表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かな海(リメイク)  作者: 浮世雲のジュン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/51

第九話 停電の夜

この章は、雫が“灯りを受け継いだ人”として

初めて誰かを安心させる場面です。


停電の夜は、子どもにとっても大人にとっても不安な時間。

けれど、暗闇の中で灯る小さな光は、

人の心を静かに落ち着かせてくれます。


祖母が守ってきた灯りが、

雫の手の中で再び息を吹き返す。


そんな“灯りの継承”を描いた章です。


第九話 停電の夜

その夜、空は夕方から不穏だった。

遠くで雷が鳴り、風が窓を揺らしている。

母は早めに雨戸を閉め、雫は洗濯物を部屋の中へ移した。

「また強くなってきたね」

母が言った直後、空が白く光った。

一拍遅れて、どん、と大きな音が響く。

そして次の瞬間、部屋の電気が消えた。

真っ暗になった居間で、母が小さく息をのんだ。

「停電……?」

雫の胸が一瞬だけ速く打つ。

けれどそのすぐあと、不思議なくらい手が先に動いた。

「お母さん、待ってて」

物置へ向かい、祖母のランタンを取る。

火を入れる手つきはまだぎこちない。それでも何とか芯に火が移り、やがてガラスの中でやわ

らかな灯りが揺れ始めた。

暗かった部屋に、ぽっと色が戻る。

母がその灯りを見て、ほっと息をついた。

「……おばあちゃんみたい」

雫は少し笑った。

「ちょっとだけね」

そのとき、玄関が慌ただしく叩かれた。

「雫ちゃん! いる?」

文子さんの声だった。

戸を開けると、雨の気配を背負った文子さんと、結菜が立っていた。結菜は泣きそうな顔で文

子さんの手を握っている。

「懐中電灯、電池切れちゃって。結菜が怖がっちゃってねえ」

結菜は雫の持つランタンを見るなり、目を見開いた。

「……あったかい」

それは灯りの色のことだと、雫にはすぐ分かった。

「入って」

雫がそう言うと、結菜は少しだけ文子さんの手を離した。

居間に四人集まると、雨音と風の音はまだ激しいのに、部屋の中だけ少し別の空間になった。

ランタンの灯りは大きくない。けれど、人の顔が見えるには十分だった。

結菜は雫のそばに座り、ランタンを見つめている。

「こわい?」

雫が小さく聞くと、結菜はうなずいた。

「うん」

雫は少し迷ってから、祖母に言われたことを思い出し、自分の言葉で言った。

「暗いの、無理に平気にならなくていいよ」

結菜が顔を上げる。

「でも、灯りがあれば大丈夫なこともあるから」

結菜はしばらく黙っていたが、やがてこくんとうなずいた。

母が台所から温かいお茶を運び、文子さんが「ありがたいわあ」と胸を撫で下ろす。

しばらくして、また玄関が鳴った。吉岡さんだった。

「みんな無事か」

「無事です」

吉岡さんはランタンを見ると、口元を少しだけゆるめた。

「似合ってるじゃないか」

雫は照れくさくなった。

停電は一時間ほどで戻った。

ぱっと天井の電気がついたとき、結菜が少し残念そうな顔をしたのが可笑しくて、みんなで

笑った。

明るさが戻ったあとも、雫はしばらくランタンを消せなかった。

その灯りはもう、祖母の記憶だけではなかった。

今夜、自分の手でも誰かを安心させた灯りになっていた。


停電の夜、雫は祖母のランタンに火を灯し、

その灯りで誰かを安心させることができました。


それは、祖母の真似ではなく、

雫自身の灯りとして生まれたものです。


怖さを知っているからこそ、

不安な人のそばにいられる。

そのやさしさが、雫の中に確かに育っていました。


結菜の「……あったかい」という言葉も、

吉岡さんの「似合ってるじゃないか」という言葉も、

雫が灯した光を認めるものでした。


そらは、この章の風をこう言っています。


――「灯りってね、受け継ぐときに一番あったかくなるんだよ。

   わらわら」


読んでくださり、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