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アルテ 第5章 その3

アルテ第五章をお送りいたします。今回も予定よりも分量が多くなったため。分割投稿にしました。


ここまでの簡単なあらすじ


戦争の差し迫る重苦しい時代。魔法楽器の奏者、アルバートは父と兄の死により、伯爵位を継承して、二度と戻らぬと思った故郷に帰ってきた。彼は芸術家として行き詰りを抱えもがいていた。忘れかけていた故郷で、彼はなぜかメイドのふりをする義姉とそりが合わなかったり、父親がわりの執事と再会したり、素直な甥と美術談義をしたり、魔法を信じる少女と話をしたりする。そして、彼は運命の出会いをする。

魔法楽器の天才的な才能を持つ少女との出会いはアルバートを変えていく、物語は新しい展開に入っていきます。

今回はお茶会と占いのお話。

第五章 苺摘みの少女 その3


 アルバートは驚きのあまり、リンを見つめてしまった。リンからは微かに薬湯のような匂いがしていた。


 しかし、人格の交代など本当なのだろうか、双子という事はないのだろうかとアルバートは思った。だが、アルテが冗談を言っているようには思えない。


「し失礼、はじめまして、そのミス・リンは家の家庭教師を?」

「ええ、いかにも、私は二年前にアマーストで学位を取得しまして、エドガーさんに頼まれて、ここに住み込んで、この二人の家庭教師をしています。もっとも、幾日かは大学の方へ出向いて講義もいくつかこなさなければなりませんが」リンはよどみなく話す。


「学位ですか」

「ええ、私はすでに三つの学位を取得しております。今月の終わりには医学の学位も授与されます。もっとも未成年ですから医師にはまだなれませんが」とリンは平然と言った。


 アルバートは学位についてよく分からなかったが、学位とは新しい発見は難しいとしても、その学問の先端にたどり着いたという称号であることを知っていた。それを、この十三歳の少女は既に幾つも得ているというのだ。にわかには信じられない話だ。


「その、ミス・アリスとドクター・リンは一体どういう、事になっているんですか?」

「敬称はいりませんよスラシュクロス卿、どういうこととは?つまり関係の事ですね」

「はい、そうです。ああ、私も敬称はいりません」


「そうですね。まず状態から説明しましょう。僕とアリスは別々の人格として、この一つの身体を共有しています。そして、お互いに交代して活動しているという事です。記憶に関しては共有したくないことはブロックできるようになっています」


「なるほど、しかし、失礼な言い方で申し訳ないですが、私はあなたのような人と会うのは初めてだ。その、どう言って良いか・・・・・・」アルバートは目の前に事態を理解するには、自分の認識を根本から変えなければならないと感じた。


「まあ、ただ、僕たちは生まれたときからこんな感じですよ。なら一つ入れ替わって見せましょうアリス!」とリンは口元を歪め、ククッと笑い。突然、座ったまま脱力し、瞬間飛び起きるように身体を起こした。


「ええっ、なななっ、あのあの、さっきはごめんなさい」とリンは頭を下げて、テーブルに音が出るくらい、頭をぶつけ、表情が一瞬、奇妙に平板になる。そして、目がリンに戻る。リンは頭をさすりながらアルバートを見た。


「ははっ、まったく、アリスの奴にはまいるなあ。君の痛みは僕の痛みなのに、とまあこんな訳ですよ。僕らは自分の意思で互いを入れ替える事が出来るんですよ。脱力して見せたの冗談で、普通に入れ替わる事ができるんです」と可笑しそうに笑った。

 

 アルバートはまるでホラー映画を観たような気分になって、


ジュリーとアルテを見た。アルテもジュリーも普通に話を聞いていた。

「あの、アルバートさん、あの驚かれてもぜんぜん不思議じゃないんですよ。私も姉様も始めはとっても驚いたんですから」ジュリーがアルバートの驚きに気が付いて、言った。

「そうだよ。いつ見たって、リン先生とアリスの入れ替わりは本当にびっくりするんですから」とアルテも言った。

 

 アルバートはアリスとリンという人格の同居を認めざるを得なかった。ただ、いくぶんの気味の悪さを感じながら。


「さあ、アルバートさん、今からお茶を淹れましょう。お菓子も十分ありますからね」リンは方目をつぶったままおかしそうに微笑んでアルバートを見た。

 お菓子がアルテによって運ばれてきた。リンは手馴れた手つきで紅茶を入れた。ウサギの柄の大皿には、スコーンとクッキー、それにサンドウィッチが並べられていた。ジャムと蜂蜜、クロッテッドクリームも並び、思い思いに小皿にお菓子を取り、お茶会が始まった。


