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エピローグ 返して貰うからね...

史佳REPETION!

 昨日は酷い悪夢を見てしまった。

 三年も経ったのに、私の脳裏から消える事が無い。

 それだけの事をしてしまった罰だと分かっているが、本当に辛い三年間だった。


「やっと今日で終わりか...」


 ゆっくり身体を起こし、ベッドから這い出す。

 部屋にはベッドと最低限の家具以外何も無い。

 ここでの暮らしも今日でおさらば、私はようやくここを離れる事が出来る。


 離婚の後、私はこの施設に入れられた。

 現実を受け入れられず、大暴れしたのが原因だった。

 嫌だったが三年我慢したら、亮二さんと再婚させてあげると言われ、受け入れざる得なかった。


「慰謝料は謝罪よ、亮二さんはちゃんと受け取ってくれたし」


 亮二さんは慰謝料を要らないと言った。

 お金は惜しく無かったが、離婚は不本意だった。

しかしケジメの為応じるしか無かった。


 要らないと言っていた慰謝料を受け取ってくれた亮二さん。

 きっとそのお金で私との再婚を楽しみにしてる筈だ。


 クズ野郎との不倫は結局婚約者にバレた。

 なぜバレたか、詳しくは知らない。

 おそらく私が会社を退職し、離婚したのが切っ掛けだと思う。


 クズ野郎の婚約者に対する慰謝料は50万と決まった。

 亮二さんの慰謝料で預金は底を着いていたが、両親が建て替えてくれた。


 50万が相場と比べて少ないか分からない。

 結婚する前に正体が分かったから、温情だと婚約者側の弁護士が言ったと両親から聞かされた。

 それなら慰謝料なんか請求するな。


 その後、クズ野郎とその家族がどうなったか知らない。

 それこそ興味が無い、私の人生を滅茶苦茶にしたんだ、クズ野郎が死んだなら嬉しいのに。


「...史佳」


「お父さん!」


 部屋の扉が開き、お父さんが顔を出す。

 久し振りに会うお父さんは三年の間に随分と老けてしまった、まだ50代なのに。


「行くか...」


「うん」


 私はバッグを手に部屋を出る。

 三年過ごした施設の部屋を...


「気持ちいい」


 お父さんの運転する車に乗り、助手席の窓を開ける。

 秋風が私の頬を通り抜けた。


「お母さんは?」


「ああ、母さんは洋太の高校の運動会だ」


「高校の運動会?」


 はて洋太は兄の子供だけど、三年前は小学校一年だったから今は小四だよ?


「小学校の運動会じゃないの?」


「そ、そうだったな」


 お父さんは、しまったって顔をした。

 うっかりしてるな。


「しっかりしてよ」


「...そうだな」


 苦笑いのお父さん、でも早く子供は見せたいな...亮二さんとの子供...


「亮二さんは元気?」


「ああ...元気にしてるそうだ」


「そう」


 今、亮二さんは紗央莉と一緒に居る。

 だが私が戻る三年の間だけ、つまり仮初めの夫婦だ。

 私が戻ったら亮二さんを返して貰う約束を両親を通じてお願いした。


 三年。

 私が亮二さんと過ごした三年の結婚生活を紗央莉に代わってあげてるだけ。


「直ぐに再婚するからね」


「...そうだな」


 あれ、どうしてお父さん泣いてるの?


「しっかりしてよ、直ぐにお爺ちゃんなんだから」


 亮二さんの子供は私が産む。

 これだけは譲れない、絶対に良いお母さんになるんだからね。


「幸せな家庭...もう壊したりしないから...」


 もう亮二さんにあんな目はさせない。

 あの目を思い出すだけで...私は...



「...着いたぞ」


「ありがとう」


 いつの間にか眠っていたようだ。

 車は一軒の建物前に止まっていた。


「さあ史佳」


「うん」


 ここで私は三年間過ごす。

 亮二さんと会う為の条件、三年の我慢。

 不倫の代償...それが済んだら私はもう一度亮二さんと夫婦になれる。


「それじゃ」


「ありがとうお父さん、またね」


 施設の人とお父さんを見送る。

 三年したらお父さんは私を迎えに来てくれる約束。

 離婚の事で随分暴れたからな...

 私は施設の人に連れられ、部屋に案内された。


「ここです」


「ありがとう」


 扉が開き、部屋に入る。

 ベッドと僅かな家具が置かれた粗末な部屋。

 扉が締まり、鍵が掛けられる。

 初めての筈なんだけど、なんだか不思議。


「さてと」


 鞄から荷物を取り出す。

 それは一つの携帯電話、亮二さんの使っていた物。


「...ふふ」


 電源を入れる。

 無機質なディスプレイ画面が浮かび上がるけど寂しくは無い。

 中には私の名前がちゃんと登録されている。

 これは私が亮二さんの妻だった証。


「三年よ、三年したら亮二さんは返して貰うからね紗央莉...」


 私は携帯に語り続けた。

おしまい

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― 新着の感想 ―
[一言] なんつぅーか…切ないね
[気になる点] >「ああ、母さんは洋太の高校の運動会だ」 本題と関係ないけど、父兄が見学する運動会って幼稚園と小学校まで。実施も日曜日。 中学と高校の運動会は父兄不参加だった気がする。そもそも平日だ…
[良い点] ああ壊れちゃったんですね......
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