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1.かくして普通の高校生は出逢う

syutaina様による異能力バトルファンタジー『終わりゆく世界と最後の願い』の公式(?)スピンオフ作品です。原作と時系列的には同じ話になります。原作主人公早乙女 明達以外の異能力者らの物語を作ろうという思い付きで原作者様と話した結果こうなりました。かなり私が好き勝手に設定やら人物、ストーリーを考えたので原作要素はどこえやら…… 原作キャラも基本登場しないので原作未読の方もお楽しみいただけると思います。


 あの日。

 全てを失ったあの日から僕の時間は止まったままだ。



 ☨ ☨ ☨



 この世界に神はいるか?

 そう問われたならば、僕はこう答えるだろう。


『いるよ。でも神は僕らを救ってはくれない』


 唐突に鳴り響いたチャイムが僕の思考を中断させた。ああ、そうだ、授業中だった。

 神奈川県立第三高校。僕が通うこの高校は自称進学校らしく公立でありながら土曜日授業もあるが代わりに荒れた生徒も少なく、僕は案外気に入っている。


ふーっ、と息を吐き出し、机に突っ伏す。

 平日昼間。勉強やスポーツ、交友に勤しむであろうこの時間を惰眠に費やす。これ以上の有意義な時間の使い方を僕は知らない。


佐雨さざめ君……佐雨六夜さざめりつや君……!」


 僕の名を呼ぶ声が聞こえた。どうやら眠りの国へ導いてくれるものではないらしい。

 面倒ながらも顔を上げると見覚えのある女子生徒が立っていた。クラスメイトだ。名前は忘れた。


「ん……どうかした?」


 何の用だろうか、と疑問符を浮かべる。


「日曜に先週の体育祭の打ち上げあるんだけど佐雨君は参加する? 佐雨君だけLINEとか連絡先わからなくて。他の人は大体来るみたいだけど」


「ああ……悪いけどその日は用事があるんだ。今回はパスで」


「りょーかい」


 用件を済ませると女子生徒は元いたであろうグループの輪に戻っていく。本当は僕が参加するかどうか何て彼女自身どうでもいいはずだ。それは僕にとっても同じわけだが。


打ち上げとか、授業とか、本当のところどうでもいい。

 そんなことは僕、佐雨六夜さざめりつやの目的からすれば些細なことに過ぎないのだから。



 ☨ ☨ ☨



 気の早い夏の温度が黒ずんだアスファルトに降っている。

授業を終えて帰路についた僕は、最寄りのバス停のベンチに背を預けていた。最寄り、と言っても校門を出て20分程歩かなければならない。そのせいか、そもそもバスを利用している生徒が少ないのかここのバス停はいつも閑散としている。

右手に持ったスマートフォンを操作するのにも違和感がなくなってきたと近頃は感じる。元々は左利きなのだが、とある理由から左手は常に空けるようにしているのだ。


「ふぅ……」


 まるで陽を遮らないバス停は暑い。7月ともなれば暑くなってくるのは当然か。スマホに繫がった黒のイヤホンから流れる機械音声のミュージックは僕の身体も心も冷やそうとはしてくれない。『世界を壊して―—』なんて馬鹿げた歌詞が軽快なメロディに乗って奏でられていた。


「世界を壊す、ねぇ」


 僕は独り呟いた。

 そんなことが出来るのか、疑問甚だしい。しかしこんなことを願う人は少なからずいるだろう。大半は冗談半分の戯言だろうが、きっと本気で世界の終焉を願う人はいるに違いない。

 何故そう思うのか。

 答えは単純だ。僕もその1人であるのだから。


 自分の両脚に目を落とす。

 服の上からではわからないが、僕の両脚はかつてあった僕の脚ではない。義足と呼ばれる人工物が僕を支えているのだ。慣れてしまえば歩くことや走ることに不便は感じない。

 両脚を失った原因は1年前、交通事故に遭ったからだ。トラックなど何台かの車が絡む大きなもので寧ろ生きているのが不思議なぐらいだった。


 しかし。


 僕が失ったのは脚だけではない。

 いや、そんなものは小さなものでしかない。


 あの時、僕は。


 かつての光景がフラッシュバックする。僕は思わず顔をしかめる。これ以上は良くない。そう判断して思考を投げ出す。

 

