暗殺少女は転生する
初投稿です。文章のおかしなところは大目に見てください
両親は物心ついた時から喧嘩ばかりしていた。
痣だらけの母の腕に抱かれながら、「ごめんね、ごめんね」とひたすら謝られていたのが1番古い記憶。
5歳の時、母を殺した。殺してくれと頼まれたからだ。
それを知った父は狂った。包丁を持って私を殺そうとした。だから私は父も殺した。
善悪の区別などつかなかった。
警察が来る前に、黒い服を着た男の人がやってきた。
私はそのまま彼の組織へと連れていかれた。
厳しい訓練を受けた。次第に痛みも感情もなくなった。
10歳の時、暗殺任務を受けた。命じられるままに人を殺した。任務に失敗した仲間たちは次々といなくなっていった。
17歳の時にはもう何人殺したか分からなくなっていた。そんな自分が怖くなった。
18歳の誕生日、私は海に身を投げた。
もうこれ以上、罪を犯したくなかった。
神様、もし私を許してくださるのなら来世はどうか普通の生活をさせてください…。
(ねえ、あなた私の代わりにならない?)
声が聞こえて、思わず目を開いた。陽の光を受けた水面に誰かの影が映った気がした。
意識が途切れた。
「…様、…ア様、リリア様!」
誰かの声がする。ゆっくりと目を開けた。
知らない天井、知らない匂い。
「ここは…?」
「ああ、良かった!意識が戻られたのですね!」
メイド服を着た女性が視界に入ってきた。
ピンク色の髪に緑色の目。物語の中でしか見たことがないような派手な見た目をしていて、なにより…
(ねこ、みみ?)
明らかに動物の耳が生えている。体は人間なのに。
体を起こすと、周りに他に数人いることに気がついた。
全員もれなく派手な髪色と目の色をしている。獣耳が生えているのは1人だけだったが。
「天国…?」
私は間違いなく死んだし、周りの人間(?)も普通じゃない。
つまりそれしか考えられないのだが…。
「もう、冗談はやめてくださいリリア様!本当に危なかったんですから、笑えませんよ」
猫耳が怒ったように否定した。
「リリア様…?」
「…どうかしましたか?」
「だれ、それ?」
一瞬の沈黙。
全員の呆気に取られた顔。しまった、と思った。
「えぇぇえええぇええええ!!??」
大きな叫び声。
慌てふためくメイドたちを他所に、
(めちゃくちゃ部屋広い…。ベッドもふかふかで大きい。どこかの貴族のお嬢様みたいな部屋だなぁ。)
ぼんやりと部屋を観察していた私だった。
「頭を強く打ったせいで、おそらく記憶障害をおこしているね。治るかどうかは人によるからなんとも言えないけれど…」
白衣を着たおじいさんがそう説明した。
(医者かな…?。白衣はここにもあるのか)
少しだけ親近感が湧く。
「思い出す時は自然と思い出すから、無理に治そうとしないように」
「はい…」
医者と共に、不安そうなメイドたち数人も出ていった。
残されたのは私と猫耳だけだった。
(記憶喪失ということに落ち着いたのだし、自分のことを聞いても不自然ではないよね)
どうやら私は、「リリア」という人物になっているらしい。(転生…?前世の記憶をリリアが思い出したというところか?。それで入れ替わりに私がリリアの記憶を忘れた。うん、辻褄は合う)
普通考えられないことだが、周りの環境が普通ではないので、そういう現実離れしたことも十分考えられる。
ふと、死ぬ前の一瞬の記憶が蘇った。
『私の代わりにならない?』
あれはもしかして…
「…リリア様、本当に何も覚えてらっしゃらないのですか?」
ずっと黙っていた猫耳メイドが口を開いた。
真っ直ぐ見つめてくる黄色の瞳には辛そうな色が見えた。
「ごめんなさい。あなたが誰かも分からないの。良かったら私のことについて教えてくれない?」
申し訳なさを感じつつも、下手に演技したりすることはやめた。しゅんと猫耳が垂れる。
「なぜあんなところで倒れていたのか、お聞きしたかったのですが…仕方ないですね」
「?」
「いえ、何でもありません!」
少しだけ気になることを呟いていたが、深く追求しない方が良さそうだった。
「私は、リリア様の専属メイドのシャルロットです。気軽にシャルとお呼びください!」
「シャル…?」猫で、シャルか。
「なんでもお聞きください。リリア様のことならなんでも知ってますから!」
ふん、ドヤ顔をするシャル。先程とは違い耳はぴんと立っている。
私の名前はリリア・アウイナイト
由緒正しい公爵貴族の14歳の一人娘。婚約者がいてこの国の第3王子シリウス・ダイアモンドという同い年の男の子。
リリアは普段大人しく控えめな性格で、品が良くて可愛らしいと周囲から褒められていたらしい。
反対にシリウスは横暴な性格で目に余るらしいが、王子であることに加え、剣術や魔法の才があり誰も何も言えないそうだ。
そう、この世界にはなんと「魔法」が存在するらしいのだ。
「リリア様はあまり得意そうではなさそうでしたが、魔法を使っていらっしゃいましたよ。火、水、風、土の基本属性魔法というのがあるのですが、アウイナイト家は水の一族。リリア様も水魔法が使えていましたね」
普通1人ひとつの属性魔法しか使えないらしい。その唯一の属性が水って…。
(前世が溺死ってこと考えたら皮肉っぽいなぁ)
シャルの話をまとめると、この世界はどうやら魔法がある中世のヨーロッパみたいな世界らしい。
(本当におとぎ話の中みたいだ)
シャルが部屋から出ていったあと、部屋に置いてあった姿見の前に立ってみた。
さらさらの銀髪に透き通るようなコバルトブルーの瞳。
自分の容姿も例にもれず派手だった。
(でもこれがこの世界の普通なんだよね。慣れなくちゃ)
なぜ私はこの世界に、リリアに転生したのだろうか。
(普通の生活を送りたかった私と、人生を代わって欲しかったリリアの願いが一致した?)
豪華な部屋があって、綺麗な服があって、優しい使用人たちがいっぱいいて、リリアは何が不満だったんだろう?
(何が辛いかは人によるから、なんとも言えないか)
謎は多いけれど、せっかく与えられたチャンスを無駄にはしない。
今世こそ、真っ当な普通の生活をして、人並みの幸せを手に入れるんだ。
(まずはこの世界のことをもっと知らなくちゃ)
そう思って部屋を出た。