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静かな海(リメイク)  作者: 浮世雲のジュン


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第四十六話 進路の紙

この章は、雫が“未来”という言葉を初めて自分の手で触れる物語です。


進路希望調査の紙。

まだ書けない欄。

形にならない将来。


みんなが迷っている。

自分だけが曖昧なのではない。

そのことが、雫には少し安心だった。


図書室で向かい合って座る湊。

同じように紙を前にして、

同じようにまだ決まっていない。


未来は見えない。

でも、見えないものを前にしても、

前よりひとりではない。


雫はそのことを、

静かな午後の光の中で確かめていく。


第四十六話 進路の紙

週が明けると、学校で進路希望調査の紙が配られた。

教室の空気が、少しだけ重くなる。

桜井さんは「まだ決まってないんだけど!」と大げさに嘆き、三村くんは「未来って急に来る

な」と眠そうに言った。

みんな何かしら不安そうで、それが雫には少し安心でもあった。

自分だけが曖昧なのではないと分かるからだ。

放課後、雫は図書室へ行った。

窓際の席に進路希望調査の紙を広げる。

志望校。

将来の希望。

書く欄はあるのに、まだ言葉はそこまで追いついていない。

「書けた?」

湊が向かいに座りながら聞いた。

「全然」

雫が苦笑すると、湊も同じように紙を出した。

「俺も」

その一言で、少しだけ肩の力が抜ける。

「湊は決まってると思ってた」

「まさか」

湊は紙の端を指で押さえながら言った。

「本とか言葉に近いところがいいなとは思うけど、まだちゃんと形にはなってない」

雫はその答えに少しうれしくなった。

静かなものを好きな人が、ちゃんと自分の未来にもその静けさを求めている気がしたからだ。

「雫は?」

雫は少し考えてから、正直に言った。

「まだ分からない。……でも、急がせないものに近いところがいいのかも」

「急がせないもの?」

「うん。人でも、言葉でも、場所でも」

湊はその言葉を聞いて、小さくうなずいた。

「それ、雫らしいな」

その日、二人とも進路の紙は途中までしか書けなかった。

でも帰るとき、雫は少しだけ明るい気持ちだった。

分からないままでも、一緒に紙を前にできる相手がいることが、少しうれしかったからだ。

夜、ノートに書く。

未来はまだ見えない。

でも、見えないものを前にしても、前よりひとりではない感じがする。

雫はこの日、

“未来の不確かさ”を初めて誰かと共有しました。


進路の紙はまだ空白。

言葉は追いつかない。

でも、湊も同じように迷っている。


未来は急がせるものではなく、

静かに形を探すもの。


雫が言った

「急がせないものに近いところがいい」

という言葉は、

彼女自身の生き方の輪郭でもあった。


分からないままでもいい。

その紙を前にして、

隣に誰かがいるだけで、

未来は少しだけやわらかくなる。


雫はそのことを、

今日の図書室で静かに知った。


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