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第3章 家族の食卓

さてお待たせしました。まあ、どれだけの人が待っているのやらですが。隔週連載3回目の「アルテ」第三章 家族の食卓をお送りいたします。

今回はいろいろ他が忙しかったので、詰める事ができませんでした。少し荒いですが、また、改める事もあろうと思いますので、ご容赦ください。

第三章 家族の食卓


 アルバートは夢を見た。

 アルバートは童話の中に出てくるような、小人になって森にいた。地面は枯葉が重なっていて、あちこちにどんぐりが、ばら撒かれたように落ちていた。たぶん季節は初冬だ。アルバートは目覚めると起き上がって歩き始めた。彼は歩き出すと、緑色のかわいい服を着て、先に玉が付いている帽子をかぶっている事に気が付いた。おまけにずいぶんと身長も縮んでいた。


 でも、特にアルバートは取り乱したり、わめいたりはしなかった。アルバートはそれよりも自由でいい気分になっていた。彼は枯葉の上をおもいきり走り、転がったりした。子どもの頃のような体の感覚と気分だった。


 アルバートは体を起こすと、目の前に子どもの頃に可愛がっていた。猟犬がいることに気が付いた。確か名前はシャリムと言ったはずだ。父さんの犬でピーターとアルバートがよく一緒になって遊んだ犬だった。ボルゾイ犬で白地に黒のぶちの混じった大きな犬だった。シャリムは少年期のピーターとアルバートの事を守ってくれた犬で、魚釣りや池で泳ぐ時には必ず付いてくるのだった。

 

 シャリムは物静かで、賢く、アルバートとピーターにとって特別な犬だったのだ。アルバートとピーターはシャリムのことが大好きだった。しかし、シャリムはアルバートがここを出る少し前に胃捻転で死んでいた。


 アルバートはなんとも懐かしい気分になって、手を伸ばし「おいで、シャリム」と話し掛けた。シャリムは首をかしげると、舌をだらりとだして、理解しているのかそうでないのか分からない犬がよく見せる表情をしていた。アルバートはその姿がとても愛くるしくて、彼はシャリムに近づくと、その首に抱きついた。しかし、アルバートはかつての愛犬の身体を抱擁する事は出来なかった。アルバートは空中を落ちていく感覚を味わった後に、下に落ちたのだった。

 

 アルバートはオレンジ花の匂いと、微かに他の何かが混じっている匂いがしている事に気が付いた。おまけに手にはごわごわとした布切れを掴んだ感触がしていた。アルバートは思っていた犬の体毛の感触や獣臭ではなかったので、それが何か確かめようと手で揉んだり、撫ぜてみたりした。とても柔らかな、すべすべとした感触がした。

 

 ここでようやくアルバートは目の前にいるのが犬のシャリムでなく、義姉のマリーである事に気が付いたのだった。アルバートはマリーの胸の辺りから、お腹の抱きついて弄っていたのだ。

 

 アルバートは寝ぼけとんでもない事をしてしまったのだった。アルバートは手を放すと、顔を上げてマリーを見た。マリーの瞳は小さく絞られて、驚きの表情が浮かんでいた。アルバートは慌てて後ろに後ずさった。マリーは立ち上がると乱れた服やエプロンを直した。アルバートも立ち上がった。


「すみません。義姉さん。ごめんなさい」

 マリーは「いえ、とても驚きました」と言った。その表情には朱がさしていた。アルバートも恥ずかしかった。「申し訳ありません」ともう一度謝った。

 アルバートはマリーの機嫌を損なってしまったのではないかと思ったが、それはない様子だった。


「いえ、別に解っています、そんなに謝る必要はありません。ちょっとしたアクシデントです」と言った。


 マリーはうつむきながらも、表情を見る事は出来なかったが、笑っているようであった。アルバートも少し穏やかになって、向こう側にいたマリーにはじめて心を通わせることが出来たような気持ちになった。


 しかし、マリーはすぐに仮面を被ったような表情をすると「アルバート様そろそろ晩餐の用意が整います。ご用意が出来ましたら食堂へいらしてください」と言った。

「ウィリアムは一緒ですよね、それと義姉さんあなたも晩餐をご一緒にどうでしょうか」と言ってみた。

 少し間があった。


「ウィリアム様はご一緒です。私は残念ながらご一緒出来ませんわ。使用人は後で別の部屋で食事を取る決まりとなっています。ほかに何か御用がありませんのなら私は失礼させていただきます」


