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第3話 異世界マルチバースを救え

 異世界マルチバースに迫る危機、その原因の一端として考えられている異世界転生者たちの相次ぐ失踪。

 アルコールに頬を赤らめていても、それを語るノヴェリアの表情は真剣そのものだった。


「我々"異世界転生管理局"は転生者を異世界へ送り出した後も定期的に観測を続けています。

 もちろん、異世界は過酷ですので不運にも命を落としてしまう方は一定数存在します。

 しかし、現在の状況は偶然で片付けるには度を越しています」


「まてまて!

 急に知らないワードが出てきたんだが。

 異世界転生管理局?

 確かに業務だとか派遣だとか、やけに地に足がついた表現がよく出てくるなと思っていたけど、そんな堅苦しい組織があるのか?」


「あ!色々とバタバタしてたせいで説明し忘れてたみたいですね、すいません!

 え〜ワタクシこういうものでして」


 ノヴェリアは純白のヒラヒラのローブの裾から小さな長方形の黄金の箱を取り出す。

 そして箱を開き、中からこれまた黄金のカードをつまみ取り、両手で丁寧に差し出した。

 これまで幾度となくこの動作を繰り返してきたのだろう、一連の所作は悲しいまでに洗練されていた。

 カードに刻まれた文字を読み上げる。

 

「異世界転生管理局

 転生調整官 ノヴェリア?」


「はい、それが私の役職の正式名称です。

 かっこいいでしょ」


 出世が遅いだの何だの文句をつていた割に、自分の役職に誇りを持っているようで、ノヴェリアは鼻を伸ばしてニヤニヤしている。

 異世界や転生が現実にあると知った時は舞い上がってしまったが、ここまで事務的に処理されているとなると何だか興ざめである。

 というか、かつて異世界転生をした者が小説家にビカムで執筆をしているのならば何故、異世界転生管理局は物語の中に登場しないのだろう?

 俺は気になって尋ねた。


「それはですね、我々は基本的に組織名を名乗ったりしないんですよ。

 あくまでただの女神として異世界転生者と対峙したり、そもそも転生者の前には姿を現さないパターンもあります。

 なので薙斗さん、あなたは例外なんですよ」


「例外?」


「ほとんどの異世界転生者に与えられた役割は、転生した先の異世界でその世界で起こっている問題に対処することです。

 そこに異世界転生管理局や異世界マルチバースなどという要素は必要ないんです。

 彼等には気の赴くまま冒険をしてもらい、結果として世界は救われる。

 今まではそれで良かったんです、不自然に転生者たちが消えるまでは。」


 話が元の場所へ戻って来る。

 ノヴェリアの口調はより真剣さを増し、緊張感から俺の顔も強張る。 


「そこで我々は最後の切り札として一人の少年を召喚しました。

 彼に与えられた役割は他の転生者とは違う。

 異世界マルチバースが崩壊する原因を突き止め、そして解決すること」


 酒場は客でごった返しガヤガヤと話し声が聞こえていたはずなのに、この瞬間だけは世界に俺とノヴェリアの2人きりなのではないかと錯覚するほど、周りの音など全く気にならかった。

 何色にも染まれなかった俺の人生が、"今"決定づけられる、そんな感覚。


「蒼羽薙斗さん、改めてお願いします。

 異世界マルチバースを救ってください」


 俺に与えられた役割は世界を救うだけでは足りないらしい。

 マルチバースを救う英雄になれ―

 あまりにスケールの大きな話に、俺はうなづくでも首を横に振るでもなく、ただ深く頭を下げるノヴェリアを見つめることしかできなかった。




「ちょっとやめてくださいよ!

 それは僕達のクエストです!」


 俺たちの座るテーブルから少し離れた場所で、若い男の拒絶するような声が響き渡る。

 目を向けるとそこには俺と同じくらいの年齢に見える華奢な黒髪の青年が、2倍以上の体の大きさを誇る筋骨隆々の野蛮そうな男の腕を掴んでいた。

 青年の後ろにはとんがり帽子をかぶった赤髪の少女が心配そうに事態を見守っている。


「ああ?

 これがお前らのクエストだって?

 ガキが調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 男は右手に持った紙をヒラヒラさせ、青年を睨み向ける。

 おお、異世界転生モノにありがちなクエスト間を巡るイザコザだ。

 この酒場は冒険者が多く集う場所でもあるらしく、クエストの発注受注も行っているようだ。

 こういった場の新人イビリはもはや伝統芸能と言っていいだろう。

 冒険者というものはいけ好かないガキを見かけると分からせてやりたくなる生き物なのだから仕方がない。


「いいから離せっつってんだろ!」


「ぐふっ!」


 俺が異世界冒険者あるあるに思いを馳せている間に、事態は悪化していく。

 野蛮そうな男はいつまでもしがみついてくる青年に痺れを切らし、溝内に蹴りを入れたのだ。

 それまで果敢に立ち向かっていた青年も、流石に力無くうずくまるように崩れて腕を離した。


「今度俺の前に顔を見せたら殺してやるからな」


 男はそう言い残して酒場を後にした。

 動けずにいる青年にとんがり帽子の少女が駆け寄る様子を見届けると、俺は視線を正面に座るノヴェリアの元へ戻した。


「やっぱり異世界って何処もこんな感じなのか?」


 平和な日本で生まれ育った俺にとって刺激的な光景であったが、酒場の他の客もノヴェリアも意に介さず飲食を続けている。


「そうですね。

 この程度のことは日常茶飯事だと思いますが…

 あ!!

