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夜間戦争

作者: ぷー

 大野悠二、独身、26歳、中堅企業の営業職、趣味は将棋、週末は将棋をさしに出かける。ごく平凡ではあるが、少し変わった青年である。大野雄二が住むこの築50年1LDK。人の書類上の持ち主は彼の勤めている会社となっているが、この家の真の主は・・・。



 ある日の深夜、カサカサッ、カサカサッ。

 部屋に響く何かが動く音。冷蔵庫、洗濯機、風呂、戸棚など様々な隙間から出てきたのは、黒く鈍く光るボディをもち、頭部の触覚をふり、地を這い、空をも飛ぶ奴ら。


 そう、人類の天敵、ゴキブリだった。


 奴等は、進軍を開始した。狙うのはテーブルに出しっぱなしになっている悠二の夕食の残りである煮魚と明日出そうとしている生ゴミであった。


「「「進め!進め!進め!」」」

「食い散らかせ!」

「ヒャッハー、七日ぶりの飯だぜ!」


 残飯を貪り喰らう黒の軍勢は、自身を眺めるいつくもの瞳があったことに気づかなかった。


 気づいたのは少し腹が膨れた古参のものたちだった。


「おい、この視線、やつらがいるようだな」

「チッ、こりゃ囲まれとるわ」

「空腹で注意力が散漫になっていたようだ」

「こりゃ一、やるしかないな」

「うむ・・・まだ、前の傷も癒えておらんというのに・・・仕方あるまい」


「頭、爺どもが来ました」

「チッ、また説教か?」

「それが、やけに真剣な表情でして」

「そうか、通せ」


「孫よ、この部屋はやつらの巣であったようだ。すぐに引いた方がよい」

「奴ら?」

「わしの息子ら、そなたの両親もじゃ、若いもんをほとんど食われたやつら、どうやらアシダカグモがおるようじゃ」

「ッ!」

「この獲物として狙われておるじとっとした視線、そしてこの部屋のわしらへの罠の少なさよ」

「チッ、まだ部隊がたてなおってねぇってのに・・・」

「なに、心配せんでもよい、わしら老いぼれが殿をつとめよう」

「おい、爺!」

「言い争っておる暇はなさそうじゃぞ?さっさと幼い子らを下げい」

「・・・死ぬなよ、じいちゃん」


「ほほほ、これで悔いはないことないが・・・」

「ボス、老いぼれどもが集まりやした」

「・・・では、逝くか」

『おう!』


 老いぼれたちが着くとすでに戦いは始まっていた。まだ技術が拙い若いアシダカグモと若い衆が軍として戦ってなんとか互角の戦いをしていた。ちらほらと若い衆の死体が転がっていた。


「若いもんを逃がすぞ!」


 そこからは乱戦になった。一騎当千のアシダカグモだが、古強者のゴキブリの連携に苦戦、徐々に戦況はゴキブリよりになっていた。


「やはり、おったか」

「貴様はァァァァァ!!」


 若いものより一回りいや、二周りも大きなアシダカグモが現れた。ゴキブリの爺いたちが吠えた。


「忘れもせぬ、貴様だけは、貴様だけはここで殺す!」

「ほざくな、貴様らゴキブリなどわしらの餌でしかない。やれ!」


 ザッ、現れたのは若いものより一回り大きなアシダカグモだった。それも十匹。対する古参ゴキブリたちは既に百を切っていた。


「息子らの敵討ちじゃァァァァァ!」

「死に晒せ!!糞どもがァァァ!」


 両軍激突。一騎当千のアシダカグモがゴキブリを喰らう、ゴキブリも束になり、アシダカグモを喰らう。リビングは血の臭いで包まれ、フローリングには両者の死骸や、血だまりができていた。


 戦況は進み、ボスアシダカグモと成虫アシダカグモ三対満身創痍の古参ゴキブリ二十匹となっていた。


「随分とがんばるな、貴様らの息子どもはあっさりやられたというのに・・・さて、これで終わりにしよう。わしの子らも腹が減っているようだしな」


 ボスアシダカグモと対するのは五匹の古参ゴキブリ、抜群の連携でボスを追い詰める。他の戦場も成虫アシダカグモ一匹対古参ゴキブリ五匹という戦いになっていた。こちらはアシダカグモ有利の戦況だった。


 戦況が崩れたのはやはり、古参ゴキブリ側だった。成グモの攻撃を避け損ね、辺りどころが悪かったのかそのまま戦闘不能になってしまった。

 ガタガタと崩れ始めた。ボスアシダカグモと戦っている五匹の古参ゴキブリがフォローに向かおうとするがボスアシダカグモがそれを許さない。

 それでも、なんとか成アシダカグモと相打つかたちで十五匹の古参ゴキブリたちは役目を終えた。


 年のせいか、疲れが出たのか隙を見せてしまったボスゴキブリにボスアシダカグモが繰り出した突きは、二匹の古参ゴキブリが捨て身で守ったためボスゴキブリには届かなかった。古参ゴキブリもただでは死ななかった。ボスアシダカグモの腕を一本貰っていった。


「・・・畳み掛けるぞ!」


 残った三匹の古参ゴキブリが一斉に動き出した。


 ボスアシダカグモも大人しく喰われるわけもなく、戦いはさらに過激になっていく。


 両者の血を流し、辺りには血だまりが出来ていた。ボスアシダカグモが血で足を滑らし、ここぞとばかりに攻めた古参ゴキブリも足を滑らした。


 両者ともに体力の限界だったようであった。両者ノックダウンに思われたが、ボスアシダカグモの方が動き始めた。

「ふっ、なさけない」

「貴様もおなじではないか」

「昨夜ここのものに赤い筒のスプレーをふりかけらてな・・・」

「あぁ、あれは効くな」


 ゆっくり立ち上がり、ボスゴキブリにトドメの一撃を繰り出した。が何故か外れてしまった。残っていた二匹の古参ゴキブリの最後の執念で近づいてきたボスアシダカグモの足に喰らいついたためだった。


 大技を外したボスアシダカグモは今度こそ体力の限界だったのだろう血だまりに伏した。

 微かに息をしている。最後の血からを振り絞り、ゴキブリの真骨頂高速移動ですれ違った。

 しかし、ボスアシダカグモは強かった。ボスゴキブリの一撃を受けつつ、首を喰い千切った。


「やれやれ、こんなに手強いゴキブリは生まれたての時以来か・・・」


 そう呟くと、ボスアシダカグモは血だまりに伏した。ボスゴキブリと古参ゴキブリも同様に力尽きたのかピクリとも動かなくなった。



 ピピピ、ピピピ、ピピピ、というアラームで起きてきた何も知らない大野悠二。今日は休みであったので将棋をさしに出かける予定だった。ボキボキと伸びをし深呼吸をすると血の臭いがすることに気がついた。慌てて電気をつけるが、ベッドが血塗れということはなかった。自分の体を触ったり動かしたりしたが血はなかった。


「なんやねん」


 と言いつつ洋室とリビングの扉を開けた。


 早朝から、男の叫び声が響きわったった。

生ごみだけはしっかり処理しましょう。

ここまでひどくは無いですけど・・・。うちで見た光景です。


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