赤色と蒼色
「Restart:双子の星を受けし者たち」のサブストーリーです。
コタローがゲーム『ウェポンマスター』に関わる以前のお話です。
Restart:双子の星を受けし者たち
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本編もぜひお読みください。
俺は、養子だった。その事に気づいたのは思春期真っ盛りの中学二年の時だ。ずっと大事に子供として育てられてきたけれど、血がつながっていないとわかると、複雑な気持ちだった。
「そんなに落ち込むことじゃなくない?血がつながっていないからって何よ?何か不便でもあるわけ?」
そう言って寄こしたのは、従妹の福田優士だ。4歳年上で家こそ別棟だが兄弟のように育ってきた。俺はゆう兄が大好きだった。ゆう兄は優しくて、人一倍お人好しで、誰とでも友達になれた。クラスでも人気者だったし、俺のクラスの友達ともすぐに仲良くなったし、人間だけではなくて犬とか猫とかにも好かれている不思議な人物だった。今は高校卒業して家業を継いで仕事をしている。
「アオイさぁ、難しく考えすぎだよ。誰かに何か言われても『俺は下楽蒼井だ。ほかの誰でもない』って堂々と言ってやればいいんだよ。だって実際、お前が違う家の子供だからっておじさんとおばさんは何か嫌なことしたかい?」
「いや、父さんも母さんも俺をちゃんと育ててくれた。赤の他人の俺を。」
「その考えがまずおかしいのよ。おじさんとおばさんは、子供が欲しくてアオイを養子にしたわけ。だから血がつながっていなくてもちゃんと親子なんだよ。」
そんなことはわかっている。母さんは昨年病気で亡くなる寸前まで、俺のことを心配してくれていた。母親としてちゃんと育ててくれていたし、たっぷりの愛情もくれた。父さんも厳しかったけれど、それは俺がきちんとした大人に育つように厳しくしていたのであって、愛情表現なんだってわかっている。だけど、血がつながっていなくて一番ショックだったのは、ゆう兄とも赤の他人だったということだ。
「そんな難しい顔しないでよ。だいたい、養子だからってバカにされることでもないし、複雑に考えることでもないよ。何がダメなのよ。何がアオイをそんなに困らせているわけ?」
「俺は……俺は、ゆう兄と血がつながっていないのがくやしい。」
「……」
暗く俯く俺の顔の前に、驚いた顔でゆう兄がのぞき込んできた。
「驚いた。そんなに俺のこと好きでいてくれてるの?」
「変な意味じゃなくて!だけど、俺はゆう兄が大好きで、憧れていて、本当にお兄ちゃんみたいだと思って育ってきたんだ。ただでさえも兄弟でなくて従妹だったのに、さらに血もつながっていないなんて……。」
「そんなこと気にすることなのかなぁ。兄弟じゃないからって、血がつながっていないからってそんなに遠い存在になってしまうかい?俺はここいるし、アオイもそこにいる。話しかければ答えてくれるし、俺も話しかけられれば答える。いつものように一緒にゲームして遊んで、相談したり愚痴言ったり。何も変わらないじゃないか。」
心の奥では俺もそう思っていたはずなのだが、思春期の俺が引きこもりになるには十分な理由だった。
それから、中学校は暗い性格のまま、友達も一切作らず、高校へ進学した。「暗い野郎」のレッテルを貼られた俺は、高校でも友人と呼べる人は作らず、つまらなく過ごした。ゆう兄とは直接会うことは少なくなったが、毎日ゲームの中で顔を合わせた。対戦格闘ゲームで叩き合うだけだが、その時だけは正直な気持ちで話をすることができた。
「ラク~。高校どうよ。」
「それって対戦しながら話す内容?」
「だって、全然最近話しに来てくれないじゃん。」
「フクだって忙しそうじゃん。」
「そうなのよ。忙しいのよ。ラク、高校卒業したらうちの会社手伝いに来てよ。」
ラクは俺のキャラクターネームで、フクはゆう兄のキャラクターネームだ。下楽の「楽」と福田の「福」から取っている。二人合わせて、楽に福が来るようにって、ゆう兄に勝手に決められた。
俺は、高校生活を終えると、ゆう兄に誘われるまま、ゆう兄の家業を手伝うことになった。就職活動もままならなかったから、ありがたい助け舟だった。人と接するのは苦手だが、事務員くらいならできるかもしれない。俺は家を出て一人暮らしをすることにした。母さんが亡くなってから、父さんとの会話も減り、俺が家にいても部屋に引きこもってばかりなので、父さんにはさみしい思いをさせてしまったと思っているが、いつまでも引きこもっているわけにはいかない。
いざ、ゆう兄の家業の手伝いに行ってみると、やらされたのは営業だった。