 あの人です!

 私達がこの世界に、やって来た目的です!」


 ノヴェリアは話の途中で突如、目の色を変えて酒場の出入口の方を指差した。

 白く長い指の先に視線を流すと、とんがり帽子の少女の肩を借りて今まさに酒場から出ようとする先程の青年の姿が見えた。


「あの青年、神代瑛一(かみしろえいいち)はこの世界での異世界転生者です!

 私は次に消えるのは彼だと推測し、この世界へ来たのです!」


「なっ!

 あいつが異世界転生者!?

 確かにめっちゃ見た目、日本人っぽい!」


 どおりでビカム小説あるあるのシチュエーションに遭遇してるわけだ。

 こいつが日本に帰還した暁には、このエピソードを苦労話として載せるのだろう。


「それでどうしたらいい!?

 追いかければいいのか?」


 俺は勢いよく立ち上がりノヴェリアに尋ねる。

 ノヴェリアも頷いてそんな俺に追随するべく、机に手をついて腰を上げようとするが―


「おろろろろろろろろろろ」


 目をぐるぐる回してそれはそれは見事な虹色の吐瀉物をぶちまけ出した。


「うわ!あの女吐いてるぞ!」


「きゃー!ちょっとこっちにかかったんだけど!」


 暴力沙汰では一切動じなかった酒場でも、流石にこの状況は看過できないらしい。

 異変に気付いた者たちから騒ぎ出し、気づけば俺たちの周りは蜘蛛の子を散らすように人が離れていた。


「おい!馬鹿野郎!なに吐くまで飲んでんだよ!」


「だって久しぶりだったんですよぅ…

 すいません…

 ぐすっ…」


 ノヴェリアは顔を真っ青にして、椅子の脚にもたれかかって床にへたり込み、またもや泣き出してしまった。


 しかし、こんなところでチンタラしていられない!

 神代瑛一はとっくに酒場を出て何処かへ行ってしまった。

 一刻も早く追いかけねばならない。


「ったくしょうがない!

 俺が一人で行って、神代瑛一を連れてくるからここで待っててくれ!

 いいな!」


 俺は頭を乱雑に掻き、ぶっきらぼうに言い放つ。


「よろしくお願いします…

 うっぷ…」


 ノヴェリアは口を押さえながら、消え入りそうな声色でそう答えた。




 神代瑛一の捜索は困難を極めた。

 何せ初めての異世界、初めての街、初めての一人、初めてづくしで何も上手くいかないのだ。

 城塞都市エルディアスへ入り、酒場まではノヴェリアに連れられるがままであったため土地感など一切ない。

 似たようなレンガ造りの街並みをグルグルまわっていると街全体が迷路のように感じてくる。


 意を決して道行く人々に聞き込みをしてみるが、それも上手くいかない。

 エルディアスの人間は部外者にそこまで寛容ではなく、無視されるのが5割、適当にいなされるのが3割でまともに取り合ってくれるのは2割がいいとこだ。


「黒髪の男の子ととんがり帽子の女の子の二人組なら、東の門から森の方へ向かうのを見たわよ」


 雑貨店の前を掃除する優しそうなおばさんから有益な情報を手に入れる頃には既に日は傾き始めていた。




「マジかよ…」


 おばさんに教えてもらった通りに東の門へ向い、そこから件の森を初めて眺めた時、思わずそんな言葉が口から溢れた。

 いくらなんでもデカすぎる。

 あんな広大な森の中で人探しなど現実的ではない。

 それに―


「あの森は魔物がうじゃうじゃいるから、もし行くんなら気をつけなよ。

 それに行くなら昼にしなさい、夜になると魔物は凶暴になるからね」


 おばさんの忠告が頭の中でこだまする。

 

 よし、今日のとこはやめとこう、そうだそうだ転生者が消えるったって今日は大丈夫かもしれないし、うんそうしよう…

 そう自分に言い聞かせ、来た道を引き返そうとした時―


 《スキル『臆病者』 獲得》


 は?臆病者?ふざけんな!

 誰だよ俺のこと臆病者って言ったやつは!

 どこからとも無く降ってきた罵倒に頭に血が上る。

 それがすっかり忘れていたスキルアナウンスによるものだと認識するには一呼吸を要した。


 そうかスキルだ!

 俺にはスキルがあるんだ、それもこの世界を無双できるだけの。

 俺は水を得た魚のように気力を取り戻し、「スキルウィンドウ展開」と呟く。

 ズラッと並ぶスキルを勢いよくスクロールして目的のモノを探す。

 広大な森の中、顔と名前だけを知っている人物を探し出せるようなスキルを―


「あった!」


 目当てのスキル名を脳裏に焼き付かせ、スキル『瞬間移動』を使った時のことを思い返す。

 確かスキルを使うには―


「『千里眼』使用!」


 直後、自らの視点がグングンと上昇する。

 まるで人工衛星からズームをしているかのように世界が手に取るように見える。


「見つけた…

 けどこれは…」


 とんがり帽子の少女の傍ら、剣を片手に立つ青年。

 その刃は血に塗れ、少年は全身に血を浴びている。

 

 視点を横にずらすと、大柄な男の死体。

 先程青年を蹴り飛ばした男の変わり果てた姿だった。


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