Goblins
ここはとてつもない量の物資で満たされている。
棚に出されているものだけではなく、裏の倉庫にも色んな商品の在庫がある。
くわえて、すこし住宅街から離れており、周囲は駐車場に囲まれている。要塞としての素質は十二分だった。
「事態が落ち着くまで、ここにお邪魔させてもらってもいいかな?」
「あたし、ただのバイトだし、いいんじゃないかな」
彼女の名前は、ゆいのと言うらしい。一昨日に二十歳になったばかりで、一人暮らしをしているそうだ。
かおりに事情を話し、ゆいのに店を案内してもらう事にした。
自分達が知らない店の裏側には、店内や店の外の防犯カメラの様子を見れるモニタールームや、シャワールームや、空き部屋もいくつかあった。住むにはとても快適そうだ。
一通り案内してもらい、モニタールームでお互いの自己紹介や、情報交換をしているとき、右上の外の防犯カメラに黒い影が通り過ぎた。
「待って!カメラになんかうつったよ。」
二人の会話を遮り、そのモニターを指差した。
「えっ、なんですか。さっき言ってたゴブリンじゃないですよね?」
「だいじょうぶよね?」
3人が驚いている様子で顔を合わせた時、
「ガッシャーーーーーーーーン!!!」
明らかに商品棚が倒れる音がした。
この音を聞き全員が敵意を持った何かがやってきた事を確信した。
「おれが様子見てくる。ふたりはここで隠れ...。」
「いや、わたしもいく。」
かおりは友哉の震え声に被せ気味でそう言った。
かおりの性格をよく知る友哉は、特に反論をせずに、ゆいのちゃんだけを残して、あの黒い影の正体を確認しに行く事になった。
モニタールームを出て長い廊下を進み、店内に入る扉を静かに開いた。
友哉が、前陣で拳銃を構えて、かおりが後ろでライフルを構えている。
入ってすぐに、奥の方を素早く黒い影が横切った。
「パーーーーーーーン。」
何が起こった分からない友哉だったが、振り返るとかおりのライフルから白い煙が上がっている。
「なに勝手に撃ってんだよ。こんなすぐに銃をぶっ放す奴なんてありえないだろ!!」
あまりの展開に語気を強めて、かおりを咎めた。
「外したわね。あのオーラに包まれてから目がとても良いから当たるかもって思ったのに。」
ふたりが顔を見合わせて話し合している隙に、奴はもうすぐそばまで迫っていた。
「ウキーーーーーーーーーッ。」
横の商品棚を飛び越えて、ゴブリンは飛び掛かってきた。
突然の出来事にふたりは武器を手放してしまった。
友哉なゴブリンにのしかかられて、その勢いのまま右腕のすぐ横に小刀を突き立てられた。
「いってええええええええ!!!」
友哉は右腕に入った大きな切り傷から血を溢れ出しながら、大声で叫んだ。
ゴブリンを振り払おうとしても、全くびくともしない。まるで岩が身体に乗っかっているようだ。
(いってえし、もうおわりだな。)
ゴブリンが床に刺さった小刀を引き抜き、心臓を目掛けて振り下ろそうとした時、身体から青いオーラが溢れ出した。
このオーラを見て何かゴブリンは見とれているようだった。そして、友哉はこの隙を見逃さなかった。
全く動かなかったはずのゴブリンの身体だが、くるりと身体を反転させ、先ほどとは全く逆の体勢に変わり、いつの間にか、相手は自分の小刀を自分の胸もとに突き刺していた。
(ンッ!??????? ウキャーーーーーー!)
ゴブリンの胸からは血が溢れ出し、叫び声もすぐに聞こえなくなった。
「たおしたの?だいじょうぶ?」
かおりが青白い顔をしながらこちらを見ていた。
「だいじょうぶだ。おわったぞ。」
友哉は何かを成し遂げた満足げな表情で答えた。
右腕を負傷した友哉はかおりに支えられながらモニタールームに戻った。
するとそこには目を疑う光景が広がっていた。
裸の少女と赤色のゴブリンが身を寄せていた。