しらばっくれる
A 「幻聴が紡ぐ言葉を其のまま書く。
俺には弱視があり、世界観は、音である。
音楽でもあり、言語でもある。
まばたきによって日常が彩られる人達とは違い、
俺は、日常のこまごました音によって生かされている。
貴殿にはこの違いが分かるだろうか。
俺には画像が無く、絵画も読めず、
日常の全てが音なのである。
その為に不便なこともある。
しかし不幸だと呪ったことがない。
なぜなら健常者とは別の、新しい世界を生きている。
そのように感じているからだ。
愛しい女の美醜を見ることが無い。
そっくりそのままの彼女は美しい。
声の調子で判断できることは山ほどある。
健康状態だってよく分かるんだ。
貴女には分かるだろうか。
俺がこよなく貴女を愛しているということが。
俺には分かっているのだろうか。
貴女がどんな表情をしているのかを」
B 「さあ、しらばっくれるのはもう終わりよ。
貴方の全ては表情に出るのだから。
取り繕ったことがないのか、貴方の考えは直ぐに分かる。
これからも一緒にいようって、
ずっと思っていてくれてるわよね。
しかしこうも考えてる。
貴方は永遠に、私のことを理解できないって。
無駄に愛想よくするのをやめなさい。
貴方の全ては、貴方に依存する。
これからも満足することがない。
キスをしたいと思っているということ。
身体を繋ぎたいと思っているということ。
そして本当の気持ちを分かっていないということ」
C 「貴方は彼女と同じような人間である。
永遠に、他者を完全に理解できるわけがない。
しかしそれらを責める必要はない。
なぜなら彼女も貴方を愛しているから。
この関係には終わりが無い。
だから大丈夫だ、愛しい子らよ」