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1話「希少な能力を持つ美少年ないとこと、地味で無能な僕」


バルコニーに出た僕は、天に向かって祈った。


この地に雨を降らせてください……と。


快晴だった空に徐々に雲が集まり、ポツリポツリと雨を降らせる。


それはやがて大粒の雨へと変わり、乾いた大地を潤していく。


「レイヴン様やりました!

 僕、雨を降らせることができたんです!」


振り返れば、辺境伯爵が僕を見守るような穏やかな笑みを湛えていた。


「ああ、それは紛れもないそなたの能力だ」


雨はゆっくりと大地を潤し、瘴気の濁りを浄化していく。


辺境伯爵領はこれできっと大丈夫だ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「ああ、セリアン!

 そなたが降らせる雨は今日もクラルハイムの大地を潤し、民に希望を持たせる!」


「ありがとうございます! アルベルト様!」


「来週、城でパーティーを開く!

 その招待状を持ってきた!

 必ず参加してくれ!」


「もちろんです!」


侯爵家の客間で繰り広げられる光景を、僕はぼんやりと眺めていた。


王太子殿下がいとこのセリアンに愛をささやく場面を、僕は何度となく目にしてきた。


セリアンは金色のやや癖のある髪に、エメラルドグリーンの瞳の絵に描いたような美少年。歳は僕と同じ十六歳。


王太子殿下は、赤紫の長髪にアメジストの瞳の長身の美男子。歳は二つ上の十八歳。


二人が並ぶととても絵になる。


「ノエル様、お二人にお茶をお出ししてください」


メイドに言われ、僕はお茶の入ったカートを押して二人の前に進む。


王太子殿下は苛烈な性格で、セリアン以外にはきつく当たるので、誰もお茶を出したがらないのだ。


「王太子殿下、セリアン、お茶をお持ちしました」


「ハッ、誰かと思えばセリアンの地味ないとこか。

 貴族でありながらコップ一杯の水を出すことしかできないそうだな。

 王都中に癒やしの雨を降らせる「癒やしの雨」の能力を持つ、天に愛されているセリアンとは大違いだ」


ほら、殿下の嫌味が始まった。


この国では人口の一から二割の人間が魔法を使える。魔法を使うには訓練が必要なので、素質があっても庶民は魔法を扱えるようにはならない。


魔法を使えるのはほとんどが貴族だ。貴族の七割から八割が魔法を使える。


攻撃魔法が殆どで、雷、氷、炎、風などの属性に分かれている。


回復魔法はヒールのみで、擦り傷や切り傷を治す程度。


僕のコップに水を出すだけの能力は、水分補給の役割しかなく魔法の効力としては下の下に位置する。


セリアンの癒やしの雨を降らせる能力は、五十年から百年に一人しか現れないというとても貴重な能力だ。


この国の夏は乾燥が酷く雨が少ない。広範囲の大地を潤し、瘴気を浄化するセリアンの能力は大変重宝されている。


セリアンが華やかな見た目の美少年なのに対し、僕は茶髪に黒目で平凡な顔立ち、背も低いし体つきは華奢。


セリアンとは同い年なのもあって、そのせいかどこにいっても彼と比べられる。


いとこなのに能力も見た目も大違いだ……と。


せめてどちらかだけでも優れていたらと悩んだこともあるけど、こればっかりはしょうがない。 


二人の話をなるべく耳にいれないようにしながら、僕はお茶を出した。


「こんな地味で冴えない能無しがいとこだなんて……!

