まだよ!!
長くなりそうだから分けます
『どうしたの史佳?』
電話に出た紗央莉はいつもと変わらない、その態度は私を一層苛立たせた。
『...亮二が!亮二が出ていったの!!
携帯まで置いて行って連絡が取れないのよ!』
『...へえ』
『紗央莉、亮二さんがどこに行ったか知らない?』
『知るわけ無いでしょ』
冷えきった紗央莉の声に息を呑む。
今まで聞いた事が無い、これが本当の紗央莉だったのか?
『家の中を調べたら?何か出てくるかもしれないし』
紗央莉の言葉に私は棚の引き出しを開いた。
中の小物が床に飛び散る。
そして私は違和感に気づいた。
『指輪が無い!!』
『指輪?』
紗央莉の言葉を無視し、開いた指輪ケースを確認する。
中に入っていた筈の婚約指輪が無いのだ。
大切にしていた私の宝物....
『まさか!?』
棚に入っていたアルバムを引っ張り出す。
ここには私と亮二が出会ってから5年の記録が詰まっているのだ。
『...無い』
アルバムには何も入ってない、大学時代から現在に至るまで、恋人時代から最近の旅行まで...一年前まで、不倫が始まる直前まで...
『グエェ...』
激しく込み上げる胃液、トイレに駆け込み吐瀉物を吐き出す。
不倫の記憶が一気に甦り、自分の行いが一気に跳ね返って来た。
握り締めていた亮二の携帯を再び開く。
もう決定的になった、亮二は私の想い出を全て持ち去ってしまったのだ。
『...やっぱり無い!なんで?私の写真が一枚も無い!!何も残って無い!!!』
亮二さんの携帯待ち受け画面は私と二人で撮った写真だった。
だが、私が見る携帯には無機質な設定画面しか映し出されていないのだ。
全てのフォルダーを開くが、私の写真は一枚も残されていなかった。
どうしてなの?亮二さんは想い出を全て消したの?
『...紗央莉』
一頻り泣きじゃくって、自分の携帯を再び手にする。
紗央莉は通話を切らずに待っていてくれた。
『落ち着きなさい...ひょっとして史佳...私や亮二に何か隠し事してない?』
『な...なんの事?』
紗央莉の言葉に全身の毛穴が開き、冷や汗が吹き出した。
『何も無いなら良いけど...先に自分から言った方が良いわよ...取り返しが着かなくなる前に』
『...分かった...後で連絡する』
もう観念するしかない。
亮二は私の浮気に気づいて出ていったのだ。
ここで否定するのは事態を悪化させる、私が出来るのは既に不倫は終わったと伝え、誠心誠意の謝罪をするだけ、それには全員集めないと。
『もしもし...満夫...楠野さん?』
男に連絡を入れる。
長いコールの後、男は煩わしそうに出た。
『なんだよこんな時間に突然、もう連絡は取り合わないって約束だろ?』
不機嫌そうな男の声。
私がこんな事になったのはお前のせいでもあるのに。
『バレたわ』
怒りを堪え、男に伝えた。
『はあ?』
『旦那が出ていった』
『...おいマジかよ』
迷惑そうな男、こんな奴と私は...
『そっちで何とかしてくれよ、もう俺達は終わったろ?』
『そうだよね、アンタにとって私は都合の良い女だから』
男の言葉を聞いても怒りが湧かない。
ただ、逃がす訳に行かないのよ...
『もう良いか?ヘマしたのはお前なんだから、自分で責任取れよ』
これで話を終わらせようなんて、本当にバカね。
『会社に全部言うわ、貴方と不倫してましたって』
『ま、待ってくれ!そんな事したらお前も終わりだぞ!!』
男が電話口で怒鳴る。
なにが終わりだ、脅しのつもりか?
『このままじゃ終わりなの、アンタも私もね』
『そんな...あれは遊びだろ?
なんで今更...』
遊びか、確かに最初はそうだった。
いつでも戻れる恋愛ゴッコ...でも亮二を傷つけた。
私だけ謝って済む話じゃない。
『嫌なら明日朝イチでここに来なさい、私と一緒に旦那に謝るのよ』
『出来る訳無いだろ!』
あらあら、まだそんな事言うんだね。
『あっそ、なら終わりね。せいぜい覚悟してなさい、婚約がどうなるかな?』
『わ...分かった』
最初からそう言えば良いのよ、それじゃ後は。
『両親も連れて来なさい』
『親は関係ないだろ!!』
『一緒に謝るの、そうしないと終わっちゃう...』
『お...おい!?』
用件は伝えた、男はまだ何か言いたいみたいだが通話を切り、着信拒否にする。
早くしないと時間が無い。
先ほど島尻さん夫婦に送ったメールには返信は無い、短く最後のメッセージを入れた。
[亮二さんに連絡が取れましたら、明日朝、話をしたいとお伝え下さい]
これで良い、次は私の両親だ。
『もしもし...お母さん』
『史佳、どうしたのこんな時間に』
お母さんの携帯に電話をする。
こちらは直ぐに出てくれた。
『お母さん、私浮気してました』
『はい...?』
『...お母さん?』
電話口の向こうでお母さんが黙り、無言が続く、早くしたいのに。
『どうした史佳』
『お父さん?お母さんは?』
なんでお父さんが出るの?
『椅子に座って泣いてるよ、お前...まさか』
『浮気してたの、亮二さんにバレたみたい、だから来てくれない?』
『...そうか、明日朝行くから亮二君は?』
『出ていった』
『何だって?』
『詳しくは明日言うから、じゃ』
もう言う事は無い。
それより明日の話し合いだ。
なんとか亮二に謝罪を受け入れて貰わなくてはならない。
離婚は絶対に嫌だ、お金で済むならいくらでも出す。
仕事を辞めろというなら直ぐにでも辞める。
もう浮気なんか絶対にしない、
今度こそ亮二さんを一人にしないからね。
全ての着信を拒否にし、リビングで踞る。
脳裏に浮かんで来るのは幸せだった日々。
アルバムや写真のデーターなんか消去されても、私の携帯にはまだ沢山残っている。
消えたらまた復元すれば良いのだ。
幸せな時間をもう一度積み上げれば良い、もう紗央莉は要らない。
『紗央莉になんか渡すもんか...』
来たら引導を渡してやる、再構築するのだ。
絶対に別れてたまるもんか!
一睡もしないまま、夜が明けた。
朝になり、自宅のインターホンが鳴る。
それは両親からだった。
亮二さんが来るまで何も話すつもりは無いと通話を切った。
部屋を徘徊しながら彼の帰宅を待つ。
とにかく無事な姿を見たかった。
『ただいま...』
亮二さんだ!!
愛しい彼の声にリビングを飛び出し、玄関へと走った。
本編、後一話。
で、最後は...エピローグかな?




