皮肉の分銅
消化試合。
セレスティーヌは国家転覆罪で投獄されたが、生活自体は何一つ不自由は無かった。
豪華な寝具、水魔法による水回り、整った食事。
貴族専用牢の中でも、最高級の高位貴族牢。
平民が泊まれる最高級のホテルよりも、遥かに格上のソレなのだ。
騒動の後。ノクタスと無事に婚約を結び、平民として初の王太子妃となるリーシャ。
そんな彼女が、これから牢に面会に訪れる事を看守から聞かされたセレスティーヌ。
────
「あらあら。平民風情が妃になれたのねぇ?」
「······護衛はここまでで良い、外で待ってて」
「しかし······この女は······」
「大丈夫、魔力封じの首輪を付けてるから。仮に無くても返り討ちに出来るからね」
護衛騎士の二人を外に出して牢の中でセレスティーヌと二人きりになるリーシャ。
「野蛮な辺境伯家の次男坊に、平民上がりの成り上がり騎士が護衛だなんて······身の丈に合ってて良いじゃない?」
護衛騎士の二人は辺境の護り神である、辺境伯家の次男ガリアン、豪商の息子だが、近衛騎士まで上り詰めたリニシウス。
二人とも王子ノクタスの親友でもある。
「辺境伯家に対する、その言い草······やっぱお前、王妃になる資格ないよ」
「必要ありませんわ、生まれた時から私が王妃であり、王妃が私を選んだのだから」
「······?」
公爵令嬢······王家に次ぐ第二の王家、その令嬢たる自分こそが次の王妃なのだとセレスティーヌは信じて疑わなかった。
「ふん、平民の一生の稼ぎをはたいても、この牢獄に入る事すら出来ないわ。私は公爵令嬢。どれだけ下の者を殺そうと、最悪でも修道院送りで済む。……待っていなさい、いつか必ずそこを出て、アンタを八つ裂きにしてやるから!」
真っ直ぐな瞳で、強かに······リーシャに対し、彼女は叫ぶ。
いつか修道院を出て、この人の婚約者を奪った売女をバラバラに引き裂くために······彼女は誓ったのだ。
しかしリーシャは何処までも無表情。そして冷たく氷る目でセレスティーヌを見据える。
「アルワデーラだっけ、実は皇帝と愛人の子だったらしいよ。それも、愛人側は自分の子だったとも知らず、アレは成長するにつれてその愛人に瓜二つになってきたみたいだね」
「え······? そ······そんなはず······」
「強欲な愛人の実家にバレれば、帝国は血みどろの権力闘争。だから帝国はアルワデーラを『王国で死なせる』ことにしたんだよ」
衝撃の真実に、セレスティーヌは目を丸くし、絶句する。
「アルワデーラの従者たちは、帝国直轄の暗殺部隊。王国の不手際でアレを死なせ、王国に圧力をかける魂胆だったみたいだけど。あと、暗殺部隊は国を出ようとした所を辺境伯家が全員始末してたみたいだよ」
「嘘をつくなぁ!平民がぁ!」
「帝国の使節団が来て言ってたから本当だよ?今回の件は全て不問にして、王国に有利な条約を結んでくれたし」
セレスティーヌは耳を塞ぎたくなる。自分は王子に捨てられ、皇帝の妾の子供に拾われた、その低度の女だと言われてるような物だからだ。
「あと修道院行きで済むと思ってるみたいだけど、修道院側は拒否したよ。建国以来、貴族令嬢が不祥事を起こした時の『お仕置き用』の場ではあっても、国家転覆を企てた本物の反逆者を入れる檻は御免だってさ」
セレスティーヌが縋る「修道院」という逃げ道も、リーシャが塞ぐ。
絶望するセレスティーヌに、リーシャは一枚の書類を見せる。
「これ、昨日の公式記録。『移送中に賊の襲撃を受け、騎士が賊を皆殺しにしたが、公爵令嬢は馬車から降りて、崖に転落死』。……ねえ、気づいた? この日付って昨日なんだよね。お前はもう、この世に存在しないことになってるんだよ」
セレスティーヌが頭上を見上げると、そこにはパーティー会場で見たあの「鈍色の分銅」が、天井を削りながら静かに浮いている。
「ひっ、許して……お願い、助け……!」
「死人に口なし。さようなら、昨日死んだ公爵令嬢さん」
ギギギ······!
リーシャが指を鳴らす。
逃げ場のない豪華な牢獄で、セレスティーヌは誰にも看取られることなく押し潰された。
▼▼▼▼
「うわ······これ片付けんの俺らだぜ······あの女、少しは考えてくれよ······」
「文句を垂れるな。きびきび働け」
文句を言うリニシウスと、注意するガリアン。リーシャの暴れた後始末は基本的にこの二人の役目だ。
「つーかリーシャが本気出せば、帝国なんか潰してくれそうだけどな」
「彼女は無益な殺生は好まぬ」
「どうだかぁ~······」
その後、二人は貴族牢の掃除を完璧に終え、翌日のリーシャとノクタスの結婚式に参列した。
修道院って日本史で言う、出家みたいな物だからなぁ。
格上スパダリ王族に婚約者いないのも違和感。