 アルバートもスコーンを取り皿へ、ブルーベリーのジャムとクロッテドクリームをたっぷりと塗ると、ナイフで切り分け、フォークで口に運ぶ、美味い。ジャムもクリームも程よい甘さで、スコーンに良く合っていると思う。スコーンも実に良く焼けている。

「この、お菓子は誰が作ったのかな?」

「私よ」とアルテが手を上げ、笑った。

「確かに、姉さまは粉を練ったり、ジャムの火加減を見ていましたね」とジュリーが言う。


「まあね、でも、私も作ったってのは合っているじゃない」と軽口をたたく。

これはリンが作ったということだ。リンは黙っている。それにしても、アルバートは思う。リンという少女はここまで来ると化け物じみていると感じる。アルバートはリンと目が合う。リンはアリスとは比較にならないくらい深い目をしている。


「今日はアルバートさんもいるので、僕は占いをやろうかと思う。どうだろう」とリンが言い出した。

「占い?」

「ああ、僕の占いはよく当たるんだよ」

「いいわね占い」

「占い、いいと思いますわ」

「ふむ、では占いの道具を持ってくるとしよう。アルバートさん手伝っていただけますかな」

 

 アルバート二階のリンの、いやアリスとの部屋に行く、不思議な部屋だ。少女趣味のインテリアだが、三脚とカメラ、壁にはハーブが束ねて吊ってあり、棚には薬瓶が並んでいる。


 リンは棚から占い道具を引っ張り出し、アルバートに持たせる。木の箱だかなり重い。それをベットの脇のテーブルへと置き、開けると中には銀の器が入っていた。アルバートがそのまま持とうとすると、リンは「指紋が付くから触らないでください」と言い、一緒に入っていた。皮袋から玉を取り出す。こちらは、宝石で出来ているようだ。それを、付属の銀製の小さな皿に入れた。玉がかちゃかちゃと音を立てている。


「これをどうしたらいいのかな」

「そのまま箱ごと、下のテーブルへと持って行って、置いてください」アルバートは下へと箱を運んだ。


「これが、占いの道具ですか」ジュリーは興味深そうに言った。

「そのようだよ。私ははじめて見たけど、複雑そうだ」

「簡単ですよ。この玉は全部で二十六あります。玉にはそれぞれに意味があります。それをこの銀の器に転がし中の止まった位置で運勢を占うんです。銀盤占い(シルファレーテ)ですね」降りてきたリンは左手に小さな棒を持っていた。


「おもしろそうですね」とジュリーが言った。

「相変わらずリンはおかしなもの持っているわね」とアルテがつぶやいた。

リンは箱から銀盤を取り出し、ジュリーから生年月日やら色々と聞きだし、すぐさま七つの玉を組み合わせる。ここまでは占星術らしい。そして、銀盤の中に転がし入れ、リンが先に星の金具の付いた棒で銀盤の端を叩く。


 銀盤中には微妙な凹凸があり、単純には止まらない。宝玉はぶつかりながら、段々と止まって行く。止まった底には複雑な図案があり、文字が刻印されている。アルバートには全く分からないが、リンの言うにはマギアージュという魔法文字らしい。玉の止まった位置にはそれぞれ神々の名が付されていて、意味があり、それを読み取って、吉凶や行く末を占うものであるらしい。


「ほほう、これは興味深い結果が出た」とリンが言う。

「どんな結果ですか?」とジュリーが身を乗り出す。

「三つの玉が、未来、出会い、殉教という場所に入っている。他は、力、世界、変革、選択と出ている」


「つまり君には近々、運命的な出会いをするということになる。後は、それが世界、これは君自身かこの世界か分からないが、大きな変革をもたらすということだね」

「へーえ、そうですか。どんな出会いなんだろう」ジュリーは両手を合わせてうれしそうに言った。


「さあ、どうだろう。ただ殉教という目は正直、微妙だ。これは犠牲と教えに生きるという事でもあるからね」

「さて、次は誰を占おうか。アルバートさんは?」

「いや、私はけっこう、僕は占いなど信じないんだ」アルバートは気乗りがしなかった。このリンと言う少女にアルバートは占って欲しくなかった。


「ははっ、あなたは偶然や神秘を信じないということですか?」リンは意地悪そうに笑った。

「それは違いますよ。単に占いに対して疑問を感じているんです。だってこれは迷信じゃないですか、それを科学者のあなたがやっている。矛盾していますよ」


「あははははっ、いや、失礼。あなたが言われる事はもっともな話です。科学者が迷信に現を抜かす。だが、しかしですよ、別にいいじゃありませんか。占いだって人間の知恵の一つじゃないですか。科学だってそうだ。それに占いってやつはそんなに馬鹿に出来たもんでもないんです」