 アルバートはがっかりした。それに自分の息子まで様付けして呼ぶなんて一体どういうつもりなのだろうか。


 アルバートは着替えると食堂へと向かった。

 1階にある食堂は、伯爵家の部屋の中でもエントランスと並んで贅を尽くしたつくりになっている。その一つが高価な薄い桜色をした大理石の使用である。


 大理石はテニスコート半面くらいの大きさがある食堂の壁の全面に使われ、アクセントに純白の大理石に掘り込んだ野の花のレリーフが一定の間隔で並びはめ込まれている。植物をモチーフにしているのは統一感を持たせるためである。床は強度と大理石を引き立てるために、薔薇石が使われ、天井には見事なシャンデリアが吊ってあった。

 

 アルバートがマリーに伴われて、入ってくると食堂はよく清掃され、鈴蘭や紫陽花などの季節の花で飾られていた。


 中央にあるオークの一枚板の大きな食卓には、磨きのかけられた大きな四つの銀の燭台には火が灯り、白いテーブルクロスがかけられ、銀の食器が準備され、食事が用意されようとしていた。もちろん今夜の食事はごく近しい人々とのものであり、堅苦しいものは無かったが、新しい当主の就任と帰還を祝うものであった。

 

 料理のコースは生ハムとアスパラ、イチジクのサラダに始まり、チキンコンソメ、魚料理はサーモンの炙りマヨネーズソース、シャーベットはクランベリーを使ったもの。そして肉料理は定番の鴨肉のオレンジソースで、デザートはピーチパイが供されるとお品書きまであった。食前酒はここで醸造されたワインだった。


 アルバートの好きな、きゅうりのサンドイッチと燻製類を盛った物がすでに、コースがはじまる前から出てきた。珍しい料理ではなかったが、ほとんどはこの近辺で採れたもので、食材は新鮮で丁寧に心をこめて調理されたものだった。アルバートは赤毛のローラの料理だなとすぐにわかった。ローラは住み込みの料理人で、サリアと仲がよく、子どもの頃から知っている人だった。


 アルバートは上座に座り、その右手にウィリアムが座った。後ろにはもちろんマリーが黙って立っていた。左手には彼の知らない。十歳くらいの少女が座りその隣にも椅子があったが、そこは空席だった。伯爵家の家族はアルバートを含めて四人、サリアは遠くにいて、マリーは席についてはいない。齢若いウィリアムだけがいるだけで、瀟洒で美しい調度品に囲まれていたが、なんとも寂しげな食卓だった。


 マリーは少女を立ち上がらせると「当家でお預かりしている。ジュリア・クラフトブルー嬢です。ジュリア嬢はアンナ様の従姉妹にあたる。スライデルの子爵家の息女であり、五年前から当家に身を寄せておられます。ここには同席していませんが、ジュリア嬢には同じくお預かりしています姉がおります。その者はまた明日、目通りさせましょう」と言った。


 紹介されて、緊張しているのかジュリアは手の辺りが震えていた。ジュリアは少し痩せているような感じだが、明るい金髪、肩で切りそろえられて、目は透き通るようなブルー、健康的で背の高い少女だった。たれ目で、唇の形がよく、落ち着いていて幼いながらも、精神的に成長しているとアルバートは印象を持った。ジュリアは貴族の令嬢らしく物静かで上品な感じがした。ジュリアは群青色の古風なドレスを着て、ドレスの胸の部分にはフクロウ模様の染め抜きがあった。


 スライデルの亡命貴族がアンナの遠縁にいた事は意外であったが、亡命者は珍しくない上に、貴族には国を超えた血縁関係も多く、不思議な事ではない。それに、所縁のある人たちを助けるのは当然のことでもあった。


 アルバートはスライデルに行った事もあり、音楽関係の知人もいたので、一般のスライデル人に対して敵意というものを持っていなかった。スライデルの政権は確かに敵ではあるが、スライデル人は単なる人間であって、色々な性格の人間がいるだけだと単純にアルバートは思っていたのだ。ただ、一般のラサミア人は彼とは意見が違ったであろう。


「当主様、初めてお目にかかります。お世話になっております、ジュリア・クラフトブルーです。これからよろしくお願いいたしますわ」

「よろしく、ミス・ジュリア、いや、フロイライン・ジュリアかな。なにか困った事があったらいつでも私に話してください。力になれるかわかりませんが」とアルバートは言った。


