15『DAY3:AGENT』
「なるほど...つまり、諸君は昨日のアレが教会の差し金だという目処をつけているんだね?」
午後のデザンクロ研究室には、柔らかな秋の陽射しが差し込んでいた。
「連中はシノラルを使ってた。今どきシノラルの使いどころなんて、ガウラ教の原典関係くらいだ。その線が濃厚なのは、保証するぜ」
「でも...おかしくないですか?」
セインの論拠に納得する一方で、フェルカの中にはもっともな疑問が湧き上がる。
「デザンクロ研究室は、教会の恨みを買うようなことはしてないはずです。闇市界隈の残党か、赤バラが嫌がらせに来たなら、まだ分かりますけど...」
「過去の功績に動機が無いなら、今の依頼が動機と考えるのが妥当じゃないかな」
リハルトがフェルカの疑問に答える。
「禁書回収に"怠惰"な僕たちを脅しに来た...そんなところだろうね」
「それじゃあ、どうして私たちじゃなくて、図書館員の人たちが襲われたの?」
「ほら、デザンクロ研究室は戦闘力が高いから。当人よりもその関係者をイジメた方が、ずっといい嫌がらせになる」
「陰湿だなおい...まぁ、知ってたけどよ...」
「どうして教会は、アタシたちが禁書を守ってるって分かったの?」
「もしかして...シーレンスさんが私たちに依頼をしたのって、はじめからこの事態を想定した上のことだったんじゃない...かな」
「アイレイさん?」
「その...先生もカナギアさんも、さっきから、あんまり驚いてないみたいだから」
相手の醸す空気に人一倍敏感な剣士は、デザンクロ師弟から漂う――――高揚感を感知していた。
アイレイに悟られたことを悟ったのか、悪びれる様子もなく、カナギアは笑った。
「ああ、うん。正直、ちょっと楽しみだ」
「ほよ...!?」
「正面衝突なんて滅多にありませんからねぇ。教会の代行者は」
「代行者?なぁに?それ」
「そのまんまさ。神に代わって行う者。私たちも、裁かれかけたことありますよね、先生?」
「評定はランクB-〜B+と言ったところでしょうか...何にせよ、貴重な体験でした」
師弟は相変わらず、敵を思い出の一つとして消化しきっている。
「ともあれ、何より厄介なのは、ガウラ教会が代行者の保有および存在を認めていないことだ」
「ほよ...!?そ、それじゃあ、昨日捕まえた代行者は――――」
「ただの通り魔集団、という扱いになる。公安局も政府の一機関だから、教会が無関係と言い張ればそれで通ってしまうんだ。
さて、そういうわけだから、教会がまた代行者を送り込んで来るのは確定事項と見て間違いない」
「アタシたち、どうすればいいの?」
「安心したまえ。君たちに上乗せされる負担は少ない」
カナギアはニコッと微笑む。
「今日から、私と先生でミルノラの代行者を捕まえて回る。君たちは、私たちの取り零した代行者にだけ適宜対処して...アー。リズ。君にも任せよう。君は自動式な節があるからね。リハルト。リズを頼めるかい?」
「分かりました」
現状、戦闘時にリズと組めるメンバーは、大鎌の魔力吸収対象外である吸血鬼しかいない。
必然的に、編成は組み直しとなる。
「残り四人も二組に分かれるのが望ましい。そうだね...誰と一緒がいい?なんて、もう分かりきったことかな?フェルカ」
「ふぇ...」
「ふふ。仲良しさんね」
「とっつぁんも、勿論ウェルカムだろ?」
「――――」
「...おい?ユリム?」
再度呼ばれて、初めてユリムは我に返った。
「ユリムさん?どうしたんですか?」
「ああ...いや。特にこれといった事柄ではない。すまないな」
ユリムは隣から見上げて来るフェルカの頭を撫でて、彼女の不安を収めようとする。しかし、晴れない表情のユリムが、フェルカには気がかりなままだった。