりと説明した。
「雨を降らせる能力はもともと僕の能力だったんだ。
伯父様が闇の魔術師を雇い、禁術である強奪の術式を使って僕から奪ったんだ。
あれはもともと僕の能力で君のものではなかったんだよ」
努めて冷静に伝えたが、それがセリアンの癪に障ったらしい。
「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさーーーーい!!」
セリアンは犬歯をむき出しにし、獣のように叫んだ。
「そんなことはどうでもいい!
真実なんて糞食らえだ!!
あれはずっと僕の能力だったんだ!!
だから今すぐ返せーー!!」
セリアンは目を血走らせ、唾を飛ばしながら叫んでいた。
その姿は、獣を通り越してモンスターのようだった。
どうやら、真実を受け入れることはできないようだ。
セリアンは物心つくかつかないかの頃に術式を刻まれ、癒しの雨の能力を自分のものだと思い込んできた。
能力を使う度に、世間の人々に称賛されてきた。
その能力を失ったのだ。
現実を受け入れられなくても仕方がない。
「僕の能力をセリアンに渡すことはできない。
能力は本来の持ち主でなければ完璧には使いこなせないから」
大事なことだ。
恐れずにちゃんと伝えないと!
「君が僕の能力を奪っていたとき、王都中に雨を降らせるのがやっとだった。
能力を無理やり奪っても、本来の力を発揮できないんだ」
それが強奪の術式の限界。
「僕は力を取り戻した後、辺境伯爵領全土に雨を降らせた。
辺境伯爵領の面積は王都の約百倍。
つまり君は僕の能力の百分の一しか使うことができない。
そんな人に能力は渡せない!」
まっすぐに目を見据え、強い口調で伝える。
「そんなの嘘だ!
お前の方が僕より優秀だなんて、絶対に僕は認めない!!
僕の方が能力を上手に使えるんだ!
返せ!!
あれは僕の力だ!!」
セリアンが髪を振り乱し、暴れ始めた。
カーテンを引き裂き、枕を投げつけ、奇声を上げる。
見かねた伯父が、セリアンをベッドに押さえつけた。
押さえつけられたセリアンは、怒りのこもった目でこちらを睨んでいる。
「絶対に君に能力を渡すことはできない!」
セリアンが少し落ち着いたのを見計らい、言葉を続ける。
「でも……君の影武者となり、君が能力を持っているように装うことはできる」
僕の言葉を聞いて伯父が瞳を輝かせた。
伯父にとって僕は、セリアンという大輪の花を咲かせるための肥料。
もしくは踏み台くらいの認識なんだろう。
「王太子殿下、お願いがあります!」
王太子がこちらに顔を向ける。
「僕の能力を私利私欲のために使わないと約束してください!
乾燥や瘴気症に苦しむ国民の為に平等に使うと誓ってください!
セリアンと共に国中を巡り、雨を降らせることを許可してください!
願いを聞き届けてくださるのなら、僕は喜んでセリアンの影武者になります!」
僕は殿下の瞳を見つめ、毅然とした態度で告げた。
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