THE NEWS
俺の趣味はネットサーフィンだ。暇さえあればノートパソコンを広げて、サイトからサイトへと渡り歩いている。
しかし。しかし、だ。
俺はなにも、『ひきこもり』や『2ちゃんねらー』、あるいは『ヲタク』の類ではない。だから覗くサイトも所謂『秋葉系』とか『2ちゃんねる』、『出会い系サイト』なんかでは、断じて無い。
むしろ、俺が興味があるのは一つしかないのだ。
それは――――
『ニュース』、である。
時には新聞社のホームページを。またある時はテレビ局のホームページを。
俺はそこにニュースがあると思えば、どこだろうと覗く。見る。閲覧する。
特に地方や外国の新聞社にでもなると、世間にはあまり知られていない珍事件なども時々載っていて、かなり面白い。
折角世界中と繋がれる機械があるのだ。世界の今の現状を知ろうとするのは、当然の事だろう。というかそもそもネットとは、その為にあるものじゃないのか?
…………そんな事を思いながら、俺は今日もパソコンを開く。
「しかし――――最近はつまらんなぁ」
ニュースを見ていて思う。
あまり不謹慎なことは言いたくはないのだが、ニュース好きな俺としてはいまいち、というかかなり、刺激が無い。
「こう同じようなニュースが続くとなぁ……」
サイトの、最新ニュースの欄をクリックする。
だがやはり、出てくるニュースは俺の興味をそそらないものばかりだ。
少年が死亡少年が死亡少年が殺害少年を逮捕少女が死亡少女が犯罪少女を逮捕自殺自殺教師謝罪北朝鮮拉致謝罪天災土砂崩れ大雨地震自殺殺害竜巻校長戦争戦争戦争核兵器北朝鮮北朝鮮ミサイル戦争松阪松阪六十億移籍選挙教師教師自殺少女少年犯罪…………
「なんか面白いもん、ないもんかねぇ…………」
この世には少年犯罪に関するニュースと天災と北朝鮮に関してと松阪と学校問題しか無いのか、と思えてくる。もういい加減、その話題は飽きたってのに。
と、
俺がそう思っていると、また新たに、サイトに新しいニュースが舞い込んできたらしかった。画面に『NEW』の文字が点滅している。
「お、どれどれ」
俺は迷わず、その欄をクリックした。
(まぁどうせ話題なんてたかが知れてるけどな)
そう思いながら、表れたニュースに目を通してみる。
内容はこうだった。
『本日午後四時頃、〇〇県××市内で大規模な火事が発生。多数の死傷者が出たもよう――』
「あれ? ××市ってここじゃん。マジかよ」
そう思って、部屋の窓を開けて外を眺める。
だが、外は特に騒がしいという事もなく、サイレンの音もしない。
「っかしいな…………」
まぁ××市と言っても、平成の大合併によって規模はでかくなったのだ。この近くでは無いのだろう。
俺はまた机に座り直して、パソコンを見た。
「あ、また…………」
さっきの続報だろうか。また新たに、『NEW』の三文字が赤く光っていた。
俺はすぐにクリックし、内容を確認する。
『――調べによると、原因はガス爆発によるものだということで、付近の住民もその時の爆発音を聞いており――』
「ガス爆発か。今時珍しいな。今じゃあオール電化も多いのに」
なんて言ってる俺もアパートで一人暮らしの貧乏学生な身分だから、しっかりガス使ってんすけどね。
(俺も気を付けないとな…………)
なんて思いながら、続報を待つ。パソコンに表示されている時計を見ると、針は四時三十分を指していた。
たぶん次あたりで詳しい事が分かるだろう。もしかしたら映像とか、詳しい住所もあるかも……
「来た!!」
知らないうちに、俺はこの事件の虜になっていた。
もともと刺激的な事件を見ていなかったせいもあるし、事件がこの近くだというのが、事件の『リアルさ』を際立たせてくれている。
とにかく久しぶりに、俺はこの記事を楽しんでいた。
『事件の詳細』
内容はこうだった。俺は急いで、カーソルを走らせ画面を展開させる。
次の瞬間、記事の内容が画面に表れた。
『午後四時三十二分、〇〇県××市==町にあるアパートに住む立川博信(21)の部屋が爆発。これによりアパートが全焼し、少なくとも20人の死傷者がでている。なお、この爆発の原因はガス爆発と見られており、事故当時付近にはガスの匂いが漂っていたという証言が多数報告――――』
そこまで見た瞬間。
背後で轟音が鳴り響き、全身が焼けるような感覚に包まれる中、俺の視界は真っ白に染まっていった。
――――ふと気が付くと、俺はモニターの前にいた。
「あれ…………? いつからパソコンいじってたっけ」
何故か頭がはっきりしない。眠っていたのだろうか。
机を見ると、ノートパソコンは真っ黒な画面を映し出しながら、静かにそこに置かれていた。
「パソコンで何かしてたんだっけ?」
またニュースでも見ていたんだろうか。あぁ、それならありえる。最近のニュースはつまらないものばかりだから、きっとネットサーフィンに飽きて寝てしまったのだろう。
そう思って、『立川博信』と自分の名前が書かれたノートパソコンを閉じ、腕の時計を見た。
時間は午後四時三十一分。
部屋は何故か、ガス臭かった。
〈END〉