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デザンクロ研究室の長い午後  作者: 門部ラン
序章『フェルカ・フィリーの秘密』
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1『少女の朝』

<<caution 下記該当の読者様は、登場人物紹介を先に参照することをオススメします>>


●キャラの名前がすぐに覚えられないかも...


●カタカナは弱いかも...




それでは、本編をお楽しみください。


 地平線の彼方から、真っ白な朝日が顔を出す。空には雲片ひとつない。文句無しの秋の快晴だった。

 やがて太陽は冷たい空気をしんと突き抜け、澄み渡る青空で燦々と輝き、その真下に眠る、とある国に朝を報せる。


 そこは戦争もなくて久しい、穏やかな小国。

 北の山脈は夜明けに白く輝いて、

 西の大河は水面をキラつかせながら南の海へと注ぎ、

 東の大森林はその広大さとは裏腹に、ひっそりと、優しく生い茂る。


 さて、この大森林と都市部とを直線距離で結んだ中間地点ほどの、とある丘の上に、ポツリ佇む小屋がある。丸太造りの小さな小屋だ。ログハウスと言うには少々見た目が貧相。あちこちの木が剥がれ落ちて、こげ茶のみっともない斑を成している。


 おそらく内側も似たような朽ち方をしているのだろうが、まあ、修繕すれば人が住めないことはない。現に、それを実行に移した者が、この朝この瞬間、小屋の中で目覚めの間際にあった。



 ボロ屋の中。窓際に積まれた、毛布の山の上。

 歳は13、4ほどだろうか。

 一人の少女が、小さな寝息を立てている。


「......ン...」


 差し込む朝日に、瞼が震えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 少女は朝の支度をする。

 のろのろと小屋を出て、裏のポンプの水で顔を洗って眠気を飛ばし、マグカップに水を入れる。


 小屋に戻って最初に少女が手を伸ばしたのは、平たく研磨された黒い石盤だった。表面に、鍋底ほどの大きさの円型の模様が白で描かれており、その中心部には石ころ一つ分ほどのくぼみがあった。

 少女は傍らに常備している袋から、魔法陣と同じ色の水晶を取り出して、石盤のくぼみに嵌めこんだ。


 すると、どうだろう。


 今しがた嵌め込まれた水晶――――魔力の塊である魔力晶を燃料として、石盤の曼荼羅(マンダラ)模様――――魔力に形と動きを与える魔法陣が仄かに白く光り出す。

 少女がマグの水をヤカンに移し替えてそれを石盤の上に置くと、ヤカンは加熱され始める。


 少女は袋の中の魔力晶を覗いた。もうあと三つも残っていなかった。


「買い足しておかなきゃ...」


 市販の魔力晶は、魔術適正の無い者や、少女のように適正があっても使いこなすには至っていない初心者にも使える仕様。言わずもがな需要がある。街中のどこでも買えるだろう。


 少女は買い物を忘れないように、通学カバンから手帳を取り出すとメモを書き込む。メモが終わってから、そこで動く自分の写し身が目の端に留まったのだろう。少女は手帳を閉じて、壁に打ち付けてある全身鏡の前に立った。


 真っ先に目に入るのは、女の子らしく、しかしはつらつというよりむしろ品のいいローズピンクの髪だ。ショートボブに切り揃えてある。幸い寝癖はついていない。少女は後ろ手にカバンからブラシとヘアピンの入ったポーチを取り出すと、軽く髪を梳いてからサイドの髪を片方かけてピンでクロスに留める。


 鏡の中の自分を見つめるのは、深く落ち着いたモスグリーンの瞳。


「むぅー...」


 結局、いつも通りにできた髪型にも、愛くるしい自らの顔立ちにも自信確証の持てないまま、少女は鏡を離れていく。テーブルでは、湯気を立ち上らせたヤカンが静かに待機していた。ヤカンをマグに注ぐと少女は白湯を一口飲んで、ホッと息をつく。そしてカバンからパンを取り出して、彼女は朝食を取り始める。

 もっきゅもっきゅとパンを頬張りながら何気なく部屋を見渡していた少女は、ふとあることに気が付いた。


「リズさん...!」


 リズとは、少女自身の口からも説明が難しいのだが、まあ今は神出鬼没の同居人くらいに思ってくれれば問題ない。


「昨日は私より先に寝ちゃったのに...」


 自分が起きる前にどこぞへか出て行ってしまった彼女と、起きてから朝食を食べる段階になって初めて彼女のことに気付く自分。なんだか、自分とリズのそれぞれの性格を見事に表しているな――――などと思いながら、少女はマグをぐいと傾けて最後の一口を飲み干した。


 壁かけ時計は7:00を指している。


 少し早い気もするが、この仮住まいでこれ以上することもない。少女は手際よく朝食の片付けをしてから、イスにかけてあった一着のローブを引っつかんで羽織る。それからイスに置いてあったカバンを肩にかけると、少女は小屋を出て行く。


「...いってきます」


 小さな声で、愛着湧きつつある隠れ家にしばしの別れを告げてから、少女は静かにドアを閉めた。そうして、街を見渡すゆるやかな丘を下っていく。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 断っておくべきは、このボロ屋は彼女の正式な自宅ではないということだろう。

 彼女が大好きな家族と距離を置いてここで暮らす理由は――――秘密だ。


 とある秘密を抱える少女。


 彼女の名を、フェルカ・フィリーという。





下まで読んでくださったあなた!ありがとうございます!

序章は後半までほのぼのパートが続きますので、肩の力を抜いてお付き合い頂けると幸いです。あらすじ紹介文がものすごーく堅苦しくなっちゃったので、こちらで作品雰囲気の補足をば...

ちなみに、本作品は一章からが本番となります。

序章から始まりまして、零章、断章1と続く予定。前座長ぇよ。


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