滅びろ彗星!
――私には幼なじみがいる。家が隣で、物心ついたころから一緒にいた幼なじみが。
幼なじみは男で、私は女。だけど私たちには恋愛は生まれなくて、むしろ兄弟のように育ってきた。
幼なじみは綺麗な顔をしていて、私はごくごく平々凡々な顔つき。
世間は皮肉なことに、いつもイケメンな幼なじみの周りにいるまるで金魚のフンのような私を、受け入れてくれる女子は少なかった。女子怖い。
けれど、例え上靴に画鋲を入れられようが、例え教科書に書かれている偉人が全員鼻毛を伸ばしていようが、例え私の持っているペンのインクを全て抜き取られていようが、家族も同然な幼なじみから、離れることが出来なかった。いじめがちゃちいということもあったけど。
それに、私と幼なじみは男女の関係にならないと強く思っていたから。
それなのに。
そんな、幼なじみが。
朝起きたら、横で寝ていた。
「……ちょっと、翔平」
「んー」
睫毛長いな、こんちくしょう。
こんな時にまでぐーすか寝ている翔平の図太さにいらっとくると共に、その綺麗な顔に目がいく。
「起きろバカ!」
「いてっ!」
頭突きを一発かまして、無理やり彼を起こす。
「……なんだよ夏子……ぉおおお?!」
一気に状況が分かったのか、翔平がガバッと起きる。
「ちょ、」
「うわっ、えっ?!」
「………は?」
……翔平が飛び起きて、私のベッドから出ようとした際、何故か私も引きずられるかのようにベッドから落ちそうになった。
その元凶を見ると、私の右手と翔平の左手が……ぴったりと繋がっていた。
「離してよ」
「いや、お前が離せよ」
「離してるけどアンタが離さないんでしょ」
「俺だって離してるんだよ」
ん?とお互い顔を見合わせる。そして、せーので体重をかける。
ぐぐぐ、と反対方向に引っ張ってみるものの、くっついたかのように手と手が離れない。
「なにこれ?!なんで離れないの?!ていうかなんで恋人繋ぎなわけ?!」
「……」
「そもそもなんでこんなことに……ってアンタ何考えてんの?!」
急に黙った翔平に、私は詰め寄った。
「……いや、まさか、な」
「なに!アンタこうなったの心当たりあるわけ?!」
「……あの、な。怒るなよ?」
「話の内容による」
ぐ、っと言葉を詰めた彼を左手で殴って諭す。
「……昨日、1000年に1度流れるっていう彗星があっただろ。それで……願っちゃったんだよな俺」
「はあ?」
目線を上げると、耳まで真っ赤な翔平が。
「……一生、夏子が俺から離れませんように、って……」
「……」
は、なに。乙女に流れ星に願い事を願っちゃったわけですか。ってちょっと待て。
「一生?!一生って……一生このままなわけ?!」
「……さぁ?」
「さぁ?ってアンタ!」
心なしか翔平が私の手を握る力が増した気がした。
……ちょっと、私の意志は?!嘘でしょ!
――それから、どうやっても離れない手に、私はこれからの人生を、早々に諦めた。
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実際ほくそ笑んでる翔平。
そして翔平のターンに(笑)