「フク。まず、話が違う。俺は事務員をやりたかったわけ。どうして外回りなの?」
「だって、人手が足らないのは営業の部分なのよ。俺とラクとで100人力だな。ふはは。」
「ふはは。じゃないよ。まったく。転職考えようかな。」
「ラクに必要だと思うからやらせているところもあるんだよ。」
「俺に必要?」
「そう。ラク、中学後半からあまり人と話してなかったでしょ?もっともっと話をしたほうがいいと思って。」
「人と話すのが苦手だから話さないでいたのに、なんで営業やらせるんだよ。」
「大丈夫、大丈夫。ノルマとかないから。」
全く、ゆう兄はいつだってお気楽だ。俺が人前に出てニコニコしながら話をしなくてはいけないなんて、普通に就職活動したほうがマシだったのでは。
そんな会話をしながら、俺たちはいつもの格闘ゲームで遊んでいる。
それからと言うもの、俺はゆう兄に連れられ、ひたすら営業マンとして挨拶回りをすることになる。そこで分かったことと言えば……。
「いやぁ、すみませんねぇ。当社のほうで発注間違えてしまって……。」
「いいよ、いいよ。福田君と僕の仲じゃない。何の問題もないよ。」
「無理言ってすみません。こんなことお願いできるの社長だけなんですよ。」
「いいよ、いいよ。福田君の頼みなら断れないよ。」
と、社会に出てもゆう兄は相変わらず人気者だということだ。これほど営業に向いている人はいないと思う。それに比べ、ただ「付いてきた」だけの俺は、何の力にもならない。
いやだ、いやだと言いながら数か月営業マンをやっていると、それなりに力がついてくるもので、営業マンとしてのノウハウがわかってきた。それと同時にわかったことがある。
ゆう兄は仕事のミスが多い。
「ゆう兄、また発注数間違えそうになってたぞ。ちゃんと正しい数で発注したからな。」
「ゆう兄、これ発送する宛先間違えている。送付伝票直しておくからな。」
俺はゆう兄のフォローをするプロになっていった。そして、もう一つ気付いたことがある。
ゆう兄は騙されやすい。
「アオイ~。聞いてくれよ。すごく良い保険紹介されて、入ろうと思うんだけどどう思う?」
「ゆう兄、この前も医療保険入っただろ。もういいカモになってるぞ。」
「アオイ~。この壺、すごい運気上昇するんだって。会社に置こうよ。」
「いや、それ絶対騙されているから。」
「じゃあ、この水晶は?150万だって。」
「……物の問題じゃないだろ。」
とまあ、これまでどうやって生きてきたんだろうと思うくらい、非常に人を信じやすい。
ゆう兄にはしっかりした人が傍についていないとダメなんだ。今は俺がいるけど、ちゃんと騙されずに嫁さんをもらうことができるのだろうか。
そんな心配をしながら十数年経った。ゆう兄は、途中何度か怪しい女性に引っ掛かり、いくらかお金をだまし取られたことと、危うく結婚までしそうになったことを除けば、この10年くらいは何事もなく平和に暮らしてきたと思う。
そんなある日、会社に木村と名乗る人が訪ねてきた。俺とゆう兄に話があるらしい。俺はちょうど外出をしていて、会社に戻った時にはすでにゆう兄と木村と言う人は仲良く話をしていた。
「どうも。下楽蒼井です。遅くなりましてすみません。」
「いいの、いいの。大丈夫よ。俺と話していたから。すごく面白い話。アオイもきっと興味を持つよ。」
いいの、いいのってゆう兄が言うセリフじゃないでしょ。また何かに騙されそうになっているな、これは。
「で、どういったお話でしょうか?」
俺はゆう兄の言葉を遮るように、思いっきり「騙されないぞ」オーラを出しながらお客に話しかける。
「初めまして。木村琉之介と言います。」
木村と名乗るその男性は、特に名刺などを出す素振りもなく名乗った。第一印象は非常に胡散臭いオジサンだ。
「実は、あなた方二人にお願いがありまして、こちらにお邪魔させていただきました。」
話を聞くと、詐欺よりも嘘くさい、非常に信じがたい話だった。
集約するとこんな内容だ。
近い将来、現実世界で魔法が使えるようになる。魔法は選ばれた者だけが使えるものであり、将来出現するモンスターを退治するためのものである。魔法の使い手の中でも、ゆう兄と俺は強力な魔法が使える戦士となることがわかっている。そのための準備として、これから施設に入り鍛えてもらいたい、とのこと。
……普通こんな話信じられるか。
しかし、胡散臭い木村の話には、出現するモンスターの概要や、魔法を使えるようになるまでの過程など実に細かく設定されている。まるで経験してきたかのようだった。ゲームか何かの話にも聞こえるが、こんなオッサンがわざわざ人の会社に出向き、こんなに事細かに、しかも真剣に話をするか?