 セリアン、君はなんて気の毒なんだ!」


「仕方ありませんアルベルト様。

 ノエルは両親を亡くし、行き場がないのです。

 成人するまで当家で面倒をみるのが、親戚としての我が家の努めです!」


セリアンが瞳をうるうるさせながら訴える。


男爵夫妻だった両親が亡くなったのは、僕が五歳のとき。


それから、父方の伯父であるエルゼンベルク侯爵家に身を寄せている。


基本的な勉強やマナーは教えて貰えたけど、使用人として雑用をこなし、セリアンの付き人として彼の尻拭いをしていた時間の方が長い。


セリアンは意地悪な性格だから、メイドや執事が彼の世話を嫌がるのだ。


「君もエルゼンベルク侯爵も、本当に優しいのだな!」


「そんな、僕たちは当然のことをしたまでです」


王太子とセリアンの周りに、キラキラしたオーラが見えた。


彼らが機嫌が良い間に距離を取ろう。


「失礼します」


僕がカートとともに下がろうとしたとき、何かが僕の足にあたった。


それはセリアンが伸ばした足だった。セリアンの顔を見ると、彼は口の端を歪ませにたりと笑っていた。


僕はバランスを崩し、カートの上に倒れた。


カートがひっくり返り、ガシャン! と音を立て、カートの上の茶器が絨毯の上に落ちて砕けた。


「申し訳ありません!」


僕は急いで体勢を立て直し、砕けた茶器を拾う。


ズキリ……と手に痛みが走る。破片で切ったのか手のひらに血が流れていた。


「あーあ、アルベルト様の前だと言うのに、こんな失態を晒すなんて……困った子だな」


セリアンが蔑むような目で僕を見下ろす。


「……申し訳ありません」


僕はそう繰り返すしかなかった。


「壊れた茶器の代金とお茶と血の染みのついた絨毯の代金は、レーベ男爵家に請求しておくよ」


セリアンが目を細め、口角を上げる。


レーベ男爵家は僕の父が持っていた爵位だ。


亡き祖父は侯爵位の他に男爵位を保有していた。


長男である伯父がエルゼンベルク侯爵位を、次男である父がレーベ男爵位をそれぞれ継いだ。


父の死後、レーベ男爵位は伯父の預かりになっている。


僕が成人した時に返却されることになっているが……この分だと、僕が爵位を継いだ途端に破産もあり得る。


この家に引き取られてからずっと、セリアンは僕に足をかけたり、突き飛ばしたり、嫌がらせを繰り返してきた。


その度に、僕は高価な茶器や壺を壊してしまった。


僕が成人するまであと二年。


父が残した大切な領地だけど、継ぐのは少し気が重い。


「上に立つものが無能だと領民も苦労するよね、可哀想」


セリアンが僕の耳元で囁く。


「アルベルト様、申し訳ありません。

 僕のいとこがどじで」


セリアンがころりと表情を変え、王太子の腕を取る。


「間抜けないとこがいることに、心底同情するよ」


王太子が僕に向ける目は、虫やゴミを見るかのように冷たかった。


「お話しの続きはガゼボで伺います。

 今の時期は薔薇とラベンダーが見頃なんですよ」


「そうしよう。

 エルゼンベルク侯爵家の庭園は、いつ来ても美しいからな」


「僕が精魂込めて雨を降らせてますから」


王太子に向けるセリアンの笑顔は、まるで天使のようだった。


「ノエル、僕が帰って来るまでに片付け終わらせておいてよね」


「……はい、必ず」


セリアンが僕に向ける顔は悪魔のように恐ろしい。


二人が使用人を伴い部屋から出て行く。


誰もいなくなった部屋で、僕はホッと息をつく。


片付けは憂鬱だけど、あの二人の側にいるよりはましだった。




◇◇◇◇◇




「ノエル様、お昼ご飯です」


そう言ってメイドに渡されたのはパン一切れ。


「王太子殿下の前で茶器を割った罰だそうですよ。

 それでも貰えるだけ有り難いと思ってくださいね」


僕が粗相をした日の食事は、いつもこんな感じだ。


何ももらえない日や、ご飯の代わりに殴られる日もある。


それに比べれば今日はまだ良い。


粗相をした僕にパンをくれるなんて、今日はセリアンの機嫌がかなり良いんだろうな。


「ノエル様の顔を見ると気分が悪くなるそうなので、お部屋で召し上がってほしいそうです」


「はい」


これもいつものこと。


この家で、食堂で食事をしたのなんて数える程しかない。


僕はパン一切れを持って、自分の部屋……というか屋根裏に戻った。


侯爵家に来て与えられたのは屋根裏で、それからずっとここで暮らしている。


小さなベッドと机と椅子があるだけの簡素な作りな部屋だけど、一人になれる大切な場所だ。


椅子に座り、昼食のパンにかじりつく。


「へーー、セリアンてば今日は本当に機嫌がいいんだな」


粗相をした日に与えられるのは固くなったり、カビが生えたパンだ。なのに今日メイドから手渡されたパンはふかふかしていた。


王太子に何かプレゼントでも貰ったのかな?


まぁ、僕には関係ないけど。


「水を持ってくるの忘れちゃった……」


水分なしでパンを食べるのは厳しい。


「こういうとき、僕の能力って便利だよね」


僕は机の上に置いてあったコップに手をかざし、魔力を込めた。


手から水が出て、コップを潤していく。


コップの八分目まで水を注ぎ、魔力の流れを止めた。


僕にできる唯一の魔法。


セリアンの王都中に雨を降らせる魔法に比べたら地味だけど、こういう時には役に立つ。


「あっ……!」


手が滑り、コップの水をこぼしてしまった。


右手と袖口に水がかかる。


「セリアンに呼び出される前に服を乾かさないと……」


彼は身だしなみに煩いのだ。


と言っても僕は服をほとんど持っていないので、着替えてから行くのも難しい。


上着を脱いで袖口を絞る。


「あれ……? 右手の傷……治ってる」


あんなに血が出たから次の仕事に支障がでないか心配だったけど、意外と浅い傷だったのかな?


「ノエル様、旦那様の執務室にお茶を出してください!」


階下からメイドが呼ぶ声がする。


伯父もセリアンと似たりよったりな性格で、機嫌が悪いときは使用人に八つ当たりするので、誰も執務室にお茶を運びたがらない。


昼食中に僕がわざわざ呼び出されたということは、伯父は今日も腹の虫の居所が悪いらしい。


「ノエル様、お早くお願いしますね!」


「はーい、今行きます!」


僕はパンを水で流し込み、階段を駆け下りた。





【お知らせ】

『妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される』のコミカライズ版が、2月6日(金)よりコミックシーモア様にて配信開始となります。

 茶賀未あと先生による美麗な作画が目印です。

 コミカライズ版でも、リアーナとアルドリックの物語をお楽しみいただけると幸いです。


作画:茶賀未あと先生

原作:まほりろ

配信先:コミックシーモア(先行配信)

配信日:2026年2月6日


▶『妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される』のWEB小説版はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n2968gx/



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「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」

著者:まほりろ

▶ WEB小説版はこちら

コミカライズ配信決定
配信日:2026年2月6日
配信先:コミックシーモア様先行配信
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