六通目
少し出かけてきます。
日も暮れ歩き疲れ、俺は近くのコンビニに入った。凍り付いていた思考が動き出す感覚。飲み物とおにぎり二個を買い、ATMの近くへ行った、勿論下ろせる金なんてとうの昔に尽きている。俺はスマホで近くの地図から、存在するかも知れない目的地を探した。
少し歩いた先は二十四時間営業のドラッグストア、店内に入るなりトイレを探した。個室に入り鍵を閉めた。できればこんなところで寝たくはなかった、全ては金が悪いのだ。俺は無理やり瞼を閉じた。
眠りから覚めた。個室から出て、曇りガラスの窓を見つめたまだ暗い、来た時と何も変わらない空間に俺は別れを告げた。
俺は歩く、寒くて劣悪な状況それでも俺は楽しかった。ただただ進んだ。不意に振り返る、俺の歩いてきた足跡が雪に刻まれている。
日が昇って来た。俺は目を伏せて変わらずに前に進んだ。随分前に見た道路の標識ではそろそろ目的地だったのだろう。俺は躓いた、何に躓いたのかはわからない、ただ身体が甘えて眠ってしまったのかもしれない。
まだ霧のかかった意識だったが、頬に触れる空気が温かい。横になっているようだ、ただいつものフローリングと違って全身を柔らかく包み込んでいる。俺はゆっくり目を開いた。天井は木目調で俺はただその線を何の気もなく眺めていた。
「ねーちゃん、起きたよー」
突如として俺の左隣で声がした。ビビってなんかいない、ただ俺の近くで声を出すやつなんていなかったから、反応に困った。俺が声のする方に顔を向けると小学生くらいの少年が俺のことを興味深げに見つめていた。少年は一発芸を披露する芸人を見るような目で俺を見つめている。俺はゆっくりと掛布団で少年との間に壁を作ろうと試みた。そのときだった。
「やっと起きたかー!」
隣の部屋から俺と年の近そうな女が片手に持った青ネギをこちらに向けて笑っていた。
みそ汁のいい匂いがする。俺は休んでいた部屋の隣にある椅子に腰を預けて座っていた。移動する際、少年が俺を幼い野良ネコを見るような目で見ていた俺はむずがゆくなって、ネギ女に声を掛けた。
「俺はどうなったんだ?」
ネギ女は長い髪を手首にはめていたヘアゴムで束ねながら「倒れてたんよ、それで車に乗せてここまで運んであげたん」そういってキッチンに向かっていた。
「お腹空いたでしょ、テーブルの所に座って」
俺はまだ霞んでいた目を擦った。
続くと思います。