とりあえず、木村さんにはお引き取りしていただいた。どう考えても「はい、そうですか。」と信じられる内容ではない。しかし、それを信じてしまうのがこの男だ。
「アオイ、すごくない?魔法だって!ゲームの中だけかと思ってたよね。使えるようになったら、ゲームみたいにアオイと戦ったりできるのかな?」
なんでこんなに人を簡単に信用してしまうのか。どう考えてもありえないだろ。
「ゆう兄、本当だと思うか?仕事辞めて施設に入って魔法の特訓?宗教か何かだろう。施設に入った瞬間にガッポリお金取られるんじゃないか?」
「でも本当だとしたら?本当に将来モンスターが現れて、それを倒すのが俺らだったら?ロールプレイングゲームの主人公になった気分じゃない。ちゃんと話を聞きに行こうよ!」
本当だったら?本当に魔法が使えるようになると思っているのか?全く、ゆう兄の頭はどういう構造になっているんだ。
「アオイ、ちょっと出かけようか。」
ゆう兄はちょっと真面目な表情になり、会社を出て行った。俺は少し不思議に思いながらゆう兄に付いていった。そこは昔よくゆう兄と遊んだ砂浜だった。
「なあ、アオイがおばさんちに来た時のこと、話したことなかったよな。」
「ああ、俺は赤ん坊の時に引き取られたから記憶にないし、ゆう兄からその時の話を聞いたこともないな。」
「……実はさ、アオイが来る前に、俺の弟が亡くなっているんだ。」
え?弟?ゆう兄はずっと一人っ子だった。弟がいたなんて話、誰からも聞いたことがなかった。驚く俺を尻目にゆう兄は話を続ける。
「初めての弟ですんごい嬉しかったんだよ。まだ生まれたばかりなのに、一緒に何をして遊ぶのか、子分にして何をやらせるか、とか毎日のように考えていたんだ。それがさ、実は重い病気を持って生まれてきていたんだよな。弟はすぐに入院して、もう会わせてももらえないし、母さんや父さんに聞いても『大丈夫だから、心配するな』しか言わないし、直接医者に聞いても、まだ幼い俺は全然相手にしてもらえなくて、一人ぼっちで状況が全然わからなくて不安だった。そして、死んでしまった。仕方のないことかもしれない。だけど、父さんも母さんも『大丈夫』って言っていた、その言葉が全部嘘だったって知った幼い俺は、誰のことも信用できなくなったんだ。」
俺は身近な誰かを亡くしたのは、育ててくれた母親だけだな。血がつながっていなくても本当の子供と同じように愛情をこめて育ててくれた母親だ。亡くなったのはだいぶ大きくなった時だったけど、その時も辛かったな。幼い時に肉親を亡くすというのは、よほど心に大きな傷ができるのだろう。
「今思えば、悲しかったのは、俺よりも父さんや母さんだよな。そんなこともわからずに、嘘を言った両親に腹を立てて、弟が死んですぐなのに保育園に預けられてしまい、怒った俺は保育園から勝手に家に帰ったんだ。あちこち寄り道して、道端のアリを追いかけたり、商店街の洋服屋で一人でかくれんぼしたり。母さんが保育園に迎えに行くと俺はもう帰っていて、すでに着いていても良い時間なのに家にも帰っていない。母さんは父さんに連絡をして、二人でずいぶんと探し回ってくれたんだ。俺を見つけた両親は、ずいぶんと汚れていて、汗まみれで、顔も涙でぐちゃぐちゃだった。で、言われた一言が『優士までいなくならないで』って必死な言葉だった。その言葉を聞いて、幼い俺はようやく両親の言う言葉が全部優しさでできていることに気付いたんだ。俺も泣きながら思いっきり両親に気持ちをぶつけたよ。なんで本当のことを言ってくれなかったんだ、とか、俺も弟のこと心配したかった、とか。」
ゆう兄は、俺の知る限りずっと優しいお兄ちゃんだ。わがままも言わないし、リーダーシップもとれるし、誰とでも仲良くなれる。そんな過去があることなんて少しも知らなかった。
