五通目
玉子にかける調味料で争うのはやめたまえ!
俺はカフェから真っ直ぐ自宅へ帰った。寒かったそんな単純な感想しかありはしなかった。パソコンの画面に目を遣る、新着零件初めから期待などしていなかった。
‘金持ちは拾えたか?’
送信した。俺は表面上だが、男の目的を知った。その上での嫌みを込めた言葉だった。
‘いいえ、あなたはだめですか?’
返事はすぐに来た。俺は断っておきながら、この事象から離れてしまうことに未練を感じてしまっていた。
‘俺はタダ働きなんてしたくない’
俺は上着を脱ぎ棄て、ストーブの電源を入れた。
‘私が上げることのできるものなら代価として支払います’
俺はしばらく考えた。考えた末、変わらない答えがでた。
‘金が欲しい’
それから少しの時間が経ち‘わかりました、あなたの望む額かはわかりませんがお渡しできます’という文面が送られてきた。
カフェの席に座り、俺はメニューを見た。飲み食いに興味はないがどうせなら、飲みたいものを頼みたい。俺は全てのメニューをじっくり見定めココアを選んだ。男はウエイターを呼び、なんだか長ったらしい名前のコーヒーとココアを頼んだ。
「突然訊いて悪いんですけど、漫画とか読むんですか?」
俺はまどろっこしいことは嫌いだ。ただ正解を知りたかった。
「子供のころは読んでいたよ、それがどうしたかい?」
「いや、興味本位で訊いただけです。それより――」
この男はメールを打った相手ではないただそれだけの事実だったが、俺には大きなアドバンテージであるように思えた。
「君に頼みたいことはだね、写真を撮ってきてほしいんだよ」
俺は呆気に取られた。そんなことのためにわざわざ手紙を置き、来るか来ないか分りもしない人を待っていたのかと思うとため息が出た。
「いいですよ、そのくらい。俺暇ですから」
誰かのためではなく自分のために俺はこの頼みを受け入れた。暇は人を殺す、それを痛いほど知っていた。
「ではまず沖縄にいってくれないかい?」
ずっと一人で暮らしていたからかもしれない、俺はイラついた。
あの日から二日経った。俺は寒空の下歩いていた。
‘あなたの好きな景色がみたいです’
俺に好きな景色なんて無い。もう付き合いなどないが俺の友人が同じことを言ったら俺はそいつにエロ画像を見せてやったに違いない。景色など気にしたことなんてなかった故に俺は金のため今まで見た景色を思い返した。ふと思いだしたのは駅で見かけた雪まつりのポスターだった。馬鹿な脳みそだと俺は自嘲した。
続くと思います。