表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話 スキルアナウンスがうるさすぎる件

 異世界転生作品の約8割は実体験に基づく実話である。


 一蹴される様な馬鹿げた話であるが、異世界転生者を斡旋する仕事に就いている女神を自称する女に言われると簡単に足蹴にはできない。

 それに―

 正直な話、俺は興奮していたのだ。

 自分の好きな物語の世界が実際に存在するかもしれないという事実に。


「それって本当なのか?

 俺が読んでいたあの世界は本当にあるのか?」


「ええ、確かに存在します。

 もちろんそれぞれの転生者は別々の時空、別々の異世界へ派遣されます。

 それらの世界、いえそれらのバースをまとめて私達はこう呼びます。

 "異世界マルチバース"と」


 ノヴェリアが両手を広げて力強く答える。

 

 マルチバース、多元宇宙論とも呼ばれるそれは複数の宇宙の存在を仮定する理論物理学の説である。

 物語で使われる言葉として近いものにパラレルワールドなどがある。

 めちゃくちゃ簡単に言えば宇宙がいっぱいあるということだ。


「薙斗さんは不思議に思いませんでしたか?

 異世界転生作品が往々にして似通っていることに。

 それはしょうがないことなのです。

 異世界マルチバースは各々が非常に近くに隣接して偏在してます。

 多少の差はあれど大枠としては同じ特性を持ちます」


「マジかよ!」

 なんと、使い古されたRPGのような中世ファンタジーの世界ばかりが小説家にビカムに散見されるのは必然だったのか。


「それではそろそろ本題に―」


 話を切り出そうとするノヴェリアを遮るように、真っ白だった世界に変化が訪れる。

 けたたましい警報音とともに世界全体が赤く点滅しだしたのだ。


「おい!

 なんだよこれ!

 大丈夫なのか?」


「あー…

 これはちょっとまずいてすね。

 ここも崩壊が始まってしまいました!

 仕方がありません!

 話はあとにしましょう!

 ひとまずここから脱出します!」


 ノヴェリアは何もない空間から、光るエフェクトとともに魔法の杖のようなものを取り出す。


「脱出!?

 何処に行くんだよ?

 うわ!崩れていってるぞ!」


 ジグゾーパズルが崩れるように、世界がバラバラと解けていくのが見える。

 自分達の所まで崩壊の手が迫るのは時間の問題だ。


「いいからついてきてください!

 ふん!!!」


 これまた何もない空間に先ほどの杖を突き刺すような素振りを見せるノヴェリア、すると―


「うわ!

 その杖、物理的に使うのかよ!

 なんだこれ?ブラックホール?」


 杖を中心として、何もなかったはずの空間にヒビが広がっていく。

 ヒビ割れは空間をボロボロと剥がれ落ちさせ、中からどす黒い渦巻いた穴が出現する。


「さあ!行きますよ!」


 ノヴェリアのスラリと美しい手が、俺の腕を掴む。


「え!

 心の準備が!

 ああああああああああー!」


 力強く引っ張られ、半ば強制的に2人で穴に飛び込む。

 その直後、先ほどまで俺たちが立っていた場所や、ノヴェリアのデスク、黄金のタイプライター、白い世界のすべてが崩れ去った。



 

 全身が中を舞う感覚、落下しているようにも上昇しているようにも感じる。

 トラックに轢かれた直後の感覚と同じだが、今回は意識がハッキリとしている。

 ぐわんぐわんと揺れる三半規管に苦しめられて飛びそうになる意識を、がっしりとノヴェリアに掴まれた腕の感覚が繋ぎ止める。

 そして、永遠にも刹那にも感じられた時空の遊泳の果てに、眩い光が広がって―




 《スキル『無限成長』 獲得》

 《スキル『絶対防御』 獲得》

 《スキル『万物解析』 獲得》

 《スキル『魔法の無効化』 獲得》

 《スキル『空間支配』 獲得》

 《スキル『無限複製』 獲得》

 《スキル『心理の眼』 獲得》

 《スキル『最強』 獲得》

 《スキル『無双』 獲得》

 《スキル『』 獲得》

 《スキル『』 獲得》

 《獲得》

 《獲得》

 《》

 《》

 ……

 ……

 ……


「うるせーーーーー!」


「きゃっ!!!」


 脳内でピコピコ音とともに繰り返されるアナウンスをかき消すように叫ぶ。

 そこで初めて自分は丘の上の草原に倒れていて、声を上げるとともに目を覚ましたのだと気づく。


「だ、だいじょうぶですか?」


 金髪をたなびかせ、相変わらず顔色の悪いノヴェリアが駆け寄ってくる。

 なんだかデジャブを感じなくもないが、明確に先ほどとは違う。

 一面を白に支配された無機質な世界だったさっきとは打って変わって、気持ち悪いほどに気持ちがいい晴天の下、雄大な自然の中に俺たちはいた。

 コンクリートジャングルに住まう現代日本人の俺にとってそれだけでも刺激的なのだが、それを遥かに凌駕する刺激がそこら中に跋扈していた。


 雲を突き抜け赤い巨躯を飛び回させているドラゴン、馬車を走らせる御者、そして遙か先にそびえたつ城塞都市、どれもこれもファンタジー作品でしか見たことがない光景だ。


「本当に来たんだ…

 本当に…

 ひゃっほうーーー!

 異世界転生だーーー!」


 俺は両手を突き上げ、雄叫びを上げる。


 《スキル『雄叫び』 獲得》


「うるさ!

