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放課後 小姫 役員報酬

第三話も。

 放課後になり、朝方響から言われた課外斡旋室に向かおうとした矢先のこと。


「電話……? 誰だ?」


 知らない番号が映る画面に首を傾げながら、恵介は通話ボタンを押して。


『あー、恵介? あたしあたし』

「随分古典的な手口だな」

『どこぞの詐欺と一緒にするな。あたしよ。小姫よ』

「知ってる」


 声を聞けば分かる。というか、昔から電話をかけてきた時の第一声が全く変わらないというのもどうかと思うが。


『この前はごめんね。急に押しかけちゃって』

「別にいい。あのあと押し寄せてきた寮生どもがうざかったが」

『なんか部屋の前にいっぱいいたものね。まああたしってば有名人だし』

「自覚があるならなぜ忍べなかったのか」

『昔馴染みに会いに行くのにどうしてコソコソする必要があるのよ』


 当然のことを言っているようだが、この島で自治会執行部長……一般的にいう生徒会長は、最高権力者の肩書だ。本土でいえば内閣総理大臣だ。新聞の隅に首相動静などと書かれるのが当たり前の立場だ。そんな人間があんな場末の男子寮に現れれば、そりゃ野次馬だって黙っちゃいないだろう。

 まあそんなことを気にも留めない性格は、これから先変わることもないのだろうが。


「……で? 今日は何の用だ?」

『いやね、急に副会長だなんて言われても困るだろうから、どうせなら仕事場の見学でも来ないかなーなんて。ぶっちゃけ、執行部人事もまだ未確定だから、いまほとんど人いなくて退屈なのよ』

「そういうことか。ちょっと遅くなってもいいなら行く」

『何か用事?』

「課外斡旋室にちょっと」

 

 その言葉に、小姫は不思議そうな声色で。


『え? なにあんたバイトするつもりなの?』

「うちのこと知ってるだろうが。稼がないと学費が無いんだよ」

『あー……そういうことね』

 

 恵介の家は母子家庭だった。祖父母は無く、唯一の肉親だった母も、二年前の春に他界。中学校時代は、母が残してくれた貯金を崩しつつ生活し、藤見ヶ崎に入学するにあたって住んでいた家などは全て引き払っていた。入学金などは貯金の残りで賄えたものの、やはりバイトなりで生計を立てないと生活が厳しいことは歴然で。


『それならあんた、なおさらこっち来なさいよ』

「どういうことだよ?」

『うちの奨学金あるのは知ってるでしょ? あれ、親無しだと中学時代の成績関係無しにほぼ通るから。あとは役員報酬が出るし、生活費はそこからまかなえるでしょ?』

「なにそれ聞いてない」


 聞いてないのは役員報酬の件である。奨学金については、入学後の説明会で聞いた。普通は入学前に一通りの手続きをするものなのだが、引越前のゴタゴタですっかり忘れていたために手続きは入学後。ただいま絶賛選考待ちである。


『報酬の件って言ってなかったっけ鈴?』


 そういえば言ってなかったかもですねー、などと後ろのほうで微かに聞こえる鈴香の声に、恵介はすっかり脱力してしまって。


『まあバイトもしたいっていうなら止めないけど、まずはこっち来て見学がてら茶でも飲んでいきなよ。斡旋室はいつでも行けるけど、うちは期限付きだよ』

「ふむ」


 そこまで言われると断る理由もない。待ち合わせ場所は零棟。島の中心部に位置する、小高い丘の上に建てられた三階建ての執行部庁舎に、恵介は向かうことにした。

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