「リンさん、確かにそれはそうですが」

「占い一つで自分の未来に関心を持つということでいいじゃないですか。まあ、これが実は運命だと信じたりするのはさすがにまずいと思いますがね」とリンは言い。玉を組み合わせ始めた。


「あの、リンさん私はけっこうですよ」

「いえ、これはあなたの占いではないですよ。いい機会だから、この世界について占ってみようと思うんです。まあ見てなさい」と言うと七つの宝石を放った。球は回転しながら、銀盤の中で転がり、止まった。


「どうです」とジュリーが言った。アルテは黙って、腕を組み銀盤を覗いていた。

「玉がばらけていますね。世界、審判、終末、生贄、復活、死者、神意ですか。ああ、審判と復活ですがこれは・・・・・・黙示(アポカリプス*)を示している。しかし、だが」とリンは無言になり、食い入るように銀盤を見つめていた。


「まあ、その辺で世界の話はいいんじゃない?そこから先は聞かなくても分かりそう。それよりも私を占ってよ」とアルテが見かねて言った。

「確かに。読みにくい目がありました。すみません」


そしてリンはアルテを占った。またリンは沈黙し、奇妙な緊張感が場に流れた。

「女神、戴冠、巫女、黄金、流転、天使、世界ですね。そう・・・ですね。アルテ、すぐにもあなたは旅に出ます。そして、たぶんそこで大いなるこの世界の秘密に接触し、自分を・・・すみません。これ以上は言えません。でも、これは占いですからなると限らない。でも、アルテあなたに変なことを言いたくないんです」とリンは謝った。

リンの顔色が優れない。


「うん、別に良いよ、占いだしね。それよりさリン先生、私たちの両親は見つかりそう」とアルテは言った。

「ええ、ええ、それは良い方向に行くかもしれません。女神と天使がそろうことはそうないですから」リンは真っ白の顔して、顔から血の気が失せていた。

「そう、それは良かったわ。運があがるとは良い事だわ」

 

 アルテは占いに何かがあることは察したようだが、それを尋ねない事にするようだ。

アルバートも良くわからないが占いの続きは聞かない方がいいと感じた。よく分からないがこの場面は普通じゃない。

 

 リンはその後、気分が悪くなったと云い、一人二階へ消えた。銀盤はアルバートが上へ持ってリンの部屋の前に置いた。

 

 茶会はその後お開きになった。お菓子を残らず食べ終わると、二階に行ったままの、リンが降りてきた。いや、リンは既に居なく、着換えたアリスだった。

 

 アリスは小さな声でお礼を述べた。なんでも、ブラックベリーを摘んでいたら、転んでああなってしまったという話で、あそこに二時間も居たそうである。

アリスは写真機を持っていた。聞けばアリスは町の写真館の末娘で、写真が趣味なのだそうだ。一同は外の出て池を背に写真を撮った。

                   

                   *


 その後、離れに電話が上の屋敷からかかって来た。新しく入ってきた、野菜を取りにくるようにという話だった。アルバートはもう良い時間だったので、屋敷に戻ることにした。その帰りに野菜を持っていくことになった。アルテが行くことになり、二人は離れを出て、屋敷に向って歩き始めた。

 

 突然歩いていると森の階段でアルテが止まった。アルテは何か紙を読んでいたのだ。

「アルバートさん、そのお願いがあるんですけど」とアルテはこれまでになく思いつめた真剣な表情で言った。

「どうしたの?」

「私、あの、すぐにも、行かなければならないんです」

「一体どこへ?」

「リンシアです。私、お金も何も持っていないけど、あの国へどうしても行かなければならない理由が出来ました」

「なぜ、それは?もしかして」アルバートはさっきのリンの占いを思い出した。

「ああ、リン先生の占いとは関係ないんです。さっき取りに行った手紙、今開いたら」と手紙を差し出した。そこにはリンシアのスタンプが押されていた。内容は奇妙なものだった。


                                つづく


*アポカリプス 世界の終わり

ここまでお読みくださいましてありがとうございました。

次回は「旅立ち」をお送りいたします。

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