その目は止めて!!!
亮二の瞳は...
玄関で帰宅した亮二さんを迎える。
帰って来てくれたという事はまだ話し合う余地があると思ってくれたに違いない、
『どこに行ってたの...あのまま消えちゃうんじゃ無いかって心配で...』
亮二さんの目は昨日と変わらず、私を映していない。
でも大丈夫、ちゃんと説明するからね...
『史佳!!』
『貴女は何を言ってるの!』
お父さん達の怒鳴り声がうるさい。
その後ろには島尻さんと紗央莉、後は男と初めて見る男女が居る。
あれが男の両親ね、これで全員揃った。
『ちゃんと説明するから』
そう説明すれば分かってくれる。
だって私は亮二さんを愛してる、その事はみんな知っているんだ。
不倫は間違いだった。
愛してるのは亮二さんだけ、男の顔を見ても嫌悪感しか沸いて来ないのだから。
気を取り直し、リビングへ足を進めた。
『さあ座って』
私の言葉に紗央莉達が部屋の中を整理し始める。
何の真似だ?少し散らかっている位で。
見せつける様な紗央莉の行動に腹が立つ。
『それじゃ始めるか』
島尻さんの言葉に亮二さんが頷く。
これからよ、先ずは告白しないと私の罪を...
『私...一年前から浮気をしてました』
『そっか』
土下座をする私に返って来たのはその一言だけ。
何の気持ちも入って無い彼の答えに頭を上げられない。
『ごめんなさい!!』
再度床に頭を擦り付ける。
これなら...伝わるよね?
『白井亮二君だったかな』
頭越しに聞こえる男性の声、これはきっと男の父親だろう。
『そうですが...』
『この度は家の馬鹿息子がすまなかった』
『本当に申し訳ございません』
男の両親も謝ってる。
当たり前だ、コイツが私を口説かなかったらこんな目に遭ってないのに。
私は頭を下げたまま亮二さんと二人のやり取りを聞いた。
『貴方達は?』
『私は君の奥さんが浮気をしていた楠野満夫の親だ、本当にすまない!』
勢いよく床に何かぶつかる音がする。
視線を向けると男と家族が土下座をしているのが見えた。
表情までは伺い知れない。
だけど優しい亮二さんの事、反省の気持ちは...
『頭をお上げ下さい』
『そんな訳には』
『貴方の息子さんは存じております。
どうか史佳さんを幸せにして下さい
私は史佳さんを幸せに出来ませんでした。
僕なりに頑張ってみたんです、誕生日や記念日には必ずプレゼントを送ってお祝いしました。 旅行も行きました、スマホだっていつ見ても良いようにしてましたよ
でも満夫さんの方が史佳を...いや史佳さんに相応しかったのです。
だから彼女を宜しくお願いします』
『...亮二まさか...嘘よね?』
今何を言ったの?どうしてそんな話に?
なぜ相応しいとかに?
私は亮二さんしか愛してないのよ?
こんな奴と一緒なんか冗談じゃない!
『本当だよ、だって史佳は幸せにしてって結婚の時、俺に言ったでしょ?』
『違うの!私は幸せだった!』
本当に幸せだったんだ!
男との浮気なんか間違いだった!
全く本気じゃなかったのに!!
頭に血が昇り、男と過ごした悪夢の時間が心を締め付ける。
どう説明をしたら分かってくれるの?
『私が悪いの!楠野さんとつい過ちを!』
『過ち?』
『仕事の相談を受けてる内に、頼られて....口説かれるままに...私は...あぁ!!』
激しい後悔、頭を何度も床に叩きつける脳裏に、男に許してしまった悪夢の時間が....
『...婚約者?それは史佳さんの事ですよね』
『...違います』
『違うの?』
悪夢に呻いていると亮二さんの呆れた声が聞こえる。
どうやら男に婚約者が居る事に話が及んでいる様だ。
この期を逃してはダメ、本心を言わないと...
『楠野君が結婚するまでのつもりだった...彼が結婚したら私達の関係は終わらせる...そう決めてたの...』
『馬鹿!!』
頬に走る激しい痛み。
そこには鬼の形相をした紗央莉が私を睨んでいた。
『何が終わらせるつもりよ!
