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静かな海(リメイク)  作者: 浮世雲のジュン


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第四十五話 祖母の写真

この章は、雫が“好き”という気持ちを

自分だけのものではなく、家族の記憶の中にも見つける物語です。


押し入れから出てきた小さな缶箱。

色の褪せた海辺の写真。

若いころの祖母と祖父。


派手な笑顔はないのに、

二人のあいだには静かな安心が流れている。


“息を急がなくていい相手も、好きのひとつだよ”


祖母のその言葉は、

雫が湊に感じてきたものと、まっすぐ重なっていく。


好きは、胸を焦がすだけのものではなく、

暮らしの中でそっと寄り添うものでもある。


雫はそのことを、

祖母の写真の中に見つけていく。


第四十五話 祖母の写真

土曜日の午後、押し入れの整理をしていた母が、小さな缶箱を見つけた。

「これ、おばあちゃんのだ」

居間のテーブルへ持ってくると、中には古い写真が何枚も入っていた。

色の褪せた海辺の写真。

若いころの祖母。

その隣に、少し照れたように立つ祖父。

「おじいちゃん?」

雫が写真を見つめると、母はうなずいた。

「若いころだね。まだ漁に出はじめたばかりの頃かな」

写真の祖母は、いまの記憶の中の祖母よりずっと若く、でも目のやさしさはそのままだった。

海を背にして立つ二人のあいだには、派手な笑顔はない。

それでも、ちゃんと並んでいることがうれしいみたいな空気があった。

「おばあちゃんね」

母が写真を指でそっとなぞる。

「昔、私に言ったことがあるの。“好きってね、どきどきするだけじゃないんだよ”って」

雫は顔を上げた。

「どういうこと?」

母は少し笑った。

「“この人の前だと、息を急がなくていい”って思えるのも、ひとつの好きなんだよ、って」

その言葉に、雫の胸の奥が静かに鳴った。

息を急がなくていい。

それは、自分がずっと湊に感じてきたことだった。

言葉になる前から、ずっとそこにあったもの。

「おばあちゃんらしいね」

雫が小さく言うと、母も笑った。

「ほんとにね。派手なことは何も言わないのに、大事なことだけ残すの」

写真の中の祖母は、海風の中で少しだけ目を細めている。

その表情を見ていると、好きという気持ちは、もしかしたらもっと暮らしに近いものなのかも

しれないと思えた。

大きな宣言ではなく、同じ景色の中で肩の力を抜けること。

同じ夕方を、静かに受け取れること。

その夜、雫はノートに書いた。

祖母は、“息を急がなくていい相手”も好きのひとつだと言った。

その言葉が、今の私の胸の中で、いちばん静かに光っている

雫はこの日、

“好き”という気持ちが自分だけのものではなく、

家族の時間にも静かに流れていたことを知りました。


祖母が言った

「息を急がなくていい相手」

という言葉。


それは、雫が湊に感じてきた

あの落ち着きと同じ場所にある。


恋は、胸を鳴らすだけではなく、

暮らしの中で肩の力を抜ける相手を見つけることでもある。


祖母の写真の中の静かな並び方は、

雫に“好きの未来の形”をそっと教えてくれた。


好きは、

大きく叫ぶものではなく、

静かに続いていくもの。


その静けさを、

雫は今日、初めて家族の記憶の中に見つけた。


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