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作者: 雉白書屋

 家を借りたいと思っていたとある男。彼が不動産屋と一緒に訪れたのは、立派なタワーマンション……の隣にある古びた一軒家だった。


「どうですか? 友人を呼んだり、彼女と同棲するには十分な広さですよ!」


 と不動産屋が彼に言った。


「ええ、まあ、友達も少ないし、彼女もいないんですけどね。はははっ」


「あ、すみません……」


「あ、いえ……。いやー、それにしても隣のタワーマンションすごいですね。こことは大違いだ」


「すみません、古くて……」


「あ、いや……え、駅前もマンションを建てているみたいだし、盛り上がってるんですかね」


「ええ、この町は今人気ですからね。新しいマンションはほとんどタワーマンションになってますよ」


「なるほど、まあ一軒家のほうが生活音とか気にしなくていいかな。あ、でも、やっぱり陽当たりが少し悪いですよね」


「ああ、そこはもう仕方ないですね、ははは……」


「まあ、僕は仕事で家に帰ってくるのは夜だからあまり関係ないし、むしろおかげで家賃が安くなっているのならありがたいかな。広さもアパート以上だし、うん、いいなあ……」


「影だけに、ですか?」


「え、ああ、ははは……」


「ははは……」


「で、でも、ちょっと安すぎますよね。駅からもそんなに遠くないし、もしかして……事故物件とか? ははは、なんてね」


「……はい」


「ははは……いや、え? ここって事故物件なんですか? ここで人が亡くなった……?」


「はい……」


「おお……いや、まあ、そうですよね。古い家ですし……人くらい……」


 そう言いながら彼は部屋を見回した。畳に大きな染みを見つけると、ぶるっと震えた。


「あの、それってもしかして、首吊りとか……」


「いや! いやいや、そういうわけではないんですけど……」


 不動産屋は言いにくそうに、頭を掻いた。沈黙が気まずく、彼も気を使い、話を続けた。


「まあ、あれですよね、日陰が多いと気分も沈みがちになるかもしれませんよね……でもまあ、さっきも言いましたけど、僕が家に帰ってくるのは夜ですし、ああ、休みの日は公園に散歩でも行こうかな。うん、おかげで健康的に過ごせたりして、ははは……影だけに……」


「いや……そうではなくてですね、その、屋根なんです」


「屋根?」


「はい、屋根に丸が描いてあるんです」


「え、この家の屋根にですか? 丸が? なんで?」


「ええ、その、さっきお客様が言っていたように、日陰になるので、その……まあ……ははは……」


「日陰? え、ちょっとなんですか、気になるじゃないですか」


「ええ、実はここの家主が隣のマンションの建設に反対していたんですけど、まあ、ご覧のとおり意見は通らなくて、それで、屋根に……」


「抗議の意味で丸を描いた、と。でも、なんで丸を……ああ、目かな。『お前ら見ているぞ』って。住人はとばっちりのような気もしますけどね」


「えっと、いや、目というか――」


 突如、すさまじい轟音が響き渡り、会話はそこで途切れた。彼は驚いて飛び上がり、目を瞬かせる。


「い、今のは!?」


 不動産屋は質問には答えなかった。ただ一言、静かに呟いた。


「どちらかと言えば、的なんです……」

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