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貞操の危機

 俺は、剣の腕が評価されて、僻地の駐屯地から一週間前に王宮へやって来たばかりだった。

 警備隊長の私室に呼び出されて、まさかと思ったのだが。


あの(・・)宰相閣下がお前を見初められた。こちらとしては、護衛にと所望されれば、断れん。来たばかりですまんが、行ってくれるか?」 

  

 ここに来てまだ日が浅いのに。

 宰相閣下は、いつ俺を見初めたのだろう?

 昨日の同僚との手合わせだろうか。

 隊長の言葉に、俺は舞い上がった。

 あの(・・)偉大な魔法使いで、国の英雄であられる宰相閣下に、俺の剣が認められたなんて感激だ!!

 今まで腐らずに腕を磨いてきて良かったー!!

 

 二十数年前、長い間人間を苦しめてきた魔王を倒し、世界を救ってくれたのは年若い魔法使いだった。

 その偉大な魔法使いこそが、若き日のミハイル=オーネイル、世界の英雄、トルーアの誇りである現宰相閣下だ。

 こんなにとんとん拍子に事が運ぶなんて!

 俺にもようやく運が向いてきたのかも知れない!


「もちろんです! 光栄です!! こんな俺でお役に立てるなら、喜んで行かせてもらいます!」


 俺は、もちろん承諾した。

 こんな栄誉なことはない。


「そうか! 承知してくれるか! いやー助かったよ。では、早速閣下の執務室へ向かってくれ。すまんな、あの御仁もこういう悪いクセが無ければ、本当にご立派な御方なのだが・・・」


「悪いクセですか?」


 肩を叩かれ、早々に部屋を押し出されながら言葉尻を捕えると、隊長は一瞬ギョっとした顔を見せた。


「・・・そうか、お前は来たばかりだったか・・・いや、何でもない、こっちのことだ。そうそう、宰相閣下に気に入られて、養子に迎えられた者もいると聞くぞ! これをチャンスと捉えれば、僥倖ではないか! 閣下に可愛がって貰えるよう精進しなさい!」


「はいっ!」


 俺は、意気揚々と閣下の執務室に向かったのだった。




 挨拶もそこそこに、トルーア国の誇りにいきなり執務室奥の部屋に引き込まれ、ベッドに押し倒された。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 一体何をしようって言うんですか?!」


 俺だって子供じゃないから察しはついたけれど、あまりにも意外な展開で確かめずにはいられない。

 

「何って、少々執務で疲れましたので、あなたをつまみ食いしようかと思いまして」


「つ、つまみ食い?! 俺を?! 真っ昼間から?! こんな場所で?!」


 何を当然のように言うのか!!

 俺は、休憩時間の茶菓子じゃねーし。

 っていうか、宰相閣下がそっち系の御方だったとは!!


「聞いていません! 俺は、そんな話一言も聞いていません!」


 俺が知らなかっただけで、王宮ではこれが常識なのか?!

 右も左も分からない新人部下に、だまし討ちのような真似をするなんて、卑怯じゃねーか!

 でも、そう言えば、見初めたとか、悪いクセとか・・・

 ああくそっ、そういうことか! 

 だから、警備隊長の口ぶりが重かったのかと今さらながらに気付く。

 でも、諦めきれず一縷の望みをかけて聞いてみた。


「閣下は俺の剣の腕を見込んで所望して下さったのではないのですか!?」 


「違います」


 瞬殺だった。


「そ、そんなっ!! でも、しかし、世界を救った偉大な魔法使いの宰相閣下ともあろう御方が、権力にものをいわせてこんな卑劣な真似をしていいわけがありません!!」

 

 俺も大人の男だ。

 軍隊という男ばっかりの組織の中にあって、女っ気がない地方の寂しい駐屯地などでは、見目のよい若い兵士が輪姦されたり、性欲を持て余した男同士が慰め合ったりするのを知ってる。

 自分の身を守る術は心得ているつもりだった。

 だけど、真っ昼間の王宮のど真ん中で、食われるなんて誰が想像出来るか!


「おかしなことを言いますね。世界を救った人間だからいいんじゃないですか。誰も私に文句は言えません。つまり、私はやりたい放題、ちなみに聞きますが、あなたの好物は?」


「はあ?!」


「考えてもごらんなさい、目の前にあなたの好物があったとします。あなたを咎める人間はいません。あなたはどうしますか? 当然食すでしょう?」


「俺は食べ物ではありません! 意志を持った人間なんです! お願いします、俺をここから帰して下さい!」


「それは無理な相談です。私の好物はあなたのような人間ですから、みすみす逃すはずがありません。それにねぇ、あなた、私のストライクゾーンのど真ん中なんですよ。好みの人間を目の前にして、私に食さないという選択肢はありません」

 

 マジっすか!!

 えーっと、俺に拒否権って・・・やっぱ、ないんだよね? 

 どうする、俺。

 

「や、やめて下さい! 俺は、ノーマルなんです、そういう趣味はないんです! 申し訳ありませんが、ご期待には添えません! 無理です!」


 とりあえず、その気はないと意思表示をして、必死でお願いしてみた。

 もしかしたら、俺がそっち系だと誤解したのかも知れないし。


「ああ、それなら大丈夫です。私の手にかかれば、どうこう言ってゴネても、最終的には自らが懇願するようになりますから。そうですねぇ、あなたは#初めて__・__#のようですので、特に優しく行うよう心がけましょう。安心して身を委ねてください」


 ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!






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