「無事に葬儀も済ませて、普通に保育園にも通えるようになって、弟の生まれる前の生活に戻った。父さんも母さんも普通に過ごすようにしていたのだけど、その後すぐにおばさんちにアオイが来たんだよ。」
となると、俺とゆう兄の弟はほとんど同じ時期に生まれているんだな。
「死んだ弟が帰ってきた気がした。たぶん父さんも母さんも、そう感じたんじゃないかな。二人に言われたよ。『優士、この子を本当の弟のように可愛がってあげなさい。そうしたかったんでしょ?この子がいなくならないように、みんなで守っていかないとダメだよ』って。そうだ。俺は弟を守りたかったんだって気付いた。俺はこの子に嘘はつかない。この子だけじゃない、他の誰にも嘘はつかない。たとえ優しさであったとしても嘘をつかれたら辛いことを知っている。嘘を言わない自分を信じてもらうために、他のみんなのことも信用しよう、ってアオイを見ながら決意したんだ。」
ゆう兄が人をすぐに信じるのは、幼い頃の経験からなのか。
「で、今回の木村さんの話も信じろと……?」
「アオイは俺の弟なんだ。俺を見習って少しは人を信用しろよ。」
「はあ。ゆう兄はお人好し過ぎるんだよ。あの話を信じる方がおかしいだろ。」
ゆう兄がこんな話をしてまで木村さんの話を信じようとしているんだ。たとえ木村さんが騙そうとしたとしても、俺がいればそれを阻止することができる。仕方ない。詳しい話を聞くだけ聞いてくるか。
翌日、俺は木村さんに連絡を取り、再び会うこととなった。
詳しい話を聞くには、どこかの施設に向かわなければならないらしい。詳しい場所も教えてくれないし、おかしな宗教集団だったらどうしようかと、俺の不安は膨らむばかりだ。脱出方法だけはよく確認しておこう。約束の時間にその場所に行ってみると、木村さんは車で現れて、俺たちは車に乗った。連れていかれた先には、木村さん以外に小柄な若い女性、スーツを着た社会人の女性、同じく社会人っぽい男性の計4名がいた。小柄な女性の名前は真城雪華。彼女は木村さんの仲間のようだ。社会人の女性の名前は寄居朋で、男性の名前は藤島亨とのこと。この二人も今日木村さんに連れられてこの施設に来たようだった。
「さて、諸君。世界のために死んでくれるかい?」
真城雪華の最初の言葉だった。
そう言った直後、彼女の周りに不思議な現象が起こる。炎に包まれたと思ったら、急に彼女の上だけ雨が降り、火が消化されるとともに水は蒸発、風が吹いたかと思ったら、何もない所に金属の鉢が現れ、土が盛られ、鉢からは芽が出てきて花が咲く。一瞬で豪華なショーを見せられた感じだった。熱を感じるし、水も跳ねてきた。花も本物だ。ショーにしては舞台装置みたいなものが一切ない。真城雪華が自由自在に操っているのはすぐにわかった。
これが初めて見た『魔法』と言うものだった。
その後、俺たちは真城雪華から二つの属性を渡される。渡す方法も不思議なもので、手を握ったと思ったら、その手がフワッと暖かくなり、何かが体に入ってきた感じがした。もちろん、渡されたからと言ってすぐに魔法が使えるわけではないし、体の中に何が入ったのかもわからない状態だ。それを使いこなすために、ある「ゲーム」をするよう言われて、その日は解散となった。
まだ木村さんの言っていた話を承諾したわけではないのだが、不思議な現象を見せられ、自分の中にも何か「ある」のを感じる。今までで一番信用ならない話を信用しなければならない状態になってしまった。人を信じすぎて騙されやすいゆう兄を守るために話を聞きに行ったのに、ゆう兄の言っていた通りになってしまった。
「な。信じてみて良かっただろ?」
ほら、ゆう兄の思うツボだ。
「こんなの見せられなきゃ、絶対に信用できない話だからな?」