 さっきから何なんだよこれ!」


「あー、それはスキルアナウンスですね。

 こちらの世界では技能や能力、特性、何でもかんでもスキルとして名前がつけられているんです。

 そしてスキルに取得やレベルアップ、喪失など何かしら変化が起きた際にスキルアナウンスが発生するんですよ」


「あーそっち系の異世界ね。

 俺あんまり好きじゃないんだよなぁ。

 なんだよスキルアナウンスって?

 誰の声なんだよこれ、録音?」


「い、いや、そんなコト私に言われても…

 ほ、ほら!『スキルウィンドウ展開』

 こう言えばスキルがズラッと見られるんですよ!」


「うーん…

 それも意味分かんないんだよなぁ。

 ゲームに入り込んじゃったとかなら分かるんだけど、そういうわけじゃないのにスキルウィンドウってなぁ。

 ウィンドウって言っちゃってるし」


「もう!あんまり来てそうそう文句ばっかりつけないでくださいよ!

 何でとか無いんです!

 ここはそういう世界なんですってば!」


 思わずスルスルと読者の時からの文句が出てきてしまった。

 いかんいかん、これはフィクションじゃないんだ。

 あるがままを受け入れなければ。

 せっかくだから獲得したスキルを確認しよう。


「スキルウィンドウ展開!」


 張り切って高らかに唱える。


「うお…!なんだこれ」


 俺の視界の隅に現れた真四角のスキルウィンドウには、厳ついスキル名がズラッと並んでいた。

 更にスクロールバーがあるって事は、まだまだ下に続いてるってことじゃないのか?


「なあノヴェリア、スキルってのはこんなに数えきらないぐらいあるもんなのか?」


「そんなわけ無いじゃないですか。

 それはアレですよ、転生者特典ってやつです。

 やっぱり異世界転生は無双してなんぼですからね〜」


「無双してなんぼって…

 ってゆうか何でここに来たんだよ?

 さっきの世界が崩壊した意味もわかんないし…」


「そうですね、そのあたりのことは街に着いてから纏めてお話しましょう。

 ちょうど向こうに城塞都市がありますね、ちょっとひとっ飛びを……あれ?」


 ノヴェリアは杖をブンブンと振りわすが、何も起こらない。

 しばらく物思いにふけった後、「あっ」と口を押さえて間抜けな声を上げた。


「その世界ではその世界のスキルや魔法しか使えないんでした…

 私はここでは何も出来ないみたいです…

 ぐすん…」


 うわ!泣き出しちまった。

 何も出来ないってお荷物ってことじゃねえか!

 仕方ない、何かワープ的なスキルが俺の方にないかな。


「お!あった。

 なになに、スキル『瞬間移動』、これかな?

 おれ!ノヴェリア!ちょっと手を出してみろ!」


 おいおいと目を擦って泣いていたノヴェリアが、俺の呼びかけに応じて手を差し出す。

 華奢な手をそっと握り、遙か先に見える城塞都市の入り口を見据える。

 そして―


「『瞬間移動』使用!」と唱えるとともに軽くジャンプをした。




「いやー!流石ですね!薙斗さん!

 やっぱり私が見込んだだけはあります!」


 ドンと力強く木製のジョッキを机に激しく置き、顔を真っ赤にしたノヴェリアがご機嫌そうに言う。


「これから重要な話をするんじゃなかったのかよ…」


 瞬間移動を成功させ、意気揚々と城塞都市「エルディアス」へと乗り込んだ俺たちが真っ先に向かったのは酒場であった。

 異世界モノの大定番、城塞都市や酒場に正直俺も大興奮であったが、席について早々語られたのは職場の愚痴であった。


「いくら非常時だからって50連勤ですよ!神権侵害も甚だしいです!」


「同期の女神はドンドン出世してるのに、何で私はまだ現場なんですか!」


「最近の転生者は根性がありません!」


 等々、どうやらこいつに酒を飲ませてはいけなかったらしい。

 社会人経験のない俺は牛乳を飲んで愛想笑いをするしか無い。


 《スキル『聞き上手』 獲得》


 それにさっきからコレもウザいのだ。

 一挙手一投足に対してピコピコとスキル獲得の音がする。

 俺はイライラを抑えきれず、ノヴェリアのブラックエピソードを遮って話を切り出す。


「あの、そろそろ話してくれるか?

 俺が召喚された理由や、さっきのこととか」


「す、すいません!

 業務から解放されて浮かれちゃってました…

 ごほん

 先ほど異世界マルチバースのことは説明しましたよね?」


 ぐでんぐでんだった背筋をピンと伸ばしてノヴェリアは業務モードへと切り替える。


「その異世界マルチバースが崩壊の危機に瀕しているのです。

 崩壊というのは…薙斗さんも身を持って体験しましたよね」


 何も無い白い世界ではあったが、確かにあそこは崩壊した。

 それが普通の異世界、例えばここでも起こりうるということなのか?

 酒場は様々な種族でごった返している。

 こんなところでアレが起きたならば…


「詳細な原因は分かっていません。

 しかし一つ、おかしなことが起きているんです。

 我々はそこに手がかりがあると考えています。」


「おかしなこと?」


「様々な世界へと転生した異世界転生者たち、彼らが次々と消えてくのです。

 もしかしたら消されているのかも」


 消える異世界転生者たち―

 そこには想像も出来ぬほど深く暗い闇が広がっていることを、この時の俺は知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