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君を守る。そう思っていたのに違っていた物語。

作者: DAKUNちょめ

「私は…君を守るために来た…」


あなたは、そう言ってくれたわね。


毎晩、私の夢に現れて私に手を差し伸べてくれる。


でも夢の中の私は、あなたの手を掴まない。


私は、私に差し伸べられた、あなたの手を掴みたいのに…。


エメラルドグリーンの長い髪に、鮮やかなライトグリーンの瞳。


この世界の人では無い、二次元の世界には山ほど居るのだけれど…な、妖精の王子様のように美しい容姿のあなた。


そうなんですよ。


あなた、美形なんだけれども!

現実に現れたら、美形のコスプレーヤーです。


しかも、学校からの帰宅途中で、何だか分からない変な人?みたいな黒い影?に襲われている私を助けもしないで、私の回りをうろちょろしているあなた。


こんなひと気の無い路地裏で、襲われている私を助けもせずに回りをうろちょろうろちょろ…。


美形のコスプレーヤー、しかもイベントがあるワケでも無いのに、そんな格好で公道を闊歩して来た…そんなあなた、ただのイタイ人です!!

そして、何で私を助けてくれないの!?


「ちょっと!いたいけな少女が絡まれている場面に遭遇して、助けないって何なのよ!」


夢の中では守ると言ったとか抜きにしても、男ならば助けに入って欲しい。


自分は弱いからと言うならば、助けを呼んで来るとか、それも出来ないなら男としてはどうかと思うけど、見なかったふりをして、その場を離れるとか。


助けてくれるワケでも無いのに、この場に留まりうろちょろしている姿はまるで、格闘技の審判のようだわ。

プロレスのレフェリーみたいよ!?


「日本語通じてる!?助けてくれないの!?」


人の形をした、全身黒タイツみたいな連中に腕を掴まれて身動き取れなくなった私はキレそうだ。


全身黒タイツのこいつらに、と言うよりは、目の前に居る見た目しか取り柄がないデクノボーに。


「……歌え」


「は?歌え?聞き違いじゃないわよね!頭おかしいの!?」


「助かりたければ歌うんだ。」


「歌なんて童謡と校歌位しか歌えないわよ!いいわね!」


残念イケメンが偉そうに言うのに苛立った私は、舌打ちをしてから息を吸い込み、口を開く。


口から自然に流れ出たのは聞き慣れないメロディー。

こんな旋律を私は知らない。


美しい、不思議な旋律が身体を包んでゆく。


そして、残念イケメンも同じように歌い出した。


絡まり合う2つの美しい旋律。


その旋律に身体を包まれた私に、力がみなぎる。


「うおりゃぁあ!!」


力がみなぎった私は、私に襲い掛かっていた黒タイツをぶん殴った。

地面に伏した黒タイツは溶けるように消えて無くなった。


「……ふふふ…何かもう、色々ムカついたから、発散させて貰うわよ!」


結果、私が黒タイツどもと戦っている。

次々と殴り倒し、地面に倒れた黒タイツどもが溶けて消えていった。


「よくやった、戦の歌姫よ。」


「……はぁあ?」


上から目線で偉そうに騙る残念イケメンには、もう苛立ちしか感じない。


「ちょっと…!女の子に一人で戦わせて!あなたも一緒に戦ってくれても良かったんじゃないの!?」


「暴力は嫌いだ!殴るなんて野蛮な行為、私はせん!!」


偉そうに断言した残念イケメンの、あまりに残念な宣言に顔が引き攣る。


「女の子の私には、暴力をふるわせといて…?」


握った拳がフルフルと震える。


「私は、君とハモる為にこの世界に来た!君を我々の世界に連れて行き、先程の黒き者達を倒して貰う為に!」


……なんだと……?今、ダジャレみたいな言葉を吐いたなコイツ…。君を守る…ではなく、君とハモる?


「私と君がハモると、君の力が1割程増すのだ!」


……なんだと……?そのショボショボなパワーアップは…何だ?


「さあ、戦の歌姫よ…共に、我々の世界へ…」


残念イケメンが手を差し伸べて来た。


そりゃ掴まないわ!こんな男の手なんか!


「…ざけんな!!」


残念イケメンの手の平を、パチン!とはたく。


「くう!骨が…折れそうだ…」


「ヨワッ!ただのタッチ程度じゃん!いや、黒タイツどもも弱っちかったからね、私の力が1割増す?今は空腹で力が出ないけど、万全なら今の倍は強いわよ…私は…。」


私は格闘技を習っている。

格闘技をやっていても、心は乙女だもの。

夢の中で、異世界の王子様みたいなイケメンに守るなんて言われて舞い上がったわよ!


それが、これかよ…!


「あんたの世界に私が行ったとして…こちらの世界に帰って来れるんでしょうね…。」


「黒き者の王に奪われた渡りの珠玉があれば、この世界の君でも我々の世界と、この世界を行き来出来る…。」


「ふふふ…ならば行ってあげようじゃないの!そいで、倒してやろうじゃない!黒きタイツども!」


「おお!助かる!では、共に我が世界へ!そうだ、君の名は…?」


「私の名は、瀬野コハク。覚えておきなさい…あなた達を支配する王の名を…ふふふ…。」




コハクは異世界に渡り、早々に黒き者の王を倒した。


残念イケメン、ヒューリのハモり無しで。


渡りの珠玉を手にしたコハクは、あちらの世界とこちらの世界を行き来し、あちらの世界に格闘技を広めた。


コハク流と名付けられた、キックボクシングが主体の格闘技はあちらの世界で誰もが使えるようになった。


また、黒き者のような人ではない何かが現れた時のため、自衛の意味を込めて広めた格闘技だったが当然、己の力に溺れる人間も現れる。

その度にコハクがあちらの世界に渡り、完膚なきまでに叩き潰していった。




「女王、もう元の世界に戻らなくていいのか…?」


「もういいわよ。少なからず増長した人間が増えてしまったのは、こちらの世界に格闘技を広めた私の責任でもあるしね。…それに、今はこちらの世界の方が私の世界だわ。」


二十歳を越えたコハクは国を興し女王となり、コハク流の師範代となったヒューリと夫婦となると、この世界に居続ける事を決めた。


次は道徳心や、精神的な強さを広めるつもりだ。


「嬉しいよ…君があちらの世界に帰って、この世界に居ない日々は寂しく辛かった…君が常に私の傍に居てくれるのなら…私は、今度こそ君を守る…何に変えても、君を守るよ…。愛している、コハク…。」


ヒューリがコハクを背後から抱き締める。


「ヒューリ…なら、私はあなたとハモるわ…ふふふ、また二人で歌いましょう?」



私達二人だけが歌える旋律、二人だけの愛の歌を。










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