 ああ―—そうだ、世界を終わらせるために……僕はこんなことをしている場合じゃない。

 左手を握りしめる。僕の願いは、それを成し遂げる形を持ってこの手に宿っている。


 世界を終わらせる。

 そんな陳腐な言葉が妄言ではないことを僕は知っているのだ。何故なら―――—



『きゃっ』


 小さな悲鳴が僕の耳に届き、思考を中断させた。

 見ると、横断歩道の真ん中で女の子が倒れている。赤いランドセルを背負っていることから小学生だと窺える。何かの拍子に躓いて転んでしまったのだろう。

だが、問題はそんなことではなかった。


 女児の倒れている車道を猛スピードで走行して来る乗用車があることに気づいたのだ。


 横断歩道以外の信号は赤。女児に気づき減速する様子もない。おそらく、居眠り運転か急病による昏倒……だろう。

 女児は迫る危険に気づいていないようだ。怪我をしたのかその場に蹲ってしまっている。

 ……マズイ。近くに人がいない。助けられる可能性があるのは、僕ぐらいか。

 人のいないバス停を今日ばかりは恨みつつ、地を蹴る。ここから横断歩道までは……50mぐらいか。

 僕は一直線に駆ける。しかし暴走する車は下り坂という地形も相まって、人間の速度など軽々と超えてくる。


「ハァ、ハァ、クソっ……!」


 駄目だ、間に合わない!


 僕の頭に過去の記憶が蘇る。

 また。また助けられないのか。あの時と同じように僕の手は届かないのか。


 いや―—今は違う。

 僕は左腕を前へと伸ばし、休まず動かしている義足に目をやる。


「リミッター解……」


 そう言いかけた時、僕は横断歩道の脇から飛び出してくる人影を捉えた。

 

「なっ……!」


 綺麗な黒髪をなびかせた少女だった。その背には筒状の袋のようなものを背負っている。

少女は車道を駆けながら、その袋からある物を取り出した。

剣道で使われる竹刀だった。


何をする気なんだ、と疑問が浮かぶ。竹刀に殺傷能力はない。ましてや、高速で走行して来る鉄の塊を止める力などあるものか。だが僕はこの時、不思議と少女が無茶をしようとしているようには思えなかった。


 迫る暴走車を前に、少女は竹刀を構える。

武芸に詳しくない僕でもその構えには見覚えがあった。

姿勢を低くし、腰だめに剣を構える。

居合。抜刀術などと言われる類いのものである。


そして僕は、少女が紡ぐ『その言葉』を聞いた。



世界恩恵サーチバル――《明鏡止水一閃》……!」



 風や迫るエンジン音が啼き止んだと思ったのは錯覚だっただろうか。

 少女は音すら置き去りにして竹刀を一閃。


 そして次の瞬間には、車の前輪2つが同時に断ち切られていた。


 竹刀では到底つくはずのない傷を暴走車に与え、その衝撃で以て車の軌道を強制的に逸らしたのだ。前輪を失った暴走車は火花をあげつつ街路樹へと突っ込んだ。


 

少女は自分の得物を竹刀袋へとしまいつつ、女児に「大丈夫?」声をかけていた。

そして、道路に突っ立っている僕と目が合う。


 少女は「しまった」と声を漏らしつつ、そそくさと立ち去ろうとする。


「待ってくれ!」


 声を上げて彼女を呼び止める。


「な、なんでしょう? 今のことはで、出来れば見なかったことに……」


 慌てた様子で少女はもぞもぞと口を動かす。そりぁあ、あんな人間離れした芸当を見せられれば「あれは何だ」「どうやったんだ」などと問い詰めたくもなる。


 しかし、そんなことはどうでもよかった。

 僕は知っている。その言葉を、その力を。


世界恩恵サーチバル


「え?」


「あなたも、世界の破壊を願った人なのか?」


 僕は少女に問う。


「あなたもって……ということは君も?」


「ああ」


 ああ、まさかこんなところで出くわすとは。神ってのはつくづくよくわからない。


「僕もあなたと同じ、世界恩恵サーチバル保持者だ」


 かくして。

『世界を壊す』ボーイミーツガールは始まりを告げた。


 

 


拙い文ですが近日中に2話もアップしますのでよろしくお願いします<m(__)m>

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