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8.

4人の聴き取りは終わったみたいだ。

リーナさんが戻ってきて、衛兵長が後に続いて部屋へと入ってきた。


「待たせたな。まずはリーナにも聞いたが…君達からも今回の件を話してもらおうか。」


俺はシホの顔を見て、頷いてから衛兵長に今回の流れを順に説明していく。もちろん纒爆が無意識に発動したことも含めてだ。


「なるほど…魔纒の存在は知っていたが…纒爆は無意識に発動した、と…確かに昨日の今日で簡単に使えるものじゃないしな。協会関係者からの確認も取れてるし、しかも今回は先に相手が抜剣しているので防衛行動として認められる。」


協会からの口添え?とりあえず自分達はお咎め無しで済みそうだ。リーナさんと協会長には後でお礼を言っておかないとな。

なんて事を考えていると衛兵長が、


「あぁ…それと、君達に絡んだ4人だが。ゴドリック商会の次男と取り巻きでな…魔法を使い動機を自白させたところ…シホさん、だったかな?君が治療院の手伝いとして入ってきたら司祭様の留守を狙って無理矢理に小癒を連続で使わせ前後不覚にし、良からぬ事…さらにはそれを利用して脅し裏ルートで貴族に売り付けるつもりだったらしい。まぁこの計画はすでにクビになった協会の受付が考えたらしいが…」


衛兵長は溜息をつきつつ話しを続ける。


「……今回の主犯、計画を立てた元受付は以前からも個人情報漏洩、人身売買斡旋といった協会での重罪を隠れて行なっていて金銭を受け取っていた罪で犯罪奴隷落ち。ゴドリック商会の次男と取り巻きは前科も無く今回初めて計画に参加、しかし初めてとはいえ恫喝、さらには街中での抜剣の罪で領地内労役2年の刑と決まった。」


おおぅ…思ったより厄介な…


「あの…ゴドリック商会の次男?でしたっけ?俺が吹き飛ばした腕は大丈夫だったんですか?」


「あぁ…あれか…欠損は教会の聖女様クラスにしか使えない超癒か超級の回復薬だけしか治せん。これらは金銭だけでなくそれなりの地位と権力、さらには運が必要だから彼を治すのは無理だな。」


「……俺、状況的に更に商会関係者に絡まれたり、恨まれたりしないですかね?」


「ありうるな。最初に目をつけられ絡まれた時点でそこは運が無かったと思うしかない。さすがに街中では大丈夫だろうが人気の無い路地なんかは近づくなよ?あと…街外は正直自衛するしかないな。」


うん、これは街外で襲われるフラグってヤツだな…

シホを守る為なら…街中での依頼も検討かな。

でも街中も一部治安が悪いんだよなぁ。


「自衛ですか…絡まれた上に恨まれる可能性って…」


「だが…街外で襲われたら殺しにきてるって事だから対処を躊躇うなよ?死人に口なし、生き残った奴の言葉が優先されるか相手が悪党なら行方不明扱いで終了だ。」


薄々は感じていたが、やはりこの世界は街を出ると無法地帯のようだ。街外、街中、どちらにしても危険と隣り合わせだな。それも踏まえてシホに確認だな。


「そんな感じだ。事が起こる前に憶測で衛兵は動けないからな。聴き取りと事件の説明は以上だ。帰っていいぞ。」


「……はい。失礼します…。」


詰め所を出たところでリーナさんに話しかけられる。


「ユキトくん、シホちゃん。明日からの依頼はどうするの?薬草採取を中心?」


「…そうですね、今日と同じ感じで行く予定でしたが…」

隣でシホも首を縦に振っている。


「そうねぇ…街道から近い森の入り口なら人の目もあるし問題ないとは思うけど…かと言って護衛をつける形もねぇ…採取を受けた探索者が合同で動くにも薬草の取り合いになるだろうし…街中の依頼にしとく?」


「うーん…リーナさん、明日の朝まで考えて結論を出します。それでいいですか?」


「大丈夫よ。事が事だから…良く考えて決めてね?」


「「はい。」」


リーナさんと協会前で別れ、宿舎に戻る。

受付のホリィさんが俺達に気づいた…心配そうな顔で、


「ユキトにシホ。トラブルに巻き込まれたみたいで大変だったね…とりあえず晩御飯は今すぐに準備するからそこに座って待っててくれるかい?」


あ、晩御飯のことすっかり頭から抜け落ちてた…

リーナさんが晩御飯の事も伝えてくれてたのかな?