「はい、お気遣いありがとうございます。私たちはお世話になっている身ですから、単にジュリアと呼び捨てください」とジュリアは微笑んだ。

「いいえ、ジュリア自分を軽んじてはいけないよ。君は家族同然だからね。なら、ジュリーと呼んでもいいかな」

「はいっ、ありがとうございます」

「では、ジュリー、君のドレスの模様はふくろうかな?とてもめずらしい」

「はい、そうです」

「とてもかわいらしい」


「ええ、私もそう思っています。私の家の紋章の一部なんです」とジュリアはうれしそうに言った。

「なるほどクラフトブルー家の」

「私の家は、学者が多く、古くはあまり大きな声では言えませんけど、魔術師もいたようです。そうした人たちの象徴なんです。ふくろうは」とジュリアは言った。

アルバートはまばたきを多めにして、ジュリアを見た。それは、昔から魔術そのものが教会によって異端とされてきた上に、オカルト的な空想として嘲笑されてきたので、貴族の令嬢が自分の家に魔術師がいたなどと告白するのは少し奇妙な話だったのだ。


 そもそも、アルバートは魔道楽器と言われるリフォンの奏者で全く魔術を信じないわけではなかった。実際、科学はまだリフォンの仕組みと原理を解明できていない。だが、人の大方の意見は、教会の力が世俗に及ばなくなったと言っても、魔術師の話など、公の場では人格を疑われる類の話だった。


「魔術師というと、マジシャンでなくて、竜退治とか山を消し去ったとか、あの魔術師のことかな?まあ、子どもの頃に聞かされたけどね。実際にいたのかな」

「はい、私はいたと思います」とジュリアはためらいもなく言った。アルバートはこの返答に少し驚きながらも、先を促した。面白いと思ったのだ。


「なるほど、では、もっと説明してください。どうしてあなたがそう思うのか」

「ええ、証拠が有ります。私の家にはご先祖の残された、魔術の証が色々とあったんです。でも、逃げ出す時に、全部置いてきてしまって、そう、残っているのはこのドレスくらいなんです。このドレスはもう千年経っているけど、見てください。こんなにしっかりしているんですよ。このドレスは魔術がかかっているから劣化しないんだって」


 アルバートはジュリアが着ているドレスを見た。しかし、アルバートにはそれが千年の時を経たものであるかと言われると判別が付かなかった。


「ごめん、僕にはよくわからないな」とアルバートは正直に言った。

「そうですよね、残念です。でも、このドレスはとっても不思議なものなんです。私と姉様はもう何年もこれを着ているけど、汚れもしないし、色も変わらないし、ほつれたりもないんです」


「そう、確かにそれは不思議だ。たぶん君の言う通りなんだろう。魔道具というのは幾つか見たこともあし、それは信じる。でも、他の置いてきたという証を見てみたかったね」


「そうですね。それをお目にかければ。でも、姉様がお父様からそうした遺物の事を聞いた話だと、それを見ると人生が変わるくらい、ものすごい知恵が残された物だって言っていたって。私はそれにすごく惹き付けられてしまって、私はこう思うんです。魔術は人々を幸福にするためにあったものだったと私は思っています」と言いジュリアは少女らしく笑った。

 アルバートはなかなか面白いと思った。そしてある言葉を思い出した。

「『ミネルヴァのフクロウは黄昏に飛び立つ』という言葉を思い出したよ」

「えっ、なんですかミネルヴァのフクロウって?」

「人間の知恵や知性は暗い混迷の中にこそ生まれ、光り輝くという話さ。どっかの哲学者が言った事で、昔教わった先生の受け売りだけどね。魔術とはそういうものであったのかもね」

「そうなんですか、とても意味のある言葉ですね」

「そうだね。暗い時代こそ人は何かを求めるのかもね」

 

 ジュリアの話は意外であったが、彼女が見たとおりの知性があり、予想外に不思議な事を愛する可愛らしい少女である事がよくわかった。アルバートは良い出会いがあったと思った。


 正装をしたウィリアムがマリーに伴われて入ってくると、いきなり、躓き転びそうになった。アルバートは立ち上がって、自ら席を引いて着席させた。アルバートとウィリアムはほとんど初めて顔を会わせる事になったが、アルバートはしきりに緊張するウィリアムがおかしくもかわいらしくもあった。