俺たちは、家に戻った後、言われたゲームを開始する。ゲームの名前は『ウェポンマスター』。武器をカスタマイズして、ボスを倒していくというゲームだが、カスタマイズは自由自在。自分の思い描く武器を作成し、それに与えられた属性を乗せて攻撃する。単純だが、武器には個性が出るし、最初の登録時に与えられる属性は、勝手に決められて、変更はできない。属性に不満も出そうだが、与えられた属性を生かすために、どういった武器を作成し、どのような魔法を使うのかは自由なので、人気が出そうなゲームだ。
俺たちは、まだリリースされていないそのゲームに先に参加する。チームは、団長が真城雪華。彼女はゲームの中で「ユキ」を名乗っている。キャラは男性キャラを選んだようだ。俺は今までゲームで使っていたラクを少しいじって「楽坊」。ゆう兄も、同じ原理で「福坊」を名乗り、寄居さんは「銀次」で男性キャラ、藤島さんは「紗奈」を名乗り、女性キャラだ。最初は逆で、「銀次」が藤島さんで「紗奈」が寄居さんだと思った。紛らわしいな。
俺たち5人のメンバーは、毎日22時に集合し、ボスを倒していく。ユキの使う魔法は最強で、おそらく彼女に属性の縛りがない。俺が使う属性は『風』と『砂』。ゆう兄は『火』と『水』。俺たち二人は完全に攻撃専門型の戦士だ。銀次さんは、『電気』と『金属』の属性を持った弓使いで、紗奈さんは植物使いだ。二人はサポートに適している。
数か月ゲームを続けていると、現実世界でも魔法が使えるようになってきた。扱いがわかってきたのだろう。その頃になると、俺たちは現在の仕事を辞め、木村さんの言う施設に入ることになる。完全に木村さんの管理下に置かれるわけだ。ユキに与えられた属性はそれぞれ意思を持っているようだった。俺の中には二つの声が聞こえてくる。こいつらに名前を付けてやらないとな。ゆう兄の属性に至っては、現実世界で形を作っている。火の精霊と水の精霊と言った感じだ。俺の属性もそのうち形ができるのだろうか。
毎日ゲームの中で魔法を使った戦闘のイメージを作り、演習場で魔法の練習をした。正直、俺たちがモンスターから世界を守るとか、そんな壮大なことは考えられないけれど、ゲームのように魔法が使えるのは楽しい。模擬戦をしていると、ゆう兄と格闘ゲームをしていたころを思い出す。
そんな日々を過ごしていたある日、木村さんとユキから大事な話があると告げられた。
俺たちは、漠然と「魔法を使ってこれから出現するモンスターを倒してほしい」という話だけで日々の特訓をしてきた。実際に魔法が使えるんだ。モンスターが現れると言われても信じるしかなかった。ユキの話の内容は、モンスターの出現理由と、俺たちが最終的に倒す敵、そして、絶対に守らなければならない一人の人物の話だった。
「これから、『ウェポンマスター』がリリースされる。その約1年後には彼は私たちのところにやってくる。君たちはゲームに関しても魔法に関しても先輩だから、しっかりと教えてあげてほしい。ただ、時間がないからゲームに関しては急スピードでレベル上げを行い、彼の武器のイメージを作り上げてくれ。」
『おや、新メンバーだね。初めまして。沙奈です。これから運命を共にする大事なメンバーだ。』
いつものようにゲームにログインし、パーティボス戦に参加すると、新しいメンバーがいた。最初に話しかけたのは紗奈だった。
「アオイ、コタロー君だって。」
「年下だな。」
ゆう兄が、俺を弟のように可愛がってくれて守ると決めてくれたように、俺もこの新メンバーを守っていかなければならない。そういう使命感は初めてかもしれない。
『本当だ。初めまして。福坊です。火属性です。おっさんです。フクって呼んでね。』
『おそくなりました。初めまして。楽坊です。福坊の親戚です。おっさんです。ラクでいいからね。』
さて、これから急ピッチでコタロー君のレベル上げを行うよ。これまでもこれからも俺たちのパーティは最強なんだ。
ゲームの中でゆう兄の武器は赤く、僕の武器は蒼く輝いている。コタロー君、君の武器は何色かな?