「はいよ、おまたせ!…ユキト?惚けてるが大丈夫かい?」


「…大丈夫です!落ち着いて食べたいので部屋に持っていきますね。」


「気をつけて持ってお行き。後でお湯も言ってくれれば渡せるからね。」


シホとトレイを受け取り部屋へと戻る。

お互い疲れていたのもあり、いただきますをしてから無言で食事を詰め込んでいく。


お湯を貰い、お互いに身体を清め終わり、ベッドに座ったところでシホが…


「ねぇ…ユキト、明日からどうしよ?」


「…うん、嫌で無ければ明日も今日と同じ薬草採取で行こうと思うんだけど…シホが不安なら街中での依頼でもって思ってる。もちろん薬草採取の時に襲われてもシホの守りの祈りと俺の魔纒で対抗できるだろうし、相手が衛兵長クラスの強さまでが前提にだけど…」


「衛兵長クラス…防げるんだ…うん、ちょっと不安だけど薬草採取にしよ?私の祈りとユキトの魔纒を信じてみる…ねぇ、襲ってきたとして、捕まえて衛兵さんな引き渡すってできるかなぁ。」


「…相手によるかな…。でも俺はシホが傷つくくらいなら、躊躇わずに殺す事を前提に反撃するよ。………こんな考えの俺は怖いかな?」


「ううん…今日、宿舎の前で囲まれて…刃物を突きつけるられて…殺されるって思った。もう、ここは日本じゃ無いんだなって…衛兵長さんの話を聞いて弱い者が搾取される世界なんだなって…そして、覚悟も決めてあるよ。ユキト、私を守って。ユキトが怪我したら私が必ず治すから!」


「うん、必ず守る。」


シホの隣に腰掛け抱き寄せる。少し震えているがシホも背中に手を回し抱き返してきた。覚悟を決めたといっても不安なのだろう、俺の顔を上目遣いで見つめながらお願いをしてくる。


「ねぇ…ユキト。今日は一緒に寝て貰ってもいい?」


「もちろんだよ。」


灯りを消しシホの隣に寝転ぶ。シホは軽く俺に抱きつき落ち着いてきたのか、しばらくして寝息をたてはじめた。


俺は今日一日を振り返って荒事とは無縁だった日本にいた時とは違う感覚を振り返っていた。

魔物や4人組に対峙した時、初めて敵意や殺意を向けられたのに震えや怯えなんてものはなく、冷静だったこと…魔物の攻撃や武器を向けられた事に対して躊躇う事なく反撃したこと…死んだ魔物や吹き飛ばした腕を見ても忌避感も無く気持ち悪くならかったこと…自分自身ではあるのに他人の目で俯瞰してる感覚だった。

それに、シホにしても恐怖は感じていたみたいだが、泣いたり喚いたりといった感情の発露はみうけられなかった。

この世界、遊戯盤の駒の役割として心が壊れないように感覚をいじられた?もしくはマスクデータ的な耐性をつけられたか…タブレットに表示されてたステータスは少なかったしな…マスクデータの可能性大いにありだな。


でも、襲ってこないでくれるのが一番だ。

逆恨みは勘弁してほしい。

とにかく、警戒は怠らないように気をつけていこう。


そんなことを考えてるうちに瞼が閉じていく。

シホを起こさないように改めて軽く抱き寄せ眠りに落ちていく。









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