ずっと亮二を放ったらしといて、貴女の誕生日にその男とホテルに泊まった事は調べが着いてるのよ!!』
『アァァァ!!』
止めて!!また悪夢が甦るじゃないか!!
あれは間違いなの!!どうかしていたんだ!!
『慰謝料はいくらでも払う!どうか内密にしてくれ!!』
『お願いします!!』」
『どうか...婚約者に...バレたら終わりなんだ』
亮二さんそんな奴等の戯れ言なんかどうでも良いのよ...
コイツ等の事なんかより私の...
『良いですよ』
『亮二君、それは...やり直して...』
まさかコイツの罪を黙って見過ごすの?
それじゃ私の過ちも...
『彼女も一緒に幸せにして上げて下さい』』
『『『は?』』』
今何を?
なんで亮二さんは笑顔で私を指差してるの?
『だから史佳も一緒にですよ、出来るでしょ?
一年も俺や、そちらの婚約者さんに気付かれず浮気をしていたんだし』
『嫌よ亮二!!』
どうしてそんな酷い事を言うの?
亮二さんと別れるなんか冗談じゃない!!
『大丈夫ですよ、決して他言はしません。
離婚理由も性格の不一致にしますし、慰謝料も結構ですから』
『その目を止めて!!』
止めて!この前から、もう何も興味ないって、その目...お願い...』
...冷たいだけじゃない...亮二さんの目には私に対する怒りでも、無関心でもない。
闇、全てを絶望に導く狂気が...
『幸せになって欲しいんだ、仮にも愛した人だし』
『だから...その史佳にチャンスは無いのかね』
そうよお父さん!私は最後のチャンスが欲しいの!
『そんな物ありませんよ、俺は史佳にとって必要無いみたいだし』
『違うの!私気づいたのよ!!
亮二が一番大切だって!!もうこんな事しません!預貯金も全部上げます!
隠し事はしないから!!』
一生奴隷の生活で良い、傍に居させて!
そうじゃないと私は...
『部屋を見たろ?
もう邪魔な結婚写真や、思い出の品は全部処分したんだ。
ついでに俺のスマホも見たか?
安心しろ、一枚残さずお前の写真は消去したから』
『...だから何も無いのね』
持って行ったんじゃ?
処分って、まさか捨てたり...そんな事しないよね。
『金は大切にしとけよ、来年には家を買うんだろ?
28歳には子供って言ってたし、最愛の満夫君と幸せに。
それと婚約指輪は公衆便所に流したから、糞みたいな結婚生活ごめんね』
そう言って亮二さんは私の肩に手を置いた。
(26歳でマイホームを買って、28歳には子供)
それは結婚した時に二人で決めた人生の目標。
そうよ、だから私は必死で仕事を頑張って...
私は亮二さんの瞳を見つめた。
肩に置かれた亮二さんの手は冷たく、思考までも急速に冷えて...
(あれ?私この一年遊び歩いてて、貯金が増えるどころか減ってたよね?
遊びやホテル代は殆ど私持ちだったし)
(子供?
なんで他所の男に抱かれてたの?
避妊してたけど、妊娠したらどうするつもりだったのかな?
私は一体誰の奥さんだったの?)
(婚約指輪をトイレに?
なんでそんな事を?糞みたいな結婚生活?
そんな事無いよ、亮二さんは悪くない。
だって私がそうしたんだもん。
自分から亮二さんを捨てて、傷つけたんだから...)
『...アカガカガ!!』
思考が真っ黒に染まる。
頭が痛い!!何なの?私は亮二さんの妻でしょ?
彼に相応しいのは紗央莉じゃない!私なんだから!
(亮二さん助けて!!)
必死で呼び掛けるが、もう声は出ない。
静かな笑みを浮かべる亮二さん、その隣には...
(...紗央莉)
僅かな意識の中見た紗央莉。
その顔は笑っているよう見えた。
そして現在へ、エピローグ!




