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アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~  作者: 有沢真尋
第一章 旅立ち

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おやすみなさい

(普段なら、今の時間はもう夕食を済ませて、戸締まりを確認して、ゆっくりお茶を飲んでいる頃ね)


 行きましょう、と言いながらドアの前に立ったラファエロ。

 真鍮のノブにかけられた手を、アリスはぼんやりと見つめた。

 長い指。骨ばっていて、触れたら固そうであるが、柔らかな物腰の外見同様に優美さが漂っている。

 その手を見ていたら、不思議と、全身から力が抜けた。 

 アリスは無言のまま、ゆっくりとその場で膝を折る。


「アリスっ」


 ほとんど反射のようにラファエロが反応して、腕を伸ばしてきた。

 抱きかかえるように支えられる。自分でもどうにもできないほど重い頭が、ごつんと引き締まって固い胸にぶつかった。

 目の前が暗い。


「ごめんなさい。急に、足に力が入らなくなっちゃって……」

「わかった。謝らなくていい。そのまま身を任せて」


 言うなり、さっと両腕で抱き上げられた。抵抗など考える間もなく、されるがままに運ばれる。

 ラファエロは早足で部屋の中へと引き返し、ベッドの上にアリスの体をそっと横たえた。

 アリスは起き上がろうと試みたが、どこもかしこも脱力しきっていて、意のままにならない。

 諦めて、片腕を持ち上げる。目を閉ざして、手の甲を瞼にのせた。

 張り詰めていた糸が切れたように、大きな溜息が出てしまう。


「疲れていたみたいです。色々あったので。ここまで安全に連れてきてくれて、ありがとう。ごめんなさい、あなたも疲れているのに……」

「俺は大丈夫。気づかなくて悪かった。あんなことがあって平気なわけないな。もっと気を配っているべきだった。ここは安全だから、楽にしていて。落ち着くまでそのまま」


 アリスは目を瞑ったまま、ラファエロの声を聞くことだけに意識を集中した。


(優しい話し方。綺麗な発音。手も、剣を持つひとの力強さがあったけど、嫌な感じが全然なかった。このひとのことは、信じたい)


 自分のひとを見る目は確かだと、自信を持って言うことなど、とてもではないができない。

 それでも、荒らされた工房を目にしてからずっと抑え込んできた強い感情が溢れ出しそうで、そばにこのひとがいてくれて良かった、と素直に感じた。


「せめて食事まで気力が持てば良かったんですが。あまり食欲はないみたいです。私はここに残ります。あなただけで」

「アリスを一人にするわけにはいかない。食堂に声をかけて何かもらってくるから、部屋ですませよう。食べることができなくても、せめて飲み物だけでも。まずはゆっくり休んだ方が良いね。今日のことや、明日以降の話は起きてからで十分だ。今はアリスが回復することが大切」


 決して、押し付けがましくない口ぶり。

 聞いているうちに安らかな気分になってきて、ほっと安堵の吐息がもれた。

 一日の出来事を思い出すのは辛く、記憶に蓋をして良いならしてしまいたい。ほんのいっときでも忘れて、楽になりたい。

 思いとは裏腹に、恐怖や不安が絶え間なく襲いかかってくる。

 何か気を紛らわすことはできないものかと記憶を探ってみたら、ふと先程の宿の主人との会話が思い出された。つい、笑ってしまった。


「新婚と、駆け落ち、結構違うと思ったんですけど。二人とも雰囲気で会話しているから。結局、どちらということになったのかな……」


 瞼にのせていた手をずらしながら、目だけでラファエロを探す。

 顎に手を当てて、考えるようなまなざしになっていたラファエロは、すぐに気付いて顔を向けてきた。前置きもなかったのに、なんの話かはすぐにわかったらしい。


「駆け落ちして、二人きりで誓いを立てたところだ。あなたと俺であれば、無理なくそう見えるはずだ」

「見えるでしょうか」

「見える」


(断定されてしまった)


「……変な会話ですね」


 正直に告げると、ラファエロはやや慌てた様子で「あれは向こうから話をふられたので……」と言い訳するように呟き、途中で口をつぐむ。

 アイスブルーの瞳でアリスをじっと見つめてから、ふっと息を吐き出した。


「話せるくらい回復したみたいで安心した。そのまま横になっていて。食べる物をもらってくる。すぐ戻るけど、眠いなら寝ていていいよ。鍵を持っていくから、もし俺以外が部屋を尋ねてきても、決して開けないように」 

 

 言い終えて、さっと身を翻す。

 背で、束ねた銀髪がはねた。

 その様子を見ながら、アリスはゆっくりと目を閉じた。

 ラファエロが戻ってくるまでに、少しでも体力を回復させようと。決して、寝るつもりではなかった。

 しかし、力が抜けたせいか、あっという間に眠りに引きずり込まれてしまった。


 目を覚ましたのは、一夜過ごした後。

 翌朝すでに空が白み始めた頃であった。


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