 彼はアルバートに向って、貴族がめったにしないお辞儀をすると、笑顔で「ありがとうございます」とお礼を言った。変声期を迎えていない彼の声は、ボーイソプラノ的でなんとも言えない魅力があった。アルバートは一瞬でこの幼い甥に好意を持ったのだった。


 こうして前菜が運ばれ晩餐が始まった。アルバートの知らないメイド達が緊張の面持ちで料理を運んできた。彼女たちはアルバートを好奇を持った目で見てきた、アルバートはその女の子たちに微笑んで小さくお礼を言った。エドガーが食前酒を注いでくれた。


 食事ももちろん美味で料理人の腕とセンスを感じさせるものであったが、このちいさい甥の事が気にかかって仕方が無かった。ウィリアムはアルバートが見るところでは、母親譲りの金髪と緑眼を持ち、この家系を思わせる骨格を持っている子供であった。目元はピーターにとても似ていたし、後いくつか歳を重ねれば、人を惹きつけてやまない少年になるだろう事は容易に想像が出来た。


 しかし、アルバートが贔屓目で見た天使のような、ウィリアムはスープをこぼしてナプキンをひどく汚し、肉料理が下げられるまでに、ナイフを2回落としフォークも1回落としそのつどマリーが替えを持ってくる始末で要領は悪く、アルバートは何ともと思うのだった。ウィリアムはそのつど小声でマリーの詫びを言っていた。マリーの方も小声で何か怒っているのだが、その眼差しはいとおしくて仕方ないという感じであった。


 ウィリアムは食事の途中のことだが、何か心ここにあらずといった風にもなった。ウィリアムは焦点の結ばない目でどこか虚空を追っていたり、何かを思いつくと頷いていたりした。アルバートはそれを見て、ウィリアムが自分の世界を持った少年なのだと気が付いた。


アルバートはウィリアムの緊張が解けてくると色々会話をした。

「へえー伯父さんはリフォンを弾くんだ」

「うん、でも今はちょっと出来ないんだけどね・・・・・・」

「うん、それって僕はすこしだけわかります。そういう時って心が苦しんでいるんです」

 思わずアルバートは絶句した。ただ、それはただ流れでた言葉だった。ウィリアムは楽しそうに話し続けた。


「リフォンはメタリックな感じで僕は大好きです。形が大好き、ぼくもねえ昔習った事があるんだけど、難しくてだめだったんだ。でも伯父さんはすごいね演奏で人を感心させられるんだもの」

「そうでもないよ。僕にはこれしか出来ないよ」

「でも、たくさんの人を音楽で感動させる事ができます。それは人をここではないどこかへ連れて行けるってことです」


ふとウィリアムが言った言葉はまたアルバートを驚かせた

「そう、そうなんだ。リフォンの音は人を感動させ、人を全く違った世界へと連れて行ってしまわなければだめなんだよ。でも、そこに心が無ければだめなんだよ。技巧だけでは人を感動させる事は出来ないんだ。だから僕達、芸術家は出来るだけ自分たちが感動を経験するようにするんだ。そうだなわかりやすく言えば心を磨くんだよ。だって自分が感動を知らなければ観客を感動へと導けるわけ無いじゃないか?」

ウィリアムは目をぱちぱちとさせていた


「伯父さんの話なんだか難しいけど、感動というのはさあ、自分の心が驚いて、それからなんか熱くなってきてとっても楽しくなる事だよねえ、僕もさあ、なんか照れるけどさあそういう気持ちになることあるよ」


 アルバートはウィリアムの話に感心している自分に気がついた。やはりウィリアムは単なる鈍くさ者でなく、とても感性の豊かな少年だぞ、人の話を理解する能力もあるし、何より感動する精神を持ち合わせているのだ。


食事は終わりに近づきピーチパイが出た後でアルバートはコーヒーをウィリアムは紅茶を飲むことになった。

ウィリアムはそこで立ち上がると見てもらいたいものがあると言い、マリーが止めるのを聞かずに自分の部屋に何かを取りに行った。しばらくして、息を切らして戻ってくるとスッケチブックを見せた。


「えへへ、これ僕が書いた絵なんだ」

そこには館の周りの風景や動植物がまるで7歳の少年が書いたとは全く思えないほど力強く細密に情感を込めて書かれていた。アルバートはまたも驚いた。

「これは君が描いたの?僕には絵のことは良く分からないけど、すごいと思うよ。なんと言ったらいいかな、そう、物が正確に描写されていることも凄いんだが、線や陰に君の気持ちが投影されているような気がするよ」


「うん、僕さあ、絵を描いてるときが一番楽しくて、その描いているものから感じられる事全部描いてあげようと思うの、それで夢中に写しているとこうなるんだよ」

ウィリアムは楽しそうにこう話した。そして、しばらく二人は楽しく会話を続けた。ジュリアもウィリアムの絵には感心し、賛辞を述べた。


 食後の会話はアルバートが各国を旅して色々な事柄を見聞した話や困った事などに及び、盛り上がったが、そろそろウィリアムが寝る時間になったと言う事でお開きになった。


ウィリアムがハウスメイドに手を引かれて自室に戻って行き、アルバートも自室に戻ろうと食堂を出たときだった。マリーがアルバートを待っていたのだった。

マリーは複雑な顔をしていた。


「あの子が、その大変申し訳ありません」アルバートはこの発言に少し驚いた。アルバートは思った。別にウィリアムは何もしていないじゃないか、まあ、ナイフやフォークを落としたりはしたが親戚同士の晩餐だ別に堅苦しくなることもない。

「義姉さんウィリアムの事でしたら不快になんて感じていませんよ。僕は彼のことがとても気に入りました。とても感性の鋭い、豊かな才能を秘めている子どもだなと思いましたよ」


「そうでしょうか、私にはあの子が何を考えているのかわかりません。なにかを問い掛けても上の空だし、勉強もまるでだめ、それに何をやらせても失敗ばかりで、それに絵ばっかり描いているし、あの私が悪いんでしょうか、私がろくな教育も受けていないものだから、あの子もあんなふうに」


 アルバートはこれを聞いて思った。マリーはウィリアムの事が良く分かっていないのだと、ウィリアムは感じるままに、生きようとする子供である。しかし、マリーはウィリアムを型にはめて育てたいと思っているのかもしれない。このままでは、まずいなとアルバートは感じた


「ちょっと待ってくださいウィリアムはどこも悪くもないし、なにもおかしくなんかない。もちろん義姉さんもです。なんと言ったらいいでしょうか、彼はああいった子供なんですよ。彼が望むように才能と興味を伸ばしてあげる事が大事だと思いますよ」アルバートは果たして通じるかなと思いながらもこう言った。


「ええ、なんとなくは分かるんです。けど、私としてはせめて人並みになってくれたらと、でも、私としてもあの子をこの階級のなかで一人前にしてあげたいと思うんです。母親の事で悪く言われないようにしてあげたいと思んです」

 

 アルバートはもちろんマリーが息子を大切の想い。深く愛している事は分かっていた。しかし、アルバートは芸術家であったので、ウィリアムが優れた感性と稀な絵の才能を持った子供である事にばかり目が行ってしまっていた。アルバートも落ち着いた状況なら、言わない事を言った。


「ウィリアムはあなたの思い通りにはならないと思いますよ。彼のことを考えるなら、望むままにさせてあげるべきではないでしょうか」

「どうして、どうして、思い通りにならないなんてそんな事を言うんですか」マリーは震える声で言った。アルバートは自分が言い過ぎたことに気が付いた。

「すみません。それは言い過ぎました」

「私はあの子を愛しています。どうしてその事を分かってもらえないんですか」マリーは泣いていた。


「理解してないなんてそんなことはありません。あなたはとてもよくやっている。僕は少し離れて彼を見守ったらいいと思っただけですよ。確かに言い過ぎたかもしれませんが」

「私はただ分かって欲しいんです。それだけなんです」とマリーは繰り返した。そして、マリーは逃げていった。

 

 後にはアルバートが残された。マリーは不安定なのだ。確かにアルバートは言い過ぎたかも知れない。しかし、アルバートはそこまでマリーを傷つけてしまったのだろうか。彼はマリーを追うことを一瞬考えたが、やめたのだった。


今回もお読みくださいまして、ありがとうございました。食卓はその家族の情景をもっとも表すものだと思い、いろいろ書きました。スローな展開で申し訳ない。ようやく、次はヒロインが登場します。遅れてきたヒロインはどんなもんでしょう。乞うご期待です。また活動報告に今後の事も少し書いておきます。興味ある方はどうぞ。


次回は「第四章 その曲の名は」をお送りいたします。

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