朧月
掲載日:2025/03/05
出会ったのは大学の教室。
いつも友達に囲まれて、明るく笑う君の笑顔が気になっていた。
好きとかそういう気持ちはなかった。
ただただ「よく笑う子だな」と思っていただけ。
なので「最近見かけない」と思った事に違和感もなかった。
けれど久しぶりに見た君の顔からは「健康」が消えていた。
どことなくぎこちなく笑う君。
「辛いんだな」と気づくと、居ても立っても居られなくなった。
僕は勇気を出して君に声を掛けた。
少しずつ少しずつ距離を縮めていくうちに、僕は君の事を好きになっていた。
病気の事も詳しく話してくれた。それは僕には些細なことだと、君といれればそれで良いと。僕は彼女に気持ちを伝えた。
あれから30年の時が過ぎた。
諦めていた子宝にも恵まれ、幾度となく押し寄せる難題を家族で乗り越え子どもたちは巣立っていった。
賑やかだった家には静けさが戻り、この先はまたゆっくり君と二人の時間を過ごしていけると思うと、忘れていた気恥ずかしさが甦る。
今夜は満月のはずだとビール片手に庭に出て、夜空を見上げれば霞がかった朧月。
後から庭に出てきた君が隣に並ぶ。当たり前ではないこの温もりを愛おしく思った。
肩寄せて 君と眺める 朧月
何を話すでもなく、ただただ二人で月を眺めていた。




