足の裏くすぐり
うひぃ。ぞくっと足裏から背筋に走るくすぐったい感覚が僕を襲った。足裏、足指の間、そいつは僕のウィークポイントを突きまくった。「うぅ」思わず声がもれた。「もうダメ限界」足を水から引く、ガラルファは名残おしそうに水面から僕を見つめていた。
うひぃ。足裏くすぐったい。足のツボを押されているのだろうが、俺にとってはくすぐったいだけだった。「ねえ、僕、あんまり動かないでね」「は、はひぃ」思わず体を引いてしまう。ぐっぐっと足裏を押される。「ぶー、ふはは」もう、ダメダメ、「お母さんもう嫌だ、くすぐったすぎる……」お母さんはしょうがないわね、を肩をすくめて表現した。
うひぃ。うひぃ。思わず足を引っ込めた。「あ!ダメじゃん罰ゲームになんないじゃんか!」姉ちゃんは言った。「ごめん……」再度足を伸ばす。「ひい」指が触れた足裏の皮膚からくすぐったい波動が浸透してくる。「ひいひい」「1……2……3……」30秒は遥か先に思える。「いいいいいい」ひいひい。「うううう」「25……あっ!」足を引っ込めてしまう。また1から……。もう耐えられない!姉ちゃんを見ると嬉しそうにベロを出した。
ああ。靴に何か入り込んでいる。学校の全校集会の最中なのに、(うう)僕は右足の足裏を左足の脛に擦り付ける。(ああ、うう)身悶えるような、くすぐったさが僕を襲った。「あ!」くすぐったさのバイオリズムがピークに達し思わず声を出してしまった。って夢を見た。
筆が俺の足裏をなぞった。「くすぐった!」上下、踵から爪先、「どう?」「どうって? くすぐったいよ」クルクルと円を描くように、「う、いひぃ」今度はジグザグに「ヒィ」「よし、完成」右足裏には龍が描かれている。上手い具合に足の相が生かされていた。「どうかなあ?」「いやあ、くすぐったかった」「そういう事じゃなくてさ、絵よ絵アート? アートよ」「かっこいいとは思うけれど……やっぱりくすぐったい」「まあいいや左足出して」素直に出した左足に今度は虎が描かれた。もちろんくすぐったかった。ひいひい、うひうひ言ってしまった。
くすぐり選手権町内予選が開催されたのは年の瀬、親達が慌ただしく、暇を持て余していた週末の事だった。兄が僕をパートナーに誘ってきた。大会はKPを競い合う。そこで当代一のくすぐったがり屋の僕に白羽の矢が立った訳だ。来年には世界大会まで開催され日本一を決める夏の大会は民放各局が放送権をめぐり争っているらしい、今や町内予選とはいえメディアの注目は推して知るべきだ。「予選とは言え全力でいくぞ」気合は十分だ。大会当日。僕の側頭部に例の機械が取り付けられる、言わずと知れた『kpsm』だ。司会のおじいさんは呆けていて、進行のとちりも多く取材に来ていたメディア基幹は呆れ顔だ。時間はかなり押していたが、真打ち登場僕らの番だ。兄の努力、この日に向けて骨折せんばかりに、指の力を鍛えていたのを知っている。今や腕に匹敵する程太くなった指、これでくすぐられたら……。僕のKPは開始前からクライマックスバージョンだ。開始のKSFA公認のホイッスルが吹かれる。兄の指が僕の足裏に……突き刺さった。「痛あぁぁ!!」僕の絶叫が響き渡った。もちろんドクターストップだ。「鍛えすぎた!」兄は苦笑した。来年は足の裏を鍛えねば、と思う余裕は今の僕